民主党執行部が提示した付則18条の修正案を精読する→「デフレ下の増税弾力的実施条項」? | 中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba

民主党執行部が提示した付則18条の修正案を精読する→「デフレ下の増税弾力的実施条項」?

秘書です。
今朝の読売新聞に掲載されていた「景気弾力条項」(付則18条)は以下の通りです。


消費税率の引き上げに当たっては、経済状況を好転させることを条件として実施するため、物価が持続的に下落する状況からの脱却及び経済の活性化に向けて、2011年度から20年度までの平均において名目の経済成長率で3%程度かつ実質の経済成長率で2%程度を目指した望ましい経済成長の在り方に早期に近づけるための総合的な施策の実施その他の必要な措置を講ずる。

2 この法律の公布後、消費税率の引き上げに当たっての経済状況の判断を行うとともに、経済財政状況の激変にも柔軟に対応する観点から、第2条(14年4月に8%)及び第3条(15年10月に10%)に規定する消費税率の引き上げに係る改正規定のそれぞれの施行前に、経済状況の好転について、名目及び実質の経済成長率、物価動向等、種々の経済指標を確認し、前項の措置を踏まえつつ、経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる。


→これは「デフレ下の増税弾力的実施条項!」ですね。精読してみましょう。

(1)まず、全体構成ですが、なんで2つに分けているのでしょうか?これは成長率の数字と増税の停止条件とを切り離すためですね。だから、文章を2つに分けています。2つの文章のうち、前半は数字の入った努力規定で、後半が停止条件規定です。

(2)次に、前半の努力規定ですが、この努力規定自体も、増税実施の段階では努力が実っているのか実っていないのか分からないようにしてあります。詳細に見てみましょう。

前半の文章の最初と最後をつなげてよんでみましょう。


「消費税率の引き上げに当たっては、経済状況を好転させることを条件として実施するため・・・総合的な施策の実施その他の必要な措置を講ずる。」

となります。つまり、ここでは経済状況を好転させる条件を書いているわけではありません。具体的な条件は後半に出てきます。消費税率の引き上げに当たって「総合的な施策の実施その他の必要な措置を講ずる」と努力規定が書いてあるだけです。

では、どんな「総合的な施策の実施その他の必要な措置」をするのでしょうか?


「物価が持続的に下落する状況からの脱却及び経済の活性化に向けて、2011年度から20年度までの平均において名目の経済成長率で3%程度かつ実質の経済成長率で2%程度を目指した望ましい経済成長の在り方に早期に近づけるための」総合的な施策の実施その他の必要な措置を講ずる。

ここに出てくる名目3%程度成長、実質2%程度成長という数字は、2011年度から2020年度までの平均であり、2014年度、2015年度の増税実施時期には、達成できているかどうかは分からない、2020年にならなければ分からない数字です。

そこに「望ましい経済成長の在り方に早期に近づけるための」という言葉をいれていますが、2014年度の増税実施までに「早期に近づく」というのは何%成長程度のことなのかがわかりません。明確なことは「近づけるため」であって、2014年度までに名目3%、実質2%成長達成をうたっているわけではないということです。

(3)さらに、経済状況の好転について書いた後半を見てみましょう。まず、文章の最初と最後をつなげてみましょう。


「この法律の公布後、消費税率の引き上げに当たっての経済状況の判断を行うとともに、経済財政状況の激変にも柔軟に対応する観点から・・・その施行の停止を含め所要の措置を講ずる」

「消費税率の引き上げに当たっての経済状況の判断を行うとともに」と「経済財政状況の激変にも柔軟に対応する観点から」が並立になっているのはなぜでしょう。財政が入っていることがポイントなのか?

まさか、「消費税率の引き上げに当たっての経済状況の判断を行う」と、「経済財政状況の激変にも柔軟に対応する観点から、第2条(14年4月に8%)及び第3条(15年10月に10%)に規定する消費税率の引き上げに係る改正規定のそれぞれの施行前に、経済状況の好転について、名目及び実質の経済成長率、物価動向等、種々の経済指標を確認し、前項の措置を踏まえつつ、経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる」が並立になっている?

