近藤勇を降す 03 | 大山格のブログ

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おもに歴史について綴っていきます。
実証を重んじます。妄想で歴史を論じようとする人はサヨウナラ。

「然らば兵器彈藥は皆此方へ引渡し、兵隊は直に解散して貰ひたい」
と云ふと、
「それも承知しましたが、兵隊の解散、其他色〻跡始末も致し度いから、暫く御暇を貰ひたい」
と云ふから
「宜しい、尙ほ必要有らば、多少の金をも融通しても宜しいよ」
と云ふと(私の考へでは千兩位もやつて、官軍の寬なる事をしてやり度かつた)彼は非常に喜んで、さて言ふ樣、
「御好意は千萬有難いが、其點は兼ねて準備をして居りましたから」
と辭退した、近藤の物越恰好を見るに實に立派なもので、私は全く敬服してしまつた。
「それでは成る可く早く始末をつけて御出でになる樣、私は此處でお待ちする」
と快く彼が云ふ儘に悉く聞いてやると、香川などが一寸後へ來いと云ふから、行つて見ると、
「今近藤を本陣へ還すのは、虎を野に放つが如きものぢや、彼の方から飛び込むで來たを幸ひ、今の內何とか處分せよ」
と劇しく反對したので、私は
「卑怯な事云ひなさんな、貴下方は大丈夫の作法を御承知か、此間は私が近藤を恐がつて居ると云つて居たが、今日は貴下が恐がる番ぢやね、一體我々は戰爭しに來て居るのではないか、彼が若し今降參しなかつたら貴下方はどふする積りだ、無論戰鬪を交へなくては成らないぢやないか、假しや彼れが私を欺いて逆襲したとて何ぢや、此有馬藤太が踏み漬してやる迄だ、それはそれとして一體軍略の事に就ては私一人に御委任である、貴下等は夫れぞれ自分自分の任務がある、默つて居らつしやい」
(此軍略云々は、私が皆の反對を抑へ付ける唯一の武器であつた、ハツハ………面倒臭くなると、いつでも此唯一の武器を振り回して閉口さしたものだ)
と怒鳴り散らして置いて、さつさと歸してやつた、
 それから段々時間も經つたが、一向やつて來ないので、兵隊共迄がブツブツ云つて居る、十二時頃當方より兵隊をやつて、兵器の催促をした所、午後四時頃タシカ砲三門、小銃二百挺餘りを持つて來た、それでゲベル銃を持つてる兵には、今持つて來たミニヘル銃と交換してやつた、だから夫以後彥根兵は皆ミンヘル銃斗りに、なつたのだ、然るに香川等は猶ほ
「銃は持つて來たけれども、逆襲でもせられては困る」
などと恐がり出し、五月蠅て仕樣がないので
「アヽ厄介だな、ぢや貴公等は粕壁へ引上げ玉へ、僕は一人で以て近藤を連れて歸るから」
と云ふと、香川は勿論彥根兵一同大急ぎで粕壁へ退却したが、流石に耻を知る者も有つて松平下總守(忠誠)の部下、忍藩の兵隊十五名は、
「副參謀と生死を共にする」
と云つて殘つた、其風釆を見ると、樣々な服裝をして居て、餘り名ある人々とは見へなかつたが、其精神は誠に見上げた者であつた、惜しいことには一人も姓名を覺へて居ない、其半分位は今でも生存して居らるゝに達ひない、實に懷かしく思ふて居る。

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