原発のない世界のヴァージョンの創造 | イージー・ゴーイング 山川健一

原発のない世界のヴァージョンの創造

ぼくらは今どこら辺りにいるのだろう、と日々考える。
原発から卒業する日までの長い道のりを歩いているぼくらが、どこら辺りまで来ることができたのだろうという意味だ。
ぼくはもう58歳で、デモに行っても最年長の部類である。放射性物質の半減期のことを考えれば一生無理なことはわかっているものの、しかし、世界が明るい光のほうへ進んでいるのを確かめてから死にたいものだと思う。

毎日ツイッターで情報収集するのが習慣になっているのだが、今日もネガティヴな事柄ばかりだ。昨年12月にセシウムが検出された明治粉ミルクで、また32ベクレルのセシウム検出された──というニュースが流れた。これは実は、前回セシウム汚染を出した粉ミルクと同じロットのもののようだ。しかしながら、まだ汚染した明治粉ミルク「ステップ」の未回収品があり市場に流通しているのだとしたら、これはこれで大きな問題であり企業の責任が問われるだろうと思う。

三重県松阪市の山中市長は28日の記者会見で、「年間2000トンの瓦礫受け入れ検討中」 だと述べた。(3月28日配信 <共同通信>)。「松坂牛も、もう終わりか」というツイートを見た。http://news.nifty.com/cs/headline/detail/kyodo-2012032801001267/1.htm 食べられるものがなくなっていく。

東京電力は、来月以降に契約の更新を迎える23万件余りのうち、90%近くが値上げの合意に至っていないことを明らかにした。そして、電気料金値上げに同意しない企業に対し「電気供給を止める」 と脅しをかけている。17%値上げに応じなかったら電気を止めると言っている。おまえ(東電)のせいで個人も企業もどれくらい迷惑していると思っているんだよ! われわれは、こんなヤクザも真っ青な鬼畜企業に原発を扱わせていたのだ。http://bit.ly/GV4D8u

こんなレスもいただいた。↓

tetu_no_oyome@Yamakawakenichi 東電さんにはきのうの電話をかけたのですが、契約終了後合意できなかったら電気止めるといわれました。中小企業である我が社の社長、ブチギレてました。値上げ分不払い&訴訟の方向を打ち出した川口商工会に賛同しました。

26日午前8時半ごろ、東京電力福島第一原子力発電所で、タンクの配管から、高い濃度の放射性ストロンチウムを含む汚染水が漏れて、およそ80リットルが海に流れ出た。120トンの汚染水が漏れたのに、海に流出したのは80リットルだという発表だ。子供だってこんなの信用しないだろう。

細野豪志原発相は北九州小倉駅前での瓦礫受け入れ要請のビラ配り中に、受け入れ反対の女性に向かって「みんな被爆してるんですよ!」と言ったのだそうだ。こんな輩が政治家でございますとは情けない話だ。@kikko_no_blogさんは"「みんな被曝しているのだから九州の人たちも被曝覚悟で瓦礫を受け入れろ」という意味ですね"とツイートしている。

民主党の前原政調会長は、講演で「54基のうち、一つだけ動いている泊原発が5月5日に停止する」と説明したうえで、「それまでには原発の再稼働が計られるのではないか」と見通しを示した。ストレステストの結果が妥当と評価された大飯原発3、4号機や、評価がまもなく終了する伊方原発3号機を念頭にした発言とみられる。東電福島第一の事故が進行中で、4号炉の建屋の問題で皆が絶望的な気分と戦っている時に、なんという大馬鹿者なのだろうか。

今夜ツイッターを見ただけでも、これだけの不合理な情報に接しなければならないのだ。これは先刻もツイートしたが、「毎日新聞が暴いた原子力ムラの異常さ」 を読むと、怒りで体が震えそうになる。でも、これは読んだほうがいい。↓
http://blogos.com/article/35068/

問題なのは、これだけの異常事態が1年以上もつづき、しかしぼくら全員があきらめるわけにはいかないのだということだ。「ツイートして、デモへ行って、署名して…でも何も動かないじゃん」という疲れが皆にたまってきているのだろうと思う。

ぼくは東北芸術工科大学文芸学科の講義で、編集についても話している。「編集のアーキテクチャ」というコンセプトの講義だ。これを敷衍すれば、ぼくらは「原発のない世界」「編集」しなければならないのだと思う。そして、それは可能だと思うのだ。

アーキテクチャとは、ハードウェア、OS、ネットワーク、アプリケーションソフトなどの基本設計や設計思想のこと。元来、建築学における設計術あるいは建築様式を表していたのが、コンピュータ用語として用いられるようになった。あるいは人間の行為を制約したりある方向へ誘導したりするようなメディアの構造、あるいは実際の社会の構造もアーキテクチャなのである。

CODE―インターネットの合法・違法・プライバシー/ローレンス レッシグ
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ローレンス・レッシグは、著書『CODE—インターネットの合法・違法・プライバシー』において、人間の行動を制約するものとして、法律、規範、市場、アーキテクチャの4つを挙げた。

法律=取締りと刑罰によって行動を制約する。
規範=道徳を社会の全員に教え込んで行動を制約する。
市場=課税や補助金などで価格を上下させて行動を誘導する。
アーキテクチャ=社会の設計を変えることで人間の行動を誘導する。

社会の仕組み、あるいは価値観を変えたり選択肢を選びやすくする(ある行動を採ることが不快になるようにするetc)など、環境に変えることにより、社会の成員が自発的に一定の行動を選ぶように誘導することが可能である。これは法律的な取り締まりを行ったり、子供たちに規範を教育するよりも安いコストで社会を変化させることができる。

これをぼくは「編集のアーキテクチャ」「アーキテクチャとしての編集」と呼ぶことにしたのである。

原発のない未来、赤ん坊がのびのびと安心しながら育つ社会、アコギな役人や電力会社の役員達がのさばらない社会。そんな価値観を育て、具体的な選択肢を用意することが大事なのだ。すると、社会の成員が自発的にポジティヴな方向へ向かっていくに違いない。

細野や前原や野田首相といった政治家は極悪人であるから、子供達は見習ってはいけないよ。経産省は大魔王殿なんだよ、東電は悪の巣窟なんだよ──みんなカッコ悪いんだよという空気を育てつづけなければならないのだとぼくは思う。遠回りなようでいながら、それが近道だ。 そして、アーキテクチャによる変革にはコストもかからないのである。ぼくら市民にはぴったりだ。

ストーンズの「ストリートファイティング・マン」「金のないガキにできるのはR&Rバンドで歌うことだけ」というの歌詞があった。 金のないぼくらにできるのは、ツイートすることだけ。デモに行くだけ。署名するだけ。でも、みんなでやればそれだってパワーになるはずだ。

世界制作の方法 (ちくま学芸文庫)/ネルソン グッドマン
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『世界制作の方法』(1975年)において、ネルソン・グッドマンは「人間はヴァージョンを制作することによって世界を制作する」という主張を行った。編集とは新しい「ヴァージョン」を提出することにより、世界を「創造」することなのである。

ぼくらは原発のない世界のヴァージョンを創造しなければならない。

最初の話に戻るが、ぼくらはどこら辺りまで来ているのだろう? 
道は遠い? 
かもね。
しかし、歩き切らなければならない。
もしかしたら、ぼくらの小さな斧(ボブ・マーレィ)は、原発という巨木を切り倒す直前にまで来ているのかもしれないよ。