そうだとすると、「その施行の停止を含め所要の措置を講ずる」のは経済財政状況の激変のときだけになりますね。

では、具体的に、「その施行の停止を含め所要の措置を講ずる」のはどういうときか。


「経済状況の好転について、名目及び実質の経済成長率、物価動向等、種々の経済指標を確認し、前項の措置を踏まえつつ、経済状況等を総合的に勘案した上で」

ここでは、「経済状況の好転」については、「名目及び実質の経済成長率、物価動向等、種々の経済指標を確認」することになっています。つまり「経済状況の好転」は前半に出てくる名目・実質の経済成長率だけでは判断できないことを明確に示しています。「種々の経済指標を確認」することになっています。つまり、名目・実質成長率が悪くても、増税できるようになっています。

さらに、経済状況の好転の確認だけが増税停止の条件ではありません。


「前項の措置を踏まえつつ、経済状況等を総合的に勘案した上で」

となっていますので、前半の努力規定にしたがって政府が努力をしていれば経済指標がよくなくても増税できるかもしれないし、さらに、「経済状況等を総合的に勘案」ですから、経済以外の要素を「等」を口実にできる。つまり、デフレ下でも「政治判断」で増税ができるようになっていると考えられます。

→よって、デフレ下でも「政治判断」で増税が実施できる「デフレ下の増税弾力的実施条項」というべきなのでは?




(景気と増税)「経済状況好転」と「景気回復」は似て非なるものである
2008-12-21 21:55:18
http://ameblo.jp/nakagawahidenao/entry-10181229977.html

・・・
他にも、国会議員定数削減などやるべきことはたくさんあるが、何よりも大事なのは経済状況である。

今朝のテレビ番組でも述べたが、国民目線の「景気回復」と、いまのところ増税の前提条件となっている「経済状況好転」が全く違う。

「経済状況好転」を増税条件にすると、国民の感覚では景気のどん底で、需要不足がピークの時点で、増税可能となる。

経済が降り坂から反転した直後、デフレ圧力が大きいときに「経済が上り坂だから」という理由だけで増税するということだ。これは「景気が良くなってから増税」というのとは全く違う。

ある国で、失業率が3%から10%まで悪化したあと、ちょっと景気が良くなり失業率が9%になったら増税可能というようなものだ。国民目線では、景気のどん底だ。

例えていえば、風邪の症状がよくなったところで冷水を浴びせるようなもので、日本経済が重度の肺炎になってしまうのではなだろうか。

物価の安定(消費者物価1-2%、名目成長率でいえば3%以上になるだろう)の安定軌道に乗る前に、増税をすれば、景気は二番底に向かうだろう。

誰が生み出した言葉なのか知らないが「経済状況好転」の意味は、「景気回復」とは似て非なるものである。今週、政府・与党は本当に、「経済状況好転」という名の「景気のどん底」で増税をする決定をするのだろうか。(12月21日記)


(参考)「経済状況の好転」についての2011年3月9日の衆議院内閣委員会の問答


○中川(秀)委員 ・・・では、さらに伺いますが、あなたが増税のよりどころとする税法の附則百四条、これは、「法制上の措置を講ずる」とか、そういういろいろなことが書かれているところですが、「経済状況を好転させることを前提として、」と明記しております。この前提条件にはデフレの終結は含まれるのですか。

○与謝野国務大臣 百四条のお話だと思いますけれども、これは、デフレという言葉は使っておりません

 そこで、あの百四条に書いてある経済という言葉をどう解釈すべきかということで、今論文をつくっております。それは、消費税を増税した場合、消費者の心理に対する影響、消費者の行動に対する影響、マクロ経済的な影響、そういうものをすべて研究した上で、経済の回復を待ってということをどういうふうに解釈するかということは量的、質的に御提示できると思います。

