【17カ月目の福島は今】高線量の須賀川市・長沼地区を歩く  | 民の声新聞
2012-08-28 02:56:52

【17カ月目の福島は今】高線量の須賀川市・長沼地区を歩く 

テーマ:被曝

原発事故から間もなく1年半。相双地区ばかりが注目されるが、中通りにも依然として放射線量の高い地域がある。JR東北本線・郡山駅から南に2駅。福島第一原発から70kmに位置する須賀川市もその一つ。広大な水田の片隅では0.6μSVを超え、スーパーマーケットの駐車場では18μSVを記録した。炎天下の須賀川市を線量計を手に歩いた。そこには、復興の名の下に隠され始めている被曝の危険性が浮かび上がっていた。


【スーパーの駐車場で18μSV超】

 福島原発から70kmも離れた須賀川市。東北本線・須賀川駅から国道118号線を車で30分ほど西に行った旧長沼町は、依然として放射線量が高い地域として、知る人ぞ知る〝ホットスポット〟が点在する。

 「ながぬまショッピングパーク・アスク」も、その一つ。

 出張修理の途中に立ち寄ることが多いという自動車整備工の男性(39)=西白河郡矢吹町=は、見慣れた広い駐車場の片隅に私を誘導すると、角を指さした。「あそこに直置きしたら、とんでもない数値になるはずです」。
 男性の言う通り、線量計を置いた途端に数値は一気に上がり、18μSVを超えた辺りで止まった。男性も、ここまで数値が上がるとは予想外だったようで、驚いた表情を見せた。

 「ここは、以前からドライバーの人気スペースなんですよ。誰だって広い駐車場の真ん中で弁当は食べたくないでしょ?だから、自然と隅っこが人気になるわけです。私もここでよく昼飯を食べたものです。最近来た時も7μSVぐらいあったので心配していていましたが、ここまでとは…」

 汚染に気付いたのも昼食時だった。原発事故後、車に載せていた線量計はどこへ行っても高い値を示し、すぐに警報音を鳴らした。あまりにうるさいので、アラーム設定を10μSVに変えていたという。

 「ある時、弁当を食べていたら線量計が鳴り出したんです。これはやばいと思いました。相双地区、飯舘村だけではない、須賀川も汚染されているんだと。でも、多くの人は汚染の実態を知らないまま生活を続けているんですよね」

 仕事柄、車で広範囲に移動することが多いため、行く先々で線量を測り、時には動画をネット上にアップした。郡山市のカルチャーパークは「市民の要望が多い」との理由で原発事故後1カ月ほどで再開されたが、入場口の地面は9μSVあったという。また、白河市内の中学校では、屋外で写生している所に通りかかった。生徒たちが座っている辺りで数μSVを計測したため、すぐに学校に連絡した。インターネットにアップした動画には「不安を煽るな」「復興の妨げになる」などと、批判のコメントも少なくなかった。だが、自身も5歳の娘と7カ月の息子の父親。長女は最近まで、マスクを離さなかった。原発事故で消防無線が避難を呼びかけたが、保育士として働く妻を残して逃げることはできなかった。だからこそ、せめてきちんと数値は把握したい、数値を多くの人に知って欲しいという想いがある。

 「何もしないで黙っている方が、よほど復興の妨げになると思います」
民の声新聞-アスク②


民の声新聞-ながぬまショッピングパーク「アスク」
スーパーマーケットの駐車場。やや低くなって雨

水が集まりそうな一角に線量計を置くと、18μSV

を超えた=須賀川市志茂字六角

【間もなく始まるコシヒカリの出荷】

このスーパーの裏には水田が広がり、稲穂が頭を垂れている。境の土手に線量計を置いたら軽く2μSVを超えた。ため息をついて立ち上がると栃木県黒磯市から車で50分かけて来ているという納入業者が声を掛けてきた。

 「2μSVですか…。これが高いのかどうなのか、危険なのか、正直なところ良く分からないんですよね。黒磯でも、場所によっては1.3μSVなんていうところもある。汚染は福島だけの問題じゃないんだね。この辺りの米も、昨年は検査に引っかかったものもあった。今年はどうなのかね。福島米は何だかんだ言ってかなり流通しているからね」。最後は思わせぶりな笑みを浮かべて車に乗り込んだ。

 市内の真ん中を東西に走る国道118号線沿いは、広大な水田が並び稲穂が頭を垂れている。その7割がコシヒカリ。福島県は全国4位の米どころと言われているが、須賀川市内でも3800戸以上が農業を営んでいる。

 国道118号沿い水田の一角では、線量計は0.6μSVに達した。同市内の土壌汚染は小さくなく、昨年10月の市の測定で、浜田地区で1kgあたり約21000ベクレルを記録。今年6月でも岩瀬地区の土壌は同16000ベクレルを超えた。
 福島県では、早場米の全袋検査が始まった。須賀川市の橋本克也市長は6月の市議会で、農地の除染について「国や県の実証実験の結果から、反転耕や深耕が有効な手法として推奨されておりますので、これらにゼオライトに代表されます放射性物質吸着剤やカリ肥料などの吸収抑制剤など土壌改良資材の併用により対応するとともに、反転耕や深耕が不可能な農地につきましては土壌改良資材により対応するなど、農地の条件に応じた適切かつ効果的な除染を実施し、生活空間全体の放射線量の低減化を図ってまいります」と答弁している。

民の声新聞-須賀川市の稲穂


民の声新聞-須賀川市の水田
全世帯の1/7が農業を営んでいる須賀川市。主要

品種コシヒカリの出荷が間もなく始まる

(いずれも8/22撮影)


(了)