『ルパン三世』について語ろうず | エンタメ演劇の劇作家演出家の奇妙な日常

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O-MATSURI企画merrymaker主宰。 脚本家・演出家。 ドイツ文学修士(ゲーテ『ファウスト』)。 元・演劇集団キャラメルボックス脚本演出補。(過去作はいくつか、ブクログにて電子出版してます。 http://p.booklog.jp/users/kumabetti )

 突然ですが、『ルパン三世』です。

 なぜ『ルパン三世』について語るのかについて、特に合理的な脈絡はないです。
 あと、ルパン三世の歴史について語る気もないです。その手のことが知りたかったら、Wikipediaをご参照のことね。

 その昔、某劇団に所属していた頃、人によっては☆と呼び、人によってはメカと呼ぶ、某先輩が稽古場に黒いPowerBookを持ち込んできまして。なにを思ったか、休憩時間にDVDを再生し始めたのです。そのタイトルは、

ルパン三世「カリオストロの城」 [Blu-ray]/山田康雄,増山江威子,小林清志

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 大体からして某劇団は、もともとジブリ好きが多く、かみか…川上先輩(仮名)がDVD再生し始めて、気になって覗き込んでくる人が多数。僕もご多分にもれず覗きこみ、ぼそっと小さく、とても聞き取れないであろう音量でつぶやいたがしかし、当然それは、某メカ様の地獄イヤーには拾われてしまったわけであり。

「なんだ、カリオストロか」
「なんだとはなんだ。ルパン嫌いなのか?」
「いや、むしろ好きです。そのルパン好きな僕からすると、カリオストロは邪道です」
「なんだと! ええい、お前なんぞ、俺の自慢の黒いPowerBookのモニタを覗き込むんじゃない」
「えっ。何だその反応は! こどもですかあなたは!」
「ええいうるさいうるさい、非国民め! あっちへ行けい!」

 ……だいたいフィクションですが、こんな感じの会話がなされました。実にほのぼのとした稽古場ですね。

 全然話は変わりますが、その昔、週刊少年ジャンプのいちばん後ろに掲載されているジャンプ放送局という読者参加型ページに出ていた、本業は声優で、代表作は『サクラ大戦』という、横山智佐さんという方がいらっしゃったのですが、彼女は、『ルパンに会いたくて』という本を出しているとおり、アニメのルパン三世に恋をして、ルパン三世と共演したいがために声優になった、と公言してはばからなかった方なのですが、その彼女が恋をしたルパン三世というのが、要するにこれまた、

ルパン三世 - カリオストロの城 [DVD]/山田康雄

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 なわけですよ。(……DVDとBluray、100円くらいしか違わないのか)

 ここで断言しておこう。

 「僕は、『ルパン三世 カリオストロの城』を、正当なルパン三世だと、思っていない!」

 ばーん。どどーん。

 ……うん、まあたいしたことでもなかったですね。いかにも、原作の『ルパン三世』が好きな人間にありがちな、ついでに、TVシリーズでのなんかいろいろあったっぽいお家事情とか知ってる人が言いそうな感じがするのですが、僕あまりその手のゴシップ知らないので、よくわからないです。
 ただ、『ルパン三世』については小さい頃からずっと好きで、故・山田康雄氏のモノマネは、僕らが小学生の頃はクラスの男子は全員一度はやったことがあるほどの大人気レパートリーでした。僕は銭形警部が得意です。ダミ声ね。
 要するになにが言いたいのかというと、小さな頃から見ていて、特に細かい理屈とか裏事情とかまったく関係なく、純粋に好きでいられた作品、の一つ、ということなんだろうと思います。

 そんな僕にとっての、『ルパン三世』映画ランキング。

一位:『ルパン三世 ルパンVS複製人間』
二位:『ルパン三世 バビロンの黄金伝説』
三位:『ルパン三世 DEAD OR ALIVE』
四位:『ルパン三世 カリオストロの城』

