「東京を世界一のブラック企業都市に」する舛添氏、「ブラック企業の新しい成長に点火する」細川氏 | すくらむ

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 都知事選(2月9日投開票)にあたって各候補の政策を吟味することが重要です。そこで今回は、ダンダリン(労働基準監督官)も注目する国家戦略特区と労働法制の規制改革の問題を見てみました。

 まず、舛添要一氏と細川護煕氏の政策を見てみましょう

▼舛添要一氏の政策(公式ブログから)
http://masuzoeyoichi.cocolog-nifty.com/blog/2014/01/3-5559.html

 安倍内閣の国家戦略特区制度と連携して、幅広い産業政策を実施し、東京を規制改革のモデル・ケースとします。
 ※ちなみに舛添要一氏の↓公式サイトの政策は、実際に見てもらえば分かる通り、東京都民をバカにしているとしか思えないようなしろものです。
http://www.masuzoe.gr.jp/policy

▼細川護煕氏の政策(公式サイトから)
http://tokyo-tonosama.com/

 国家戦略特区を活用し、同一労働同一賃金の実現を目指すとともに、ハローワークは、国から都へ移管し、民間の職業紹介とも合わせてきめ細かな就業支援を実現します。また医療、介護、保育、教育などの都民生活に密接に関係する既得権のしがらみを断ち、国ができなかった思い切った改革を進めます。それぞれの分野で、新しいサービスの創出と産業としての発展につなげます。

 ――上記にあるように、舛添氏は、「安倍内閣の国家戦略特区と連携」して東京を規制改革のモデルケースにすると公約し、細川氏も同様に「安倍内閣の国家戦略特区を活用」して、ハローワークは、国から都へ移管すると公約しています。

 こうした国家戦略特区と労働法制の規制改革は何をもたらすのでしょうか? 私が企画した現役の労働基準監督官の座談会を紹介します。

 「《労働基準監督官座談会》ブラック企業をなくすために働く――ダンダリンで注目集める監督官の人数は他国の半分以下」(『国公労調査時報』2014年1月号、第613号から抜粋、※座談会は2013年10月30日に収録したものです。聞き手は私です。byノックオン。ツイッターアカウントはkokkoippan)

 労働法制規制緩和の突破口としての国家戦略特区

 ――規制改革会議の答申の中で4つほど言われていて、そのうちの2つが労働基準の関係です。具体的には、ジョブ型正社員の雇用ルールの整理と、企画業務型裁量労働制、フレックスタイム制の労働法制の見直しです。これについてどう思われますか? また、国家戦略特区の動きに関しては、昨年できた労働契約法の改正部分で5年を超えた更新で無期転換申込権が発生することになっていますが、それを見直す動きがあり、来年の通常国会で法案を成立させる話も出ています。

 こうした労働法制の規制緩和と国家戦略特区ですが、皆さんは現場でどんな感じを受けていますか? たとえば東京や大阪が国家戦略特区になる場合、地方と都市の差がどうなるのか。そうしたことも含めて、こんなことが考えられるということをお話いただけたらと思います。

  これまでも全国的に労働基準の規制を徐々に緩和してきた流れがあり、国家戦略特区の問題はその延長線にあると思います。特区が労働基準の緩和の突破口を開く新しいツールになっているのではないでしょうか。自分の地域は関係ないと思っていると、いずれ全国の労働者へと影響が及ぶ、おそらく順番に広がって行くのではないかと思います。

  今回は見送られたのですが、一定年収以上の労働者を対象に労働時間規制を適用除外にするようなことが考えられています。

  そういうことを部分的に特区でやって、「とくに問題がなかった」という結論をもって、全体の規制を緩和していくのでしょう。

 ジョブ型正社員も、解雇に関するガイドライン等を決める中で解雇規制を緩めていく方策ではないか、少なくともその危険性があるのではないかと見ています。そのことと、労働組合の交渉力の低下があいまって、逆らったらすぐに辞めさせられてしまうということにならないかと危惧しています。

 国家戦略特区はあまりに乱暴でデメリットが大きい

  特区という考え方は、労働規制に全く適さないと思います。特区だけで競争条件が変わってしまうわけですから。中国で賃金が安いからといって中国に工場を移すのと同じように、特区の競争条件が緩くなるなら、その方が有利に決まっています。そうなれば「うちも、うちも」ということになって、3割くらいがそうなれば、もう全国で実施しましょうということになるのではないでしょうか。

 ですから、労働法の規制に関して、特区というのは成立しようがない、あまりに乱暴な議論です。少し考えればデメリットの方が遥かに大きいことは容易に分かると思うのです。

 それから、ペーパーカンパニーに利用することも考えられるのではないでしょうか。今でも、子会社を作ってそこに一定の業務だけをやる労働者を出向させ、その子会社を精算してしまうという手口がありますが、特区では、子会社をつくらなくてもできるということになり、大変これは危険だと思います。

 「雇用の創出」にはならない

  ジョブ型正社員の議論に関わって、地域限定の社員となるなら、その地域の事業がなくなれば解雇できるという話があります。ただ、現場を見ているといろいろなケースがあり、正当な権利を主張している労働者を毛嫌いし、「もうココはいいや」と事業を閉鎖してしまう企業も出てこないとも限らない。事業閉鎖の理由は後から何とでも言えるし、それに労働者が反論するのは困難です。もちろん、そういう意図を立証できるなら、それは労働組合法違反などと指摘することもでき、過去にもいろいろな判例が出ていますけれど、そういう手法が広がっていくような可能性もあるのではないでしょうか。

 そもそも、現状でも事業がなくなって、そこで働く労働者を企業内で吸収できないのであれば、整理解雇のハードルは低いのです。それに輪をかけて、ハードルを緩めるなら、必要な努力もしなくていいということになりかねない。非常にリスキーだし、地域限定というのもすごく狭い地域で設定されるおそれもあり、「抜け道」が山のようにできてくるのではないかと思います。労働者もメリットがあるように言われていますが、私には労働者に有利になる側面が思いつきません。

 その他の企画業務型裁量労働制の見直しなどですが、年収1億円といった高度な専門性を持つファンドマネージャーとか、そういう職種なら分からなくもないし、裁判例でも残業代の請求を否定したものがありますが、しかし、年収800万円とか、1,000万円程度の労働者はどうなのか。確かに私たちから見たら高い賃金ですが、雇用の保障の面でも、仕事の裁量の面でも、実際の交渉力の面でも労働時間規制をはずしていい実態にあるとは思えません。

 ワーキングプアを生み出した労働者派遣

  労働者派遣は、これまで次々と規制が緩和されてきたのですが、いわゆるワーキングプア、低賃金労働者が加速度的に生じた最大の原因だと思います。実際、私たちが接する派遣労働者の多くは、過労死ラインまで働き、総支給額で24万円、ボーナスなし、それで残業がない時には15万円といったイメージです。しかもその仕事がラクかといえば、とても私には堪え切れないような繰り返しの作業、肉体的にも精神的にも非常にハードなものが多い。

 そういう仕事でそれだけしか稼げないという現実がある。こうした働き方を改善しないまま、拡大してどうするのか。一方、スポット的にしか求められない、たとえば通訳などの業務については、派遣労働者が必要なのも事実です。そうしたところを実態に即してきちんと整理していく必要があるのではないか。

 そうではなく、押し並べて自由にしていくというのはどうか。ここまで規制を緩和したことによって生じた弊害にやっと気づいたのに、一気にまた戻してしまうことにならないか。労働者の視点がまったくない議論になっています。

 働く人が安心して働けるようにするにはどうすればいいのかという視点はなくて、使いやすくするにはどうしたらいいかということしかない。

  有料職業紹介事業の規制緩和ですが、私自身、ハローワークを利用したことがあります。民間の紹介事業者にも行ったのですが、やはり無料であることが重要だと思います。というのは、仕事を得るのは、まずは生活するための資金を獲得するためですから、そのためになぜお金を払わなければならないのかという思いがあります。

 少し手数料を払ってでもそれを上回る仕事を紹介してくれるならそのサービスを受けたいかということでしょうけれども、見方を変えると仕事の中身も金次第と言うことを意味し、貧困の連鎖を招きかねません。

 ハローワークの求人情報を民間事業者に提供する話もありますが、国の制度に対する不信につながりかねない。無料であることが重要な現在の制度をどうして弱めていくのかと思います。

 有料職業紹介はさらに格差を広げる

  今でも格差は存在します。たとえば私が公務員をめざした大学時代、公務員試験の問題集やテキストを段ボールいっぱい5万円分ぐらい買いました。大学生が払う5万円は大きいですよ。私はたまたまアルバイトでお金があったからそれを買いましたが、もしなければ勉強する手段もなかった。今でも求職活動には大きな格差があるのです。

 有料職業紹介事業を自由化していくと今まで以上に、お金のない人は厳しい仕事、お金のある人はいい仕事ということになる。格差を減らそうという議論がようやく出てきたのに逆行することになり、大きな問題になると思います。

 危険な裁量労働制見直し

 ――企画業務型裁量労働制の見直しも浮上していますが、どう思いますか。

  裁量労働も、限定した職種で始まって段階的に広がってきました。一定の年収以上は労働時間規制の適用条件を外すという構想も導入されることになるなら、その後、最初のハードルが徐々に下がっていくことになると思います。

  労働基準法の41条「労働時間等に関する規定の適用除外」について、きちんとした基準が示されていないということは今も問題だと思います。こうした問題を解決することが先決でしょう。

  自由な働き方を保障するというのが労働時間の規制緩和の理屈ですが、労働者側の要望のほとんどは現行のフレックスタイム制で対応できるはずです。それを企業がフレックスタイム制を使わずに、裁量労働制や事業除外労働といった、残業代を払わなくていい「抜け道」を探すから問題になるのです。

 ――国家戦略特区は、東京オリンピックを招致したことと関係あるのでしょうか。

  おそらく東京にいろいろな業者が集まってくると思います。新規事業者が海外からも集まってくるから、そこで規制を緩和しようという動きなのかという気がします。

 そこで構想されているのは、オリンピックまでの7年間、有期雇用期間の更新を繰り返しても、労働契約法で規定されている無期雇用転換申込権が発生しないようにするというものです。それによって有能な人材が集まるというのですが、しかし、今でも、有期のプロジェクトに参加する労働者については7年間の有期雇用契約は有効であって、なぜ1年間とか、6か月といった短期の有期雇用契約の更新を繰り返すことを前提として考えるのかがよくわかりません。労働契約法の17条2項には、「その労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない」という規定もあり、こうした趣旨にも逆行します。

 現実を直視しないメディアの議論

  テレビなどでも、したり顔で労働法制の規制緩和が必要だと主張するコメンテーターや評論家がいます。そう主張する人達は今の仕事を辞めたとしてもすぐに同程度以上の仕事が見つかる人達です。だから、嫌だったら辞めればいいじゃないかとすぐに口にする。そしてどこでも転職できるスキルを身につけるべきだと言うのですけれど、そう簡単にはいきません。実際、すぐに自分の能力の100%を発揮できるような人ばかりではない。ほとんどの人が、入社後にいろいろな訓練や経験を積んで、一生懸命努力をしてやっとその会社で一人前に働けるようになる。そこでリセットされてしまえば、また振り出しに戻ってしまう。

 今のマスコミでの大多数の議論は現実とはズレた、大多数の労働者の方を向いていない議論だなと思っています。

 ――以上が「労働基準監督官座談会」からです。国家戦略特区と労働法制の規制改革の問題が直接のテーマではありませんでしたので、深くつっこまれているわけではありませんが、「国家戦略特区」の狙いは、労働基準の緩和・撤廃への「突破口」ということです。

 竹内結子さん扮するダンダリンも強調していた「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。」(労働基準法第1条)というのは根本的に重要なわけです。誰でも「どこに住んでいても」適用される一律の労働基準が設けられなければならないのです。ところが、「国家戦略特区」構想では、「東京」を「特区」として、この根本的な労働基準を破壊して、無権利の有期雇用の使い放題や、解雇の自由化、長時間過労死労働促進など、まさに「ブラック企業特区」が狙われているのです。

 この「ブラック企業特区」をただ言い換えただけなのが、舛添氏の政策にある「安倍内閣の国家戦略特区制度と連携し」「東京を規制改革のモデル・ケース」にするということですし、細川氏の政策にある「国家戦略特区を活用し」「既得権のしがらみを断ち、国ができなかった思い切った改革を進めます。」ということです。

