続著作権の話 | 調布ヶ丘第3倉庫(西中島分室)

続著作権の話

前回記事は前ふりだけで終わってしまった。
ということで、本題。
 
事の発端は、1月21日の徳島大学で行われた徳島ICT研究協議会に参加した@emanon34氏が武雄市長の樋渡啓祐氏の講演内容を録音し、それを聞きながら印象に残った箇所を書きだしたメモをtumblrにアップロードしたところから始まる。
 
中身をみたらわかるだろうが樋渡氏の講演内容に関して、かなりの非難の声が上がった
 
エゴサーチ大好きな樋渡氏がそれら非難を見て気分を害したことは想像に難くない。
すると、武雄市の方から発、徳島大学経由で、@emamon34氏宛に名誉毀損及び著作権法違反であることからアップしたメモの非公開とさもなくば(徳島?)県警に通報する旨の抗議メールが届き、同氏は公開を取りやめた。
武雄市は徳島大学を通じてブログ主に圧力をