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▲ ボーイング社のテストのイメージ。ミサイルからターゲット方向のすべての電気システムとコンピュータ系統をクラッシュさせる。
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(訳者注) 最近の話題からは唐突に外れますが、今朝、「 EMP 」に関しての報道が目にはいりました。

アメリカ空軍から研究依頼を受けていた米国ボーイング社が、マイクロ波ミサイルといわれる、「電子系統クラッシュ兵器」を完成させ、そのテストに成功したという報道があったのです。

これらは昔でいう「ブラックアウト(停電)爆弾」と呼ばれるものなのですが、停電爆弾という何となく間の抜けた語感とは違い、私個人は核型の EMP (電磁パルス爆弾)を含めて、これらは一種の「究極の終末兵器」だと思っています。

なぜかというと、現在の多くの国と、その人々の生活は「何もかも電気システムとコンピュータから構成されているから」です。

下は米国ボーイング社の今回の実験の際の写真。

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▲ テスト用に設営された複数のビルをターゲットにし、そこにコンピュータなどを配置。ミサイル発射直後にすべてのコンピュータは写真下のようにクラッシュしました。 BLAZE より。


過去、高高度での核爆発での EMP 兵器の威力に関しては、何度か取り上げたことがありますが(関係した過去記事は末尾にリンクしておきます)、これは非常に広い範囲に対してしか使えないものです(爆発高度によりますが)。

たとえば、 EMP 兵器は、「ひとつの国を滅ぼしたい」とか、そういうのには効果的でも、限定的に使うことが難しいので、通常の兵器とは言いがたいものがあります。

核を用いた EMP 攻撃というのは、たとえばターゲットが日本なら、基本的には一発の爆弾による一発の爆発だけでOK(名古屋上空で爆発させれば、本州の全域が復旧の見込みのない停電に陥る)というたぐいのものですが、ただ、「影響範囲が大きすぎる」ので、実際に使うには無理があると思うのです。

それだけに「実戦でも使える EMP 」の開発には、各国がその研究にしのぎを削っていたのがこの数年だったようです。

このあたり、少し過去記事や他のサイトの記事などから資料を抜粋しておきます。

まず、EMP 爆弾と呼ばれる兵器について、上に「名古屋上空に~」というのを書きましたが、下のは In Deep の過去記事ですが、2011年6月の「韓国統一ニュース」という韓国のメディアに掲載された文章を訳したものを載せていますが、そこからの抜粋です。


1997 年7月16日、米連邦下院国家安全委員会の公聴会に提出された資料によれば、電磁波兵器が北米大陸の中央部上空 50kmの高さで爆発した場合、半径 770kmに及ぶ地域が破壊される。そして、上空 200kmの高さで爆発すれば半径 1,600 kmに至る地域が破壊され、さらに、上空 480kmの高さで爆発すれば、半径 2,360 kmに及ぶ地域が破壊されることが示された(下の図)。



ニューヨークからサンフランシスコまでの直線距離は 4,140 kmであり、北米大陸中央部の上空 480kmの高さから高高度電磁波兵器が爆発すれば、北米大陸は巨大な電子雲に完全に覆われるのだ。 (中略)


日本への攻撃

国土面積が狭い日本には大陸間弾道ミサイルは必要なく、中距離ミサイルを高高度電磁波兵器を乗せて日本列島中央部にある名古屋上空 45kmの高さで爆発させることで、九州西端の長崎から、青森まで、日本列島が電子雲に完全に覆われる。

北 朝鮮の西海にある衛星発射場を距離測定の基準点にするとそこから北米大陸中央部までの距離は 9,800 kmで、名古屋までの距離は 1,200 km 。発射された高高度電磁波兵器が北米大陸中央部上空に達するまでの時間は 30分、名古屋上空に達する時間は、発射からたった 4分だ。