 えっ、しっかり『カリオストロ』は四位に入ってるじゃねえか! というツッコミも別に聞こえてはきませんが、まあ、そりゃそうですよ。映画版って、あとは他に『くたばれ!ノストラダムス』と、『風魔一族の陰謀』しかないんだもん。幻の実写版『念力珍作戦』とか入れてもしょうがないし。
 というわけで、「ルパン三世の映画」でランキングを作ると、こうなるのはもはや僕の中では必然なわけです。

 じゃあなんでこれ、そんなにも『カリオストロ』が嫌いなの? みたいなことを聞かれても、嫌いとかじゃなくて、他のはちゃんとルパンだけど、『カリオストロ』はあれはルパンじゃないから、としか言いようがない。
 あれは、『ルパン三世』の皮を被った『未来少年コナン』ですよ。

・ルパンが、怪盗でも義賊でもなんでもなく、ただのいいおじさん。
・銭形のとっつぁんが、弱すぎる。
・銭形のとっつぁんが、ルパン逮捕よりも優先させるものがこの世の中にあるとは思えない。
・五右衛門の存在感がなさすぎ。
・次元が愛用のマグナム以外の武器を平気でぶっぱなしまくるのが変。
・ルパン三世が「お宝」を手に入れないとかありえない。

 あと、結局この作品って、「お宝」がなんだったのか、まともに覚えている人が少ない。念の為に言っておきますが、「あなたの心」じゃないですよ。それは作劇上の話。そうじゃなくて、そもそものルパン三世の目的たるお宝はなんだったのか、という話ね。ゴート札? それとも、カリオストロ公爵家の秘密? 何となくこのあたり、結局はっきりしないので、ルパンが「少女の心」以外なにも手に入れていなく思えるのが、不完全燃焼。

 その点で、原作者監修でありながら、制作会社やプロデューサの思惑、若い作り手たちの反発などでいろいろぐちゃぐちゃしたけど、『DEAD OR ALIVE』は、きちんと最後に「お宝」を手に入れているので、充分「ルパン三世である」といえる。
 ルパン三世の定義とは、「どんなものでも盗みだす世界一の大怪盗」なわけであって、「お宝」よりも優先させるもの、「挑むべき、挑戦すべき謎」よりも優先させるものがあるとは思えない。
 そして、その目的がはっきりするからこそ、ルパン三世はただのヒーローではなく、ダークヒーローとしての魅力を放つのである。

 それが、この『カリオストロの城』以降、どうにも「お宝よりも大切なモノってあるよね?」みたいな雰囲気がどうしてもつきまとって、特にひどいのが、TVスペシャルシリーズ。カリオストロで確立されたキャラクター像が、ほぼそのままトレースされて無理やりいい話が作られている。

 違う、違うんですよ。

 『カリオストロの城』とは、ルパン三世でありながら、あれはジブリの、宮崎駿監督の作品であって、アレが、イコール「ルパン三世」じゃないんですよ、わかりますか、ちさタロー?


 じゃあ、どれが『ルパン三世』なのだと聞かれたら、もうとにかく何でもいいから、この作品を見なさい。

ルパン三世「ルパンVS複製人間」[Blu-ray]/山田康雄,増山江威子,小林清志

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 いわゆる、ルパン三世の宿敵と目される異色の存在、マモーが出てくる作品です。CVはなんと水戸黄門様、故・西村晃氏である。これがまた非常に不気味でそれでいて魅力たっぷりの悪役なわけですよ。

 そしてこの映画は、見事なまでに『ルパン三世』なのであります。

 若干大人向けで、不二子ちゃんのヌードシーンはあるし、アクションはかっこいいし、ベンツSSKに乗ってるし、次元と五右衛門がケンカするし、なんつってもルパンの、

「俺は夢を盗まれたからな。取り返しに行かなくちゃ」

 のセリフのかっこ良さよ! かっこいいセリフといえば、次元にもかっこいいセリフが!
 まさしくこの作品は、大人向けの、「自由で素敵なルパン一味」を描いていて、けっこうマモーたちの攻勢に負けっぱなしなのに、何故かかっこいい。

