THE DIRTY COLORS
彼は船上から雲が流れてゆくのを見ていた、潮風が東に向かい休息に走り出す、鉛のような厚く重い雲が西から膨れ上がってゆく。
レーダーが捕捉していた影が湾内へ急ぐ、嵐を警戒した海軍がドッグに帰るのだろう、人工島の先端にある灯台はその灯火で信号を送っている。
上陸可能だ、彼は呟いてクルーザーを進ませる。
「いまさら何を警戒するんだ?」
クルーのひとりが笑う。前歯がなく、ヤケドに引き攣った顔。
「さあな」
彼は特に関心なさそうに応えた。レーダーが捉えた信号はブルー、乗員はともかく、船そのものは米軍でも中国軍でもない。
威嚇さえもないところを考えると臨時政府が所有する海軍だろう、巡視艇なかしては無駄に大きかった
が……。
戒厳令下の本国は暴動が相次ぎ、移民たちが増えた、そして領土を巡るギャング同士の抗争も激化した、暫定措置として複数の隣国による共同管理と本国の臨時政府による軍事政権が誕生したばかりだという。
繁栄と衰退。幾多の経済、政治的混乱を経て、一流国と認知されたのはすでに過去のことだ、現在も荒廃ばかりが続いている。
「嵐がくる、積荷にカバーをかけてくれ、湿っちまうとモノにならない」
もう少しでアジトだ、この荷を捌けば俺たちのシマも拡大できる。
積荷のなかはタバコだった、すでに禁煙法が制定され、正規のルートではタバコは入手できない。
闇に生きる彼らにとって、闇タバコは貴重な資金源である。
ラドラムに国を獲らせたいんだ、そう呟く。
彼は名をジタンと言う。
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⇒the sunshine underground(総集編)
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the sunshine underground/〝after life〟
⇒#5
⇒#6
performed by billy.