●簾(すだれ)【葦簀/葭簀】(よし‐ず)
★簾(すだれ) [ 日本大百科全書(小学館) ] .
この名は「簀垂(すだ)れ」からおこったとみる説と、住むところの巣(す)の出入口に垂れ下げて風雨湿気を避けたのでという説がある。細い茎の葦(あし)や竹を細かく割ってつくった「ひご」を簀のように糸で編んでつくった屏障(へいしょう)具。外部から見えないよう、また強い外光よけや室内の仕切りに用いるが、通風性がよく、涼しい気分になるので、普通夏季に戸口や窓などに掛ける。巻き上げたとき、鉤(こ)という金物に掛けて下がらないようにし、鉤に丸緒の総(ふさ)を下げる。この名称は古く『万葉集』にみえるが、細い茎の葦を材料とした伊予(いよ)簾は平安時代に出現する。御簾(みす)は竹のひごを編み、周囲の縁を萌黄(もえぎ)地に黒の文(かもん)を染めた絹で巡らし、上部の縁は帽額(もこう)といって、やや幅広い。身分のある人の住居の、簀子(すのこ)と庇(ひさし)の間との境、あるいは庇と母屋(おもや)との境を仕切るため、一間ずつの長押(なげし)の下端に掛け連ねた。現在もっぱら宮殿や神殿に使うことが多い。変形なものに縄簾があるが、近世初期の風俗画にみえる。[ 執筆者:郷家忠臣 ]

★よしず(よしず) [ 日本大百科全書(小学館) ] .【葭簀・葦簀】
スゴロ、ヨシなどとよばれる植物の茎を編んでつくった簀(す)。かやず、たけずより上等品とする所が多い。細めながらじょうぶで軽いので、巻いて持ち運ぶのに好便とされてきた。「よしず囲い」の語があるように、家屋の周りに立てかけ、日常生活における目隠し、日除(ひよ)け・風除け用としただけでなく、出入りする人の多いハレの日には、玄関先に立てかけて、ほこり除け・雨除け用とした。雪国では吹雪(ふぶき)除けともなっている。[ 執筆者:天野 武 ]