 細川氏の政策にある「既得権のしがらみ」の一つが、誰でも「どこに住んでいても」「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。」という労働基準法第1条なのです。

 こうした問題に関して言えば、舛添氏の政策にある「東京を世界一の都市に。」というのは、「東京を世界一のブラック企業都市に。」ということなりますし、細川氏の政策にある「先見的都市モデル」づくりは「ブラック企業都市モデル」づくりを東京でおこなうということです。まさに国家戦略特区は、東京において「ブラック企業の新しい成長に点火する」ということになります。

 最後にこうした「ブラック企業特区」に唯一反対している宇都宮けんじさんの政策と第一声の一部を紹介します。

▼宇都宮けんじさんの政策(公式サイトから)
http://utsunomiyakenji.com/policy/

 世界一、働きやすく、くらしやすい希望のまち東京をつくります。

 働きやすく、だれでも人間らしく生活できる生活保障をつくります

 ○「ブラック企業規制条例」を制定し、若者の使い捨てを許しません。

 ○若者が将来に希望をもてるように、「若者評議会」(ユース・カウンシル)を設置します。若者自身が若者政策を立案し、それを都政に反映させます。

 ○都営住宅建設ゼロから脱却して、都営住宅の新規建設に取り組みます。また区市の家賃補助制度へ東京都の上乗せを検討します。空家を借上げて、住宅困窮者へ提供する新制度の導入をめざします。

 ○「安心して暮らせる脱貧困都民会議」を都民・当事者・専門家の参加で設置し、東京都の貧困実態を調査し解決にむけた行動を起こします。

 ○「脱法ハウス」など劣悪な居住環境の物件への規制を進めるとともに、健全なシェアハウスを育成するための条例を制定します。

 ○「ネットカフェ難民」向けの相談窓口である「TOKYOチャレンジネット(住居喪失不安定就労者支援センター)」を拡充し、居住支援を強化します。

 ○都立職業訓練校を増設します。(5年間で15から30校へ、定員を2万6000人から3万5000人へ、授業料も無料化します)。

 ○違法な解雇・賃下げ・賃金不払いなどについての対策として、東京都労働相談情報センターの拡充と機能強化をおこない、労働委員会の機能も強化して、相談・あっせんなどを受けやすくします。労働法セミナーなどもさらに拡充します。

 ○都の最低賃金を時給1000円以上にするよう国に働きかけます。

 ○公務公共部門で働く「官製ワーキングプア」の労働条件を改善します。

▼2014年東京都知事選挙 宇都宮健児候補 第一声 <演説全文>から抜粋
http://thepage.jp/detail/20140123-00000018-wordleaf?page=3

 若者が希望を持って働けない状況があります。なかなか就職のできない、職がない、就職できても非正規労働だけだと。正社員になっても長時間労働、過労死、過労自殺が多発しております。さらには昨年からブラック企業の問題が大きな社会問題になっております。若者が就職しても、使い捨てにして、中にはうつ病を発症して会社を休まざるを得ない。それにかこつけて会社は若者を次から次へと解雇する。こういうブラック企業の問題が大きな社会問題になっております。私は、東京都が若い人にとって働きやすい職場環境を作るために、まずブラック企業規制条例を作って、東京でブラック企業がないような町にしたいと考えております。また、過労死防止条例を作って、長時間条例をやめさせる、サービス残業をやめさせる、こういう条例を作ります。さらに、東京都が発注する企業、東京事業を受注する企業に関しては、公契約条例を作ります。東京都の公共事業を受注する企業は、そこで働く労働者の最低賃金を保障しないと駄目だと。さらには、男性と女性が同じ賃金。男女賃金の差別をなくす。こういうルールを確立している企業でなければ、東京都の公共事業を受注させなくする。公契約条例を作ります。

▼参考エントリー

《労働基準監督官座談会》ダンダリンで注目集めるブラック企業なくす労働Gメンの人数は他国の半分
http://ameblo.jp/kokkoippan/entry-11736751080.html


解雇規制緩和は若者も非正規労働者も救わない-「解雇自由」のデンマークより首切り自由な日本
http://ameblo.jp/kokkoippan/entry-11731597047.html