全文の翻訳は、過去記事の、

北朝鮮はスーパーEMP兵器を完成させたのか?
 2011年06月27日

にあります。

この韓国メディア記事では、米国と日本を例に挙げていますが、周辺国で EMP 兵器を持っているのは北朝鮮だけだと思われ( EMP 兵器には核が必要なので)、実際にはもっとも危機感を持っているのは、北朝鮮の隣国である韓国だと思われます。

なので、韓国軍は以前から研究を続けていますが、核を持っていない韓国では、破壊力のある EMP 兵器を作ることができていないようです。それは上の記事にある、


韓国軍が開発中の非核低高度電磁波兵器とは比較などできないほど EMP 爆弾は、その破壊力が強く、軍事戦略の拠点に設置された電磁波防護施設まで破壊してしまう恐るべき威力を発揮する。



という記述からも感じられます。

「非 核(核を使わない)」の電磁波兵器は弱い。とはいえ、核を使った EMP はあまりにも破壊力が強く、いわゆる「普通の戦争」で使えるものではありません。戦場で使えば、「敵も味方も何もかも電気システムがクラッシュしてしまう から」ですが、今回、米国のボーイング社が開発に成功したマイクロ波ミサイルは、制御できる電気システム完全クラッシュ兵器のようです。

そして、この登場というのは、なかなか厄介な時代に投入したなあ・・・と、やはり思います。


この「マイクロ波ミサイル」については、4年前の WIRED に記事が書かれたことがあります。
概略を抜粋いたします。


マイクロ波ミサイルや「停電爆弾」:敵国の電子機器を使用不能にする「電子戦」
WIRED 2008.12.10

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ローテクの過激派でさえ、最近は多少の機器を使いこなしている――1、2台の携帯電話でしかないかもしれないが。米空軍が、敵の電子回路を瞬時に焼き切ってしまう新しいマイクロ波ミサイルを製造したいと考えているのもそのためだ。

4000 万ドル( 32億円)の費用を計上している3年計画の『対電子機器高出力マイクロ波(HPM)先進ミサイル・プロジェクト』とは、「電子システムの劣化や損傷、破壊 をもたらす能力を備えた技術を実証するための、多発式多目標HPM空中プラットフォームの開発、テスト、実証」を目的としているという。

だが、こうした電磁波爆弾にはさまざまな問題が付きまとっている。「費用、サイズ、ビーム制御、発電など、解決不可能にも思える条件」がいくつもあるという。



この「解決不可能にも思える条件」が、今、解決したようです。

まあ・・・・・以前書いたEMP 兵器の記事や、スタクスネットなどのインフラ破壊ウイルスの怖さというのは、要するに「私たち現代人が驚くほど電気とネットワークとコンピュータシステムに依存して生活している」からです。

過去型の「停電兵器」というのは、化学処理したカーボンファイバーなどを敵の電力施設の上空で無数にばらまき停電させるというようなものでした。影響は限定的ですし、不確実でもあります。

しかし、最新型のこの「停電兵器のたぐい」がクラッシュさせるものは、EMP 兵器などとほぼ同じだと思われ、すなわち、

・電気系統
・コンピュータシステム
・放送を含むネットワークシステム
・携帯を含む通信システム
・インターネット網

などの全部だと思うのです。

現代の戦争はほとんどこれらに依存していますので、つまり、上のものがすべてクラッシュした場合、先進国の軍隊は軍隊として機能しないと思います。

下の記事では、ボーイング社の研究者の人が、「我々は戦争の新しい時代を切り開いたのです」というような言い方をしていますが、まあ、そういうことになるのかもしれません。

たとえば、「これから戦いに行く都市機能の無力化」ということがわりと簡単にできてしまう。兵隊は、相手の都市と軍隊の機能が麻痺した後に行けばいい、と。


そういう兵器があった場合、米軍は使うかというと、「使う」と思います。前例もあります。米軍は、カーボンを使った過去型の「停電兵器」を 1999年のコソボ紛争で使ったとされています。