★アシ(あし) [ 日本大百科全書(小学館) ] .【葦(芦)・蘆】common reed
[学名:Phragmites australis W. Clayton]
イネ科の大形多年草。キタヨシまたはヨシともいう。アシという名は「悪(あ)し」に通じるので、その対語として「善(よ)し」となったという。根茎は白く、地中を長くはい、地上走出枝がない。稈(かん)は直立し高さ1~3メートル、節に開出毛がない。葉は下垂し、大形で長披針(ちょうひしん)形、長さ約50センチメートル。円錐(えんすい)花序は頂生して大形、長さ15~40センチメートル。小穂は長さ10~17ミリメートル、紫色を帯びるが、のちに褐色になる。包穎(ほうえい)は3~5ミリメートルで、第1包穎は小花の2分の1より短い。日本全土の水辺に群生し、世界の暖帯から亜寒帯にかけて分布する。若芽は食用され、稈(かん)は「よしず」をつくる。ヨシ属の小穂は数個の小花からなり、基盤が小軸状に延長し、長い白毛束がある。セイコノヨシP. karka (Retz.) Trin.は小穂が5~8ミリメートルしかなく、沖縄、台湾、中国大陸南部などにみられる。ツルヨシP. japonica Steud.は地上走出枝があるので区別できる。
文学作品には、早く記紀など、日本神話で葦原の中つ国が日本の呼称として用いられた。『万葉集』から数多く詠まれ、とくに難波(なにわ)の景物として知られていて、数奇な運命をたどった夫婦の姿を伝える芦刈説話は、『大和(やまと)物語』『今昔物語』や謠曲の『芦刈』と受け継がれている。[ 執筆者:許 建 昌・小町谷照彦 ]
★葦舟(あしぶね) [ 日本大百科全書(小学館) ] .
アシでつくった水上交通具の一つ。古代日本に葦舟があったことは、記紀の列島創造神話において記されているところから想像がつく。蛭児(ひるこ)を葦舟に乗せて流すくだりである。また弥生(やよい)時代の土器に描かれた船のなかには船首を束ねた例もある。南アメリカではコロンビア、アルゼンチン、チリと分布していたが、現在痕跡(こんせき)が残っているのは、かつての利用の中心地と考えられるアンデス地域だけである。エクアドル高地の先住民オタバロ、ペルー北海岸のワンチャコ村、さらに有名なティティカカ湖のアイマラ人、ウロ人の葦舟がそれらである。しかしこれらの舟も厳密にはイネ科のアシが材料ではなく、カヤツリグサ科のトトラを用いている点で、名称に注意しなければならない。アフリカでは、ナイル川上流のシルックの人々やアフリカ南西部のベンゲラの海岸住民の例が知られている。古代エジプトでもパピルス(カヤツリグサ科、カミガヤツリ)を束ねた舟が利用されたようで、最近サッカラで発見されたラムセス2世の妹チアの墓からも黄泉(よみ)の国へ向かう葦舟の浮彫りが報告されている。なお、新旧両世界の古代文明の有機的関連を想定したノルウェーの人類学者ヘイエルダールが、1970年に葦舟ラー世号で大西洋を横断している。[ 執筆者:関 雄二 ]
★蛭児(ひるこ) [ 日本大百科全書(小学館) ] .
記紀神話で、伊弉諾(いざなぎ)・伊弉冉(いざなみ)二神の間に最初に生まれた手足の萎(な)えた子。葦舟(あしぶね)または磐楠(いわくす)舟に乗せて流し捨てられるが、その名義の「ひる」は「霊(ひ)」の動詞化、あるいは「日(ひ)」に助詞「の」の古語「る」を付したもので、「ひるこ」は天照大神(あまてらすおおみかみ)(大日霊貴(おおひるめのむち))の名と一対となる。わが国には、空舟(むなぶね)に乗って水上を来臨し、尊貴な存在として出現する伝承が多く、蛭児の流し捨てもこの神話の発想を基とする。また後世には、恵比須(えびす)神と付会して信仰されることもあった。[ 執筆者:吉井 巖 ]
★よし‐ず【×葦×簀/×葭×簀】
ヨシの茎を編んで作った簀(す)。よしすだれ。人目や日ざしをさえぎるのに使う。《季 夏》「影となりて茶屋の―の中にをる/誓子」
★よしず‐ばり【×葦×簀張り】
よしずで囲うこと。また、よしずで囲った小屋や店。「―の茶店」

★御簾(みす) [ 日本大百科全書(小学館) ] .
神殿や宮殿などで用いられる簾(すだれ)のこと。竹のひごを編み、綾(あや)や緞子(どんす)などで縁をとったもの。[ 執筆者:編集部 ]

★緞子(どんす) [ 日本大百科全書(小学館) ] .
段子、閃緞、鈍子とも書く。繻子(しゅす)組織を基本とした紋織物で、綸子(りんず)と異なる点は、機織前にあらかじめ染色した糸を用いて織り上げる「先染め」の織物であること。一般には経(たて)の五枚繻子組織を地として、文様はその裏組織である緯(よこ)の五枚繻子で織り出したものがもっとも多い。特色は、光沢に富み、文様が地と異組織であることによって明瞭(めいりょう)に織り出されることにあり、さらに経緯に異色の色糸を用いることによって、文様が明確に表される。
緞子は『元典章』工部巻の一に「段子」の名が散見されるように、中国元代にはすでに織製されており、日本には繻子織などとともに中世に舶載された。後世それらのうちのあるものは「名物裂(ぎれ)」として伝えられ、珍重されている。しかしこれらの名物緞子類を通観すると、かならずしも繻子組織によっていないものが含まれている。たとえば、「珠光(じゅこう)緞子」の本歌(ほんか)といわれる松屋肩衝(かたつき)茶入の仕覆(しふく)、「笹蔓(ささつる)緞子」「荒磯(あらいそ)緞子」などがそれで、とくに名物緞子のなかでも古様なものほどその傾向が強い。おそらく当初は、地と文様が異組織、異色ではっきりと織り出された紋織物に対して、緞子の名があてられたものと思われる。
しかし明(みん)代以降の繻子織物の隆盛とともに、この種の紋織物も繻子地を基本としたものが一般的となり、日本においても明代の織法をまねて天正(てんしょう)年間(1573~92)のころに織製され始めたと考えられる。京都西陣(にしじん)を主産地とし、江戸時代を通じて小袖(こそで)、帯、羽織裏、夜具地、袈裟(けさ)地として広く利用され、江戸時代末からは桐生(きりゅう)でも織製されるようになった。明治10年代から20年代には緞子の全盛期を迎えるが、その後は他の紋織物に押されて衰退し、現在では表具地や茶器の仕覆や袱紗(ふくさ)など、ごく限られた場でしか活用されていない。[ 執筆者:小笠原小枝 ]