 これぞ映画版ルパンの決定版! と、僕は思うのです。

 そして、二位の作品。

ルパン三世 バビロンの黄金伝説 [DVD]/山田康雄,増山江威子,納谷悟朗

¥5,040
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 実はこの作品、支離滅裂、めちゃくちゃな構成、意味のわからんことこの上ない作品に仕上がっております。というのもですね。第一作目『ルパンVS複製人間』、第二作目『カリオストロの城』ときましての三作目ということで、ええ、お察しのとおり、前二作があまりにも評判が良かったために、作り手側がどうしていいのかわからず混乱した現場、というものが如実にフィルムに現れているという、ある意味では稀有な作品なわけです。(押井守が監督するはずだったのに、押井守監督のアイデアが没になってしまい、別の監督が急遽招聘された上、脚本家は重責に耐えかねて途中で降りたりした、ということらしいですよ。へー)

 冒頭のルパンVS銭形の、ピエロの顔のモニュメントを舞台に行われるバイクバトルとか、いらないだろー、とか思ってしまうわけですが、まあ、そんなことは、ロゼッタばあさんのCVが塩沢とき氏であるとか、若かりしロゼッタが河合奈保子氏であるとか、カルーセル麻紀とかなんなんだよもう! とかいろいろ憤慨するべきポイントはあるのですが、うん、いいんですよ。
 そもそも『ルパン三世』は何でもありなので、支離滅裂でもなんか楽しいんですわな。
 そういえば、ゲストキャラクターと淡い恋心を通わせる五右衛門、なんてのもこの映画が強い印象を持ってる気がする。

 アクションの面白さ、セリフのかっこ良さ、キャラクターたちの気持よさ、どれをもとっても、見事にルパンであろうと思う。

 特に、『ルパンVS複製人間』も、『バビロンの黄金伝説』も、どちらもクライマックスの切り札に斬鉄剣が関わってるのが、興味深い。うまい使い方をしているなあ、と思う。どっちも。

 この二作品を見て『カリオストロの城』を見ると、どうしても物足りないんですよ。ルパンっぽくないというか。次元と五右衛門が物分りが良すぎるのも変な感じがするし。

 では、「『カリオストロの城』は、つまらないのか?」というと、僕はそんなことは言ってないわけですよ。(えっ)

 『カリオストロの城』は、間違い無くルパン三世っぽくはないので、僕はルパン三世の映画としてはあまり評価していないし、カリオストロ以後のルパン三世が、いつも同じ感じになってしまっているのが、ちょっとした功罪だなあ、とすら思ってはいるけど、決して面白くないわけじゃないです。

 むしろ、単体の物語としては、抜群に面白い。

 でも、どっちが好きか? と聞かれると、かっこいい銭形のとっつぁんを描いてくれている、こちらを挙げたい。

ルパン三世 DEAD OR ALIVE [Blu-ray]/出演者不明

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 これは映画館に観に行き、その後、レーザーディスクで買いもしたくらい、気に入った作品。

 特に、銭形警部を、「凄腕で、なのに相手がルパンだから失敗して、結局ずっこける」という描き方をしてくれていて、とても嬉しい。さすが原作者が監督しているだけのことはある。
 あと、原作のルパン三世でのルパン最大の武器は、実はワルサーP38でも「無の心」でもなく、「本人ですら自分のほんとうの姿がわからない」という、変装術。この変装術が、ちゃんと物語のキーになるように使わているので、この点で、他の映画にはないちゃんとしたルパン三世象が見られて楽しい。

 映画としては、実は『DEAD OR ALIVE』はちょっと細かい点ですっきりしないところがいくつかあるので、そんなに出来は良くないと思うし、むしろ『カリオストロの城』のほうが、もちろん完成度としては高い。けど、やっぱりどうしても、ルパンぽくないものと、ルパンらしさが現れてるものとだと、らしさがちゃんとあるものを選びたくなるのです。

 なので、ルパン三世の映画としては『カリオストロの城』は評価しないけど、単品の映画としては、『カリオストロの城』って、抜群に面白いですよね。ということを言いたかったんですよ、わかりましたか、上川さん!

 というわけで、今度ルパン三世について語るときは、「原作の何が面白いのか?」について語りたいと思います。大好きすぎてたまらないのです。