なので、新しい停電兵器でも躊躇なく使うと思います。

今年の夏頃に、

アメリカ国防総省の機関がサイバー戦争での自動対応プロジェクト「プランX」構想を発表
 2012年08月23日

という報道をご紹介したことがあります。こちらは、1963年の映画『博士の異常な愛情』の中に出てくる「世界全滅装置」を彷彿とさせる計画の話でした。

今の世の中、小さなものから大きなものまで、ほとんどすべてが、電気とかネットワークとかで牛耳られていて、それらが「破壊された時」というのは、文明という点からは「この世の終わり」なわけで、こちらの「進み具合」というのもいつも気になることでもあります。

それでは、その新型ミサイルのテストに成功した報道を米国の CBS ニュースから。





Boeing Successfully Tests Microwave Missile That Takes Out Electronic Targets

CBS (米国) 2012.10.25

ボーイング社が電気システムをクラッシュさせられるマイクロ波ミサイルのテスト飛行に成功


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▲ アメリカ空軍が進める「対電子機器高出力マイクロ波先進ミサイルプロジェクト CHAMP 」のイメージ画像。


米国ボーイングは、他への損傷をほとんど与えずに「電気系統システムだけを破壊させることができる」新しいミサイルの試験をおこなった。

ボー イング社のプレスリリースによると、米国ユタ州にある「ユタ・テスト・アンド・トレーニ ング・レンジ ( Utah Test and Training Range )」において、ミサイルの電波の影響を測定するために、コンピュータとエレクトリックシステムを起動させたマイクロ波ミサイルがテストされた。

このミサイルは、 CHAMP (対電子機器高出力マイクロ波先進ミサイルプロジェクト/ Counter-Electronics High Power Microwave Advanced Missile Project )として知られている。

試験で、このミサイルは、正常な電気系統システムやコンピュータ・ネットワークを使用不能にすることができることが確認され、さらに、テレビカメラの録画記録まで吹き飛ばした。

CHAMP プロジェクトのプログラム・マネージャーのキース・コールマン氏( Keith Coleman )はプレスリリースで次のように述べている。

「この技術は、現代の戦争において新しい時代を切り開くものだといえます。近い将来、この技術を使うことにより、自国の軍隊が現地に到着する前に、敵の電子系統とコンピュータ機能をクラッシュさせ、使い物にならなくさせるという目的のために使われる可能性があります」。

試験では、7カ所のターゲットが作られたが、それは1時間の間に、他の副次的な損害をほぼ出さずにすべての電気系統をクラッシュさせることに成功した。

コールマン氏は、この技術が非致死性戦争(人を殺さない戦争)においての大きな前進だと確信しているという。コールマン氏は、プレスリリースで、「今日、私たちはSFの世界を科学事実に変換することができたのです」と述べている。

ボーイング・ミリタリー・エアクラフト社のジェームス・ドッド副社長は、このマイクロ波をなるぺく早く配備できることを希望している。

今回のテストには、アメリカ空軍調査研究所の指向性エネルギー局( U.S. AFRL Directed Energy Directorate )のスタッフたちも参加した。



(※)ここに出てくる指向性エネルギー局というのは「指向性エネルギー兵器がもたらす生物学的影響に関する研究部門」だそうです。





(訳者注) これまでの EMP とスタクスネットについてふれた記事をリンクしておきます。

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今回の記事と関連した過去記事:

「 EMP 攻撃シミュレーション」だったとすると完全な成功を収めたように見える北朝鮮のミサイル実験
2012年04月17日

米国の保守系シンクタンクが「米国は電磁パルス攻撃で壊滅する」と報告
2010年11月30日

地球文明を破壊する威力を持つウイルス「フレーム」が歩き始めた
2012年06月10日



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[1年前の In Deep ]
2011年10月26日の記事

巨大な磁気嵐がもたらしたアメリカ全域での「赤い空」



▲ 2011年10月24日の米国ミズーリ州インディペンデンスでの夜の空。

http://oka-jp.seesaa.net/article/299121149.html