○中川(秀)委員 あなたは、平成二十一年の一月二十六日の参議院の予算委員会、つまり一昨年の予算委員会ですが、経済状況の好転について、こう答えておられますね。当時は違うお立場ではいらっしゃったけれども。一説は潜在成長力を考えたらどうかとかいろいろな説があったけれども、やはり税制改正をするときはすぐれて総合的な政治判断、総合的な経済状況の判断によるということであって、細かい数字ももちろん必要ですけれども、この数字に依拠するというよりは政治としての大きな判断、これは景気回復であって消費税をお願いすることができるという政治的、経済的判断というものが基礎になっていると思っています、こう答えておられます。覚えておられると思います。

 この政治的判断、政治としての大きな判断というのは何なんでしょうか。今の御答弁なら、量としても、数字としても、経済状況の好転の基準というものを何か示せるという御答弁に聞こえましたが、前には違うことをお答えになっています。前の答弁だと、何の基準もなく、政治的状況を見てやってしまえということにとれますが、今の御答弁はちょっと違いますけれども、そこをはっきりしてください。

○与謝野国務大臣 最初の部分、よく聞こえなかったので、少し間違った答弁になるかもしれませんが。

 結局は、税をどうするかというのは、最終的には政治家の総合判断であると思っております。しかし、その総合的な判断をする前に、これは消費税に限らず、所得税、法人税等主要な税制を変えた場合国民の生活、国民の経済にどういう影響があるのかということはやはり分析、解析をしておかなければならないと思っております。

 したがいまして、今回も、税・社会保障一体改革を行うに当たっては、やはり、税が変化した場合、特に消費税が変化した場合国民の生活、経済にどういう影響を及ぼすかということは量的、質的に検討していかなければならない。しかし、税をどうするかということは、すぐれて政治の判断でございまして、最終的には、政治家の判断、決断によるものだと私は思っております。

○中川(秀)委員 それでは、ちょっと聞き方を国民生活へと変えますが、国民生活への影響を質的、量的に判断しなきゃいけないということですが、国民生活への影響を質的、量的にというのはもう一つイメージが、経済理論でいうとわかるようなわからないような説明なんですよ。大ざっぱ過ぎるんです。

 そこで、あなた自身が今までやったことの中で、もう少し具体的に、経済学として、経済政策として確認をさせていただきます。

 二十年の十二月の二十四日、つまり、もう三年前になりましょうか、あなたはまだ経済財政担当大臣でいらっしゃった。そのときに閣議決定をした中期プログラムがあります。持続可能な社会保障構築とその安定財源確保に向けた中期プログラム、これは大臣が担当されたものですよ。

 この中に「経済状況の好転後に実施する税制抜本改革の三原則」というのがうたわれています。御担当だったから覚えていると思いますが。これは、現在あなたが進めようとしている税制抜本改革の原則なんでしょうか。

 三原則の中の原則の二という中に、もっと経済政策そのもののコアのところなんですが、「改革の実施に当たっては、景気回復過程の状況と国際経済の動向等を見極め、潜在成長率の発揮が見込まれる段階に達しているかなどを判断基準」としているんです。原則の第二。これはあなたが直接担当されたんですよ。文書に書いているんですよ。

 ここにある「潜在成長率の発揮が見込まれる段階に達しているかなどを判断基準」、これは現在も有効な判断基準なのかどうか、これをお伺いします。

○与謝野国務大臣 もちろん、そうでございます


○中川(秀)委員 これは今、明確な御答弁をいただいたと思います。

 では、当時の経済財政諮問会議、当時は経済財政諮問会議があったんですよ。担当大臣はあなたですね。この経済財政諮問会議で配付された中期プログラム関連経済財政諮問会議有識者議員提出資料等には、潜在成長率到達点という考え方が出ているんです。そして、この潜在成長率到達点というのは、デフレギャップが最大となる点と一致するんです。これも経済学の常識であります。そして、過去の平均値でずっと見ると、この一致点というのは景気の谷のちょうど一年後なんですよ。これは経済学を研究している人だったら皆わかることです。つまり、デフレギャップが最大でも増税できるということになるんです、理屈は。

