なければつくる | 大山格のブログ

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おもに歴史について綴っていきます。
実証を重んじます。妄想で歴史を論じようとする人はサヨウナラ。

 たまたま近代デジタルライブラリーで見つけた『近世名将言行録』という本が面白い。タイトルからして岡谷繁実の『名将言行録』に倣ったものだと察しがつく。まさにそのとおり、幕末から明治にかけて活躍した名将たちの逸話集である。

 そもそも顰みに倣った『名将言行録』も当時の学界からは俗書と見なされた本で、主題は名将たちの人柄や心意気を後の世に伝えることであり、歴史的な事実を争うことは二の次なのだ。だから、お堅い学術書とは見なされなかったわけだ。

 それに倣った『近世名将言行録』も同様の編集方針である。人物の功績などは記事冒頭の略伝に纏められ、つづく本文は逸話の類ばかりだ。たとえば大村益次郎の項目では

 花曇り又しても雨となる頃、春雨をついて來客があり、挨拶していふ、よう降る事でござります。益次郞答へていふ、春はこんなものです。
 又、或る人、夏日訪問して、御暑ふござります。益次郞曰く、夏は暑いものです。
 益次郞の好挨拶はいつも此類ひであつた。


 と、世上よく知られた逸話が載っていて、司馬遼太郎の『花神』など歴史小説や時代劇で描かれる大村の人物像のネタ元は本書ではあるまいかと勘繰りたくなる。

 そんな俗書に類するものを、お堅いことでは鉄板ばりの吉川弘文館が出していたことに驚いた。せっかく近デジで読めるのだから読みたいけれど老眼が進んで、PC画面で見るのは辛い。なにせ全四巻あわせて1800頁を超えるのだ。

――これを紙で読めたらなぁ

 そう思って検索してみたが、収蔵している図書館は国会図書館のみ、都立中央図書館にもない。国会図書館でコピー1000枚となると2万5000円で、それだけ出せば古書を買えるかもしれない。しかし、ネットの在庫検索では該当なしだ。このことをもってしても『近世名将言行録』が稀覯本だというのは間違いないだろう。

 古書として出回らないのは、もともとの部数が少なかったせいだろう。くだけた内容のわりに文章表現は堅めで、漢和辞典を引かねばならぬような難読な熟語もある。つまりは教養人でないと読めないし、そもそも教養人は俗書を好まないということか。

 ともあれ、日本史探偵団のモットーは「なければつくる」である。古書がないなら復刻してしまえば良いのだ。だが、底本が合計1800頁となると、創立以来の大事業となる。資金も巨額に及ぶし、売値も従来のように数百円とはいかない。つまりは大冒険である。

 ただ、小説や漫画あるいは各種シナリオなど、幕末・維新史を時代背景とする創作をする人たちには、本書を読める程度の情報リテラシーを有するべきだと思うし、そのまま本書はネタ本として役立つものでもある。そんな潜在的需要を期待して、とりあえず入力作業にとりかかった。完成までは実に遠い道のりだし、いつまでにと約束もいたしかねるが、ときおり、途中経過を本ブログにて御報告申し上げるとしよう。

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