現在進行形の被曝から子どもたちを守れ~ふくしま集団疎開裁判報告会 | 民の声新聞

現在進行形の被曝から子どもたちを守れ~ふくしま集団疎開裁判報告会

昨年6月から法廷闘争が続いている「ふくしま集団疎開裁判」。全国から支援を受け注目されているが、一審の郡山地裁は訴えを却下、仙台高裁での争いに舞台は変わった。23日には、弁護団を率いている柳原敏夫弁護士と、意見書を書いた琉球大学の矢ヶ崎克馬名誉教授が都内で講演。福島の子どもたちを取り巻く環境の危険性を解説、裁判へのさらなる支援を呼びかけた。原発事故から1年が過ぎ、被曝への危機感が薄れ始めている福島にあって、裁判の長期化は決して得策ではない。この瞬間にも進行している子どもたちの被曝。一日も早い勝利に向けた想いを聞いた。


【半年に一度は甲状腺の検査を】

「福島の子どもたちが今もなお、放射性セシウムによる細胞切断を受け続けているんです」

たんぽぽ舎(東京都千代田区)を初めて訪れたという、琉球大学の矢ヶ崎克馬名誉教授は、静かに、しかし怒りに満ちた声で講演を始めた。

1986年のチェルノブイリ原発事故で被害を受けたウクライナ・ルギヌイ地区と福島・中通りが汚染状況が似ていることに着目。ウクライナでは、年間被曝線量が5mSV以上を「移住義務地域」、1~5mSVを「移住権利地域」を定めているが、ルギヌイ地区では両地域を合わせても面積の13%であるのに対し、福島市では実に33%、郡山市でもルギヌイ地区を上回る面積がこれにあたるという。

「チェルノブイリ周辺を調べることが福島の子どもたちの現状にたどり着く近道だと思ったが、予想以上だった。福島の方がむしろ、汚染は酷いと言っていい。しかし、日本政府は年間被曝限度量を20mSVに引き上げてしまった。日本人は原発事故が起きると他国より20倍、体力が増すのか?政府は国民の生命を守ろうとしていない。東電と政府の責任をいかに軽くするか、そればかり考えている」

ルギヌイ地区では事故後、感染症や新生児の先天性障害の増加、老化の早まりなどの影響が確認されたという。老化の進行に伴って寿命も短縮し、男性で15年、女性でも5-8年短くなったとのデータを紹介した。

今年2月に仙台高裁に提出した意見書では、福島県が1月に発表した甲状腺検査結果に触れ、警鐘を鳴らしている。同検査では、南相馬市、川俣町、浪江町、飯舘村の4市町村の子ども(18歳以下)3765人のうち、実に30.4%で5ミリ以下のしこりか20ミリ以下ののう胞(腫瘍)が見つかっている。

これに衝撃を受けた矢ヶ崎名誉教授は「私は大変な結果が出たと思う。〝ミスター100mSV〟山下大先生(山下俊一福島県立医科大学副学長)が『被曝の影響は何も出ていない。次の検査は2年後で良い』などと言っているが、とんでもない間違い。被曝が続いている以上、いずれ悪性腫瘍に変わる可能性もあるわけで、長くても半年に一回は検査をするべきだ」と強く批判した。

「電力がみんなが使うのだからある程度の犠牲はしょうがない、なんて受忍の強制ですよ。よくぞそんなことがずっとやられてきたなと思う」と講演をを締めくくった矢ヶ崎名誉教授。「福島の子どもたちを健康被害に遭わせないためにも、一緒に闘っていきましょう」と呼びかけた。

民の声新聞-矢ヶ崎先生
内部被曝について講演した矢ヶ崎名誉教授。

ふくしま集団疎開裁判では何度も意見書を提出

している


【来月、2週間かけて福島を調査】

在沖米軍が1995年、沖縄県・鳥島に1520発もの劣化ウラン弾を誤射する事件を機に、内部被曝に関する研究を始めたという矢ヶ崎さん。裁判の弁護団は「チェルノブイリと福島を科学的に結び付けてくれる、金鉱のような存在」と全幅の信頼を置く。