 もう一回言いますと、さっきも、潜在成長率到達点というものが見込まれる、今度もそれは原則になるとおっしゃったが、その到達点というものは、デフレギャップが最大になる点と現実には一致するんです。しかも、それは大体景気の谷の一年後なんです。これは恐らく、私もここで言う以上は外の批判もちゃんと受ける覚悟で申し上げているから、経済学をやっている者ならわかります。そういうことになると、デフレギャップが最大でも増税できるということになります。

 そこでお尋ねですが、この潜在成長率到達点、これは税法の附則百四条にある経済状況の好転を判断する際の基準となるんでしょうか。

与謝野国務大臣 政治の判断というのは、ある種の政治家の総合判断であって、税法、百四条の方は景気の回復を待ってと書いてありまして、どういう観点から判断されるんだろうと

 これはやはり財政の状況あるいは税制の抜本改革が総合的に国民の生活や国民の経済にどのような影響を与えるかということを考えるので、余り、学問的な思考というよりは、実際上あるいは実務上の難しい判断であるけれども、判断として判断が存在するんだろうと私は思っております。

○中川(秀)委員 二十年の十二月に担当大臣として閣議決定した中期プログラムに三原則を掲げて、「潜在成長率の発揮が見込まれる」、そういう判断基準までうたわれた。それは今度の判断基準にも有効な判断基準だと御答弁になった。しかし、詰めていくと、結局何だかわからない、そういう御答弁のような気がいたしますね。

 それでは、現在の景気の判断において、百四条に定める経済状況の好転の条件を満たしているとお考えですか、政治的な判断として。

○与謝野国務大臣 下振れリスクは多数存在いたしますが、ディフュージョンインデックスあるいはその他の経済統計を見てみますと、横ばいながら少しずつ明るい兆しが見えてきたというのが私の印象でございます。

○中川(秀)委員 それは発表される月例経済報告の繰り返しにしかすぎないので、私の直接的な、では税法の附則百四条に定める経済状況の好転の条件を満たしているのかという御質問には全然お答えになっていませんね。

 あなたは、二月の十八日の夜、BSフジの番組で、社会保障と税の一体改革に関連して、消費税率一七%への引き上げを提言している経済団体、たしか同友会だったと思いますが、その案に対して、ちょっと高過ぎるというか、企業としての責任を逃げている感じがすると指摘したと報道されております。あなたは何を根拠にちょっと高過ぎると言っているのか、企業としての責任を逃げているというのは何を意味しているのか。

○与謝野国務大臣 税というのは、机の上で計算するのはとても簡単ですけれども、税の提案をするということ自体相当な作業でありますし、その案を国民に理解していただくというのはさらに難しい作業であるわけでございます。

 したがいまして、どんな案であれ、政治的にこなせるかどうか、政治的に消化できるかということも極めて大事な観点であって、ただこれだけ必要だからこれだけにしますということだけでは済まないものを含んでいる、私はそういう点を申し上げたわけでございます。


→与謝野さんなき与謝野路線を現在も歩み続けてますね、民主党政権は。

2011-02-10 18:10:15
経済状況好転してます?:税制改正法付則104条の前提条件は崩れてませんか?
http://ameblo.jp/nakagawahidenao/entry-10796477285.html

2011-02-16 11:49:38
経済状況好転?:トリッキーな解釈で「デフレ下の増税」をするのでしょう。
http://ameblo.jp/nakagawahidenao/entry-10803006621.html

2011-06-17 23:38:00
消費税の前提条件の「経済状況の好転」って何でしょう?
http://ameblo.jp/nakagawahidenao/entry-10926563182.html

2011-06-20 13:46:00
増税への執念?
http://ameblo.jp/nakagawahidenao/entry-10929100968.html

2011-08-28 09:44:00
「経済状況の好転」=景気のどん底近辺です。ご用心
http://ameblo.jp/nakagawahidenao/entry-10999997123.html


2011-08-18 20:09:00
「あまりにも来年、景気が悪かったら増税はできない」→税法附則104条「経済状況好転」との関係は」
http://ameblo.jp/nakagawahidenao/entry-10990189870.html


→経済状況の好転が、デフレ下の増税弾力的実施条項であることは、今で始まったことでなし