返し襟から傾城へ

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襦袢の襟の一部をくるりんとひっくり返して裏の赤い部分がのぞく返し襟。




今月は揚巻さんも、日生劇場の傾城も返し襟をしていたのでした。何とも色っぽい着こなしで大好きです。


しかし何故このように着るのかという点については、諸説あるようで。




これまでに私が聞いたお話でも幾つかの説があり、一つは関西の廓に独特の風習で遊女に旦那がついたというしるしだという説。




いやそんなことはない。大体遊女が旦那がついたということを他のお客にわかるようにひけらかすわけがないから、それは違うだろう。そんな無粋なことはしないのではという説。




孝太郎さんが着付けをなさる方のお話として質問に答えてくださった、関西の花柳界で舞妓さんが芸妓になると襟を返して着付けるのだと言う説




そして最近、あるところで五代目歌右衛門さんが「返し襟というのは、女郎を表現する昔からの芝居の技法だ」とおっしゃていたというお話を見ました。




いずれにしてもあの赤い襟元は色っぽい。確かに芸者さんは返し襟をしない気がするし、五代目さんのお母様は吉原尾張屋の出でとご本にも書いてあるし、昔の廓の風習に通じた方だったようですし、その息子さんである五代目がこのようにおっしゃているのだとすると、何か一番説得力があるような気もします。




やはり芝居に登場する傾城や遊女達のあの返し襟というのは一種独特の雰囲気を醸し出しています。それは芸者ではなく色を生業とする女の人にとってはずせないものなのかしらという気がします。




一昨日は日生劇場で玉三郎さんの舞踊傾城を見たのですが、襟の返し方も役者さんによって微妙に違うし、おそらくその女郎なり遊女なり、花魁の役柄や役者さんの味わいによっても違うように見えてくるのが返し襟なのではないでしょうか。




そしてこれもある本で読んで本当にそうだなと思ったのですが、(とこう書くとお前は本だけ読んで芝居を見てないんじゃないかといわれそうですが・・・笑)黒い着付けの着物に白い襦袢での返し襟は、色彩的に最も、あの赤のくるりんが冴えるいうこと。先月の梅川もそうでした。後は「河庄」の小春。




忠兵衛と二人の黒い着付けにあの襟元のくるりん。何かそれだけで切ない・・・。あの返し襟ごしの眼差しはやはり色っぽい、艶っぽい。一途に一人の男を想う気持ちとしっくりくる感じも確かにする。




さて、女郎の中でも傾城は特別な存在。中でも「芝居に出る傾城のうち、第一番の重い役柄で松の位とまで云われる」揚巻」(魁玉夜話 歌舞伎の型)はどうか。




今日の福助さんのブログを拝見していても思ったのですが、美しいだけでなく、豪華絢爛。


更にお正月に始って三月三日の桃の節句、五月は端午の節句、七月は七夕、そして九月の重陽の節句という五つの節句に込められたお祝いと繁栄と豊穣を祈る衣装。




ここまで来ると、逆に返し襟というのはちょっとかすむ感じです。むしろ、この絢爛たる衣装に込められたある種神的なイメージが全面に出て、吉原仲之町を練り歩くその風情に人々が見とれる様子が目に浮かびます。




というか助六由縁江戸桜というお芝居の揚巻の出を見ていると自分がお江戸の町人になって揚巻という超越的な存在の女にすっかり魅せられている感じがして来ます。立女形という役どころを演じる役者さんの勢いとか、格に魅了されながら、同時に我々にとっては幻のような花魁にも心を奪われる感じです。




そう松の位の花魁にはそういう観衆が似合います。ひっそりと居てももちろん美しいことには変わらないのだけれど、あの吉原で道中を繰り広げるあの場の空気感が必要な気がします。


助六というたった一人の男に惚れぬいていながら、大衆のアイドルでもあるわけですものね。




福助さんの花魁の魅力はそういう格を感じさせる存在感と同時にある種のアイドルがもつ憂いとか渇きのようなものかもしれません。ちょっと言葉が走っているかもしれないけれど。




これも今月みたお芝居「聖St.ひばり御殿」の美空ひばりさんという人のことを思い出してそんな風に感じました。ちょっと違うけれど。揚巻もお江戸にあってはそういう存在だったのかもしれない・・・そんな気がしました。




日生劇場の玉様の傾城は舞踊であるから、あの豪華絢爛の雰囲気とは少し違う。もっと精神性の高い傾城であり、花魁であるような気がしました。それはそれで本当に美しかったのですが、舞踊として、単独公演で演じられるものとしては、他の二つ、藤娘や楊貴妃の方がしっくりくる気もしました。




同時にアイドルで云うなら、吉永小百合とか、山口百恵かな。などと考えたりしました。(山口百恵は違うか・・・・)




今日は朝から揚巻の掛けを拝見したり、豪華絢爛な姿のお写真を拝見したりしてすっかり気分は千秋楽の御園座でした。そして傾城や返し襟にも思いを馳せ・・・。




何だかとりとめのないブログに、またまたなってしまいました。


この続きがまだあるような気がします。また、いつか書いてみたいと思います。


おやすみなさーい。






また?なんて言わないでね。(笑)