来月には、2週間かけて福島県内を回り、子どもたちを被曝から守るために何をするべきか、調査するという。「1.0μSV以下なら安全なんて言う人がいるんですか?驚きました。政府や行政から安全だと言われ続けているんですからね。そのつけが全部、住民に回されるのに…今や『被曝の危険』という言葉すら口にできない社会的プレッシャーが福島にはありますからね」とため息をついた。

国や行政が原発事故による健康被害を否定し続けるなか、矢ヶ崎さんのもとには各地から健康被害の報告が寄せられている。東京・町田市の5歳児は事故後、鼻血や下痢が頻発するようになり、時には25-30分間にわたって「水道の蛇口を前回にしたような」鼻血を出すほどだという。
アメリカでもチェルノブイリ事故直後、免疫低下が拡大、AIDSによる死者が急増したという。日本でも原爆投下の5年後から小児がんが増え始め、ピーク時には戦前の7倍にまで達した。その背景に、原爆によって拡散した放射性物質を口にした乳牛から作られたミルクの存在があるとの報告がある。それらを受け、矢ヶ崎名誉教授は「来年あたりからますます健康被害が現れると危惧している。長い闘いになるが、ICRP(国際放射線防護委員会)体制によって被曝が隠されることのないよう、子どもたちを守っていきたい」と話した。

民の声新聞-高線量の郡山
依然として放射線量が高い郡山市。

市教委は「着実に線量は下がっている」と話すが、

1.0μSVを超す場所は少なくない


【「疑わしきは保護する」の予防原則で】

裁判は昨年6月24日、年間被曝線量が1mSV以下の安全な環境で教育を受けられるように行政の責任での集団疎開を求めて、郡山市内の小中学生14人が市を相手取って起こした。

一審の郡山地裁は昨年12月、野田首相が福島原発の「冷温停止宣言」をした日に、訴えを却下した。弁護団は線量などを科学的に分析して子どもたちの置かれている環境の危険性を唱えたが、郡山市はそれらをすべて「不知」(積極的に争わず、しかし相手の主張も認めない態度)として、科学論争に応じなかった。裁判所も矢ヶ崎名誉教授らの意見書は全て黙殺された。「挙げ句には、年100mSV以下なら問題ないという、審理では一度も議論になっていない主張を裁判長は持ち出して訴えを却下した。裁判のイロハを踏みにじる行為だ」(柳原敏夫弁護士)

争いの舞台は仙台高裁に移されが、郡山市は今月17日、反論の答弁書を提出した。

答弁書では、3割の子どもにしこりが見つかったという検査は、原発周辺自治体で郡山市より線量が高い、チェルノブイリ事故の場合は食品規制などが遅れた結果、甲状腺がんなどが増えた。今回は被曝防護のために様々な対処をしてきた、チェルノブイリ原発周辺で健康被害が広がったのは、過剰な避難によるストレスが原因とするロシア政府の報告書もある─などと反論しているという。これまで科学論争には応じなかった同市だが、答弁書では年間被曝量100mSVにも「危険性については十分な疫学的データが無い」と触れている。弁護団ではさらに内容を精査し、5/20の期限までに反論書を提出する。

柳原弁護士は、福島県内に広まりつつあるあきらめや放射線量への慣れについて「やはり、具体的な健康被害が続々と報告されないと実感されないのかもしれない。そもそもストレスやノイローゼが体調を崩すと言うが、赤ちゃんが放射性物質でノイローゼになるだろうか」と表情を曇らせた。「法廷闘争が長期化してしまっていることは、誠に不本意なこと。しかし、チェルノブイリ事故でも汚染マップが公表されるまでに5年もかかっている。のんびり構えるつもりはなく不本意だが、なるべく早く疎開を勝ち取りたい」と決意を示した。弁護団の立ち位置は「疑わしきは保護する」の予防原則。その言葉を胸に争いは続く。
民の声新聞-開成山公園で遊ぶ女児
〝ホットスポット〟開成山公園で遊ぶ女児。

原発事故から1年経ち、公園には子どもたちの

姿が見られるようになったが、線量は依然として

高い

(了)