GDPが伸びなければ国を守れない | 田母神俊雄オフィシャルブログ「志は高く、熱く燃える」Powered by Ameba

GDPが伸びなければ国を守れない

我が国は20年間も長期経済低迷が続き、今なお景気回復の兆しが見えない。GDPは20年前に比べて減少しているが、こんなことは人類の歴史上、初めてのことであるそうだ。国力は経済力によって支えられる。GDPが伸びなければ国力は衰退するばかりである。20年前には、我が国の国民一人当たりのGDPはアメリカを抜いて世界一になろうとしていた。これが今では世界の20数番目まで下がってしまった。GDP総額でも、かつては問題にしていなかった中国にさえ抜かれるという事態になっている。この20年間で、もし我が国のGDPが世界と同じように二倍になっていれば、すでに1000兆円を超えていることになる。そうなれば現在4兆7千億円ほどの防衛関係費も、GDPの1%として10兆円になる。自衛隊の戦力強化も出来たであろうし、中国の軍拡などに脅かされることもなかったであろう。


20年前、私が防衛省航空幕僚監部で自衛隊の防衛力整備、すなわち戦力造りに携わっている頃、中国の海軍、空軍など眼中になかった。圧倒的に自衛隊の戦力が優勢であり、「やれるんだったらやってみろ」と中国に言っても差し支えない状況だったのである。しかし、あれから20年間、中国は経済成長に伴い年間二桁以上の軍事力の拡張を続け、一方の自衛隊はといえば、ずっと軍縮を続けてきたのである。我が国の防衛力整備は対象国を見てこれに対して軍事バランスを取るという観点での防衛力整備が行われない。予算の都合が優先でGDPの1%程度の防衛予算が当てられ、その範囲内でアメリカへの付き合いとして防衛力整備が行われているのだ。結果として20年経った現時点で、かつては相手にならなかった中国海空軍の物理的戦闘力が我が国の海空自衛隊の戦力を上回ることになってしまったのである。現在、我が国周辺で中国海軍などが示威的な軍事行動を頻繁に繰り返すのは、中国の軍事的自信の現われなのである。


我が国が強い国になるためには、GDPを伸ばさなければならない。GDPが減っていく政治というのは、根本的に間違っていると言わざるを得ない。我が国はこの20年間「改革」の掛け声の下に、小さな政府を作ることが絶対善であるという認識で各種政策が実行されてきた。現在のようなデフレが継続する状況にあってもなお、小さな政府がいいと思っている国民も多い。しかし、デフレの状況下では国民が金を使わないので、政府が国民に代わって金を使ってやるしかない。現状を改善するには、公共事業を拡大したり、公務員として多くの失業者を雇ったりする以外には方法がないのである。財政が厳しいので公共事業を減らす、公務員を減らすといったら、それによって仕事を失った人たちはどうすればよいのか。結局それは、失業者を増やすだけであり、景気回復からは遠ざかることになる。そして税収は減少し、国の財政は一層悪化することになってしまう。しかし、我が国政府はこの十数年間、この方向で景気回復を目指してきたのである。十年以上も国家的実験をやって、回復の糸口が全く見えないような政策は間違っている。もうそろそろ方向を変換したらいいと思う。


公共事業を拡大し、公務員を増やす大きな政府を作るべきだ。



具体的には、政府が国債を発行し日本銀行に買い取ってもらうことがいいそうだ。一時的に借金は増えても、景気が回復すれば借金は返すことができる。経済のプラス成長の方向が生れるまで、国債を発行し続ければよい。積極財政が景気を回復する。この20年間で積極財政を取ろうとした、小渕総理や麻生総理のときに景気回復の兆しがあった。増税はインフレが加熱しそうなときに行うもので、デフレが続く現在のようなときには却って税収を減らしデフレを加速することになる。因みに改革や公務員削減もインフレ対策ではあってもデフレ対策にはならない。


こう言うと聞こえてきそうなのが「すでに我が国の借金は900兆円もあるのに、これ以上借金をしたら国が潰れる!」「子供や孫の時代に付けを残すべきでない!」とかいう情報戦争が仕掛けられる。しかし、我が国はギリシャのような破綻する状況にはない。青志社から出ている植草一秀氏の「日本の再生」を読んでいたら、900兆円の借金のうち500兆円以上は、建設国債や地方債など担保が取れているもので、担保の取れない国の借金は400兆円に満たないそうだ。一方、これに対し国の資産は700兆円近くもあるという。資産が借金より多い国がつぶれる心配はない。


改革と叫ばれるようになって策定された法律や政策によって、わが国民生活が良くなったと言えるようなものがあるのであろうか。悪くなったことばかりのような気がする。1980年代は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた時代であった。当時、世界最強といわれた日本がここまで凋落してしまった原因は何であろうか。それは日米構造協議や年次改革要望書の交換で、我が国がアメリカの要望を悉く受け入れ、日本的システムを壊してきたからだと思う。結果として我が国は、この20年間GDPが全く伸びていないのである。経済戦争の時代になって、我が国とアメリカの国益は衝突することが多い。アメリカはアメリカの国益のために要求する。国家としては当然のことであり、別にアメリカが悪いと言っているわけではない。国家とは、個人と違って徹底的に利己的な存在である。我が国がアメリカの言う通りしていたら損をすることが多い。しかし、国の守りをアメリカに依存していれば、ギリギリの交渉になればアメリカの言う通りにせざるを得ない。


TPPの参加など今後ともアメリカの言う通りにすれば、今のままデフレが継続し、我が国の企業は次から次へと外資に乗っ取られるであろう。


我が国は、良好な日米関係維持の努力をしながら、一歩ずつ国家の自立に向けて足を踏み出すべきである。自分の国を自分で守れないのは独立国ではない。独立国は自主防衛が基本なのだ。我が国の政治はそのことさえ忘れているが、国家の完全独立があって初めて国際社会で自己主張もできるというものだ。腹黒い国際社会にあって国家や国民にとって最良の政策を選択し、子供や孫の世代により良い国を残して行くためには自主防衛の体制を整える必要がある。そうでなければ今後ともアメリカや中国に異常な気を遣い、他国の思惑で国の政策が右往左往することになる。


いま我が国の政治は、GDPを伸ばすことに最大限努力を傾注しなければならない。GDPが伸びなければ国を守ることも出来なくなる。他の政策を遂行することも困難になる。学校を卒業しても二人に一人しか就職できないのもGDPが伸びないからである。そんな社会では、国民が希望を持って生きることが出来ない。デフレ下でも業績を伸ばしている企業があるとかテレビなどで報道されることがある。しかしそれは、他の企業の分を食っているだけである。企業として頑張るのは当然であるが、頑張る企業があればその分売り上げが減少する企業がある。景気全体の大きさを決めることが出来るのは「政府」と「日本銀行」だけである。GDPが伸びないのは日本国民の頑張りが足りないからではない。政治の努力が足りないのだ。GDPを伸ばすことは国民に対する政治の最大の責任である。