★スダレヨシ(すだれよし) [ 日本大百科全書(小学館) ] .【簾葦】
[学名:Pleioblastus chino (Fr. et Sav.) Makino f. apumilus (Mitf.) S. Suzuki]
イネ科のタケササ類。ネザサの品種であるが、節に長毛を密生するのでネザサと区別される。稈(かん)は高さ約2メートルとなり、初年には分枝しないか、または上方ですこし分枝する。簾(すだれ)の材料として好適で、とくに愛媛県久万高原(くまこうげん)町が昔から産地として名高く、そのためイヨスダレまたはイヨダケの別名がある。2年目以降は一節から数本の枝が出るが、これを箸(はし)や楊枝(ようじ)、つまり御器(ごき)(食器)の材料にするので、ゴキダケの別名もある。[ 執筆者:鈴木貞雄 ]
★伊予簾(いよすだれ) [ 日本大百科全書(小学館) ] .
平安時代の伊予国(愛媛県)の代表的な物産。都の貴族の邸宅で日よけとして使われ、風情あるものとされたらしく、『枕草子(まくらのそうし)』に「庭いと清げにはき、伊予簾掛け渡し、布障子など張らせて住ひたる」とあり、『詞花集』に「逢事(あうこと)はまばらに編めるいよ簾いよいよ人を佗(わび)さする哉(かな)」とある。『愛媛面影(えひめのおもかげ)』に「伊予国むかしより簾を出す、名産なり、篠(しの)もて荒々と編たり」とある。愛媛県上浮穴(かみうけな)郡久万高原(くまこうげん)町露峰(つゆみね)のイヨス山66アールの地に自生している直径3ミリメートル、長さ2メートルぐらいのイヨダケという細長い竹を原料とする。江戸時代大洲(おおず)藩に属し、製品は大坂あたりへも出されたが、現在は民芸品として地元でわずかに生産されている。[ 執筆者:伊藤義一 ]

★葦簀・葭簀(よしず)の意味・語源・由来を解説。
【意味】よしずとは、葦で作った簀。日よけや人目を遮るのに用いる。よしすだれ。
【よしずの語源・由来】
よしずの「よし」は、イネ科「アシ」の別名「ヨシ」のこと。
よしずの「ず」は、割り竹や葦を糸で編んだものを表す語でく、「すのこ」「すだれ」の「す」と同源であるが、よしずは「よしすだれ」とも呼ばれるように、ヨシで作ったすだれの意味である。
ただし、「よしすだれ」が略され「よしす」、「よしず」へと変化したのではなく、「すだれ」が単に「す(簀)」と呼ばれていたことから、ヨシの簀で「よしず」となったものである。

★簾(すだれ)の意味・語源・由来を解説。
【意味】すだれとは、細く割った葦や竹を、糸で編み連ねたもの。日よけや目隠しとして垂らす。
【すだれの語源・由来】
すだれは、「簀(す)」+「垂れ(だれ)」で、すだれを単に「す」と言うこともある。
「簀(す)」は、蒸籠(せいろう)や巻き寿司をつくる際に用いられる割り竹を並べて編んだもので、これは「すだれ」とも呼ばれる。
また、貴人や神仏の前に垂らすすだれは「御簾(みす)」と言う。
「簀(す)」の語源は、「隙」「透く」など「隙間があるもの」の多くに使われる「す」で、これらは全て同源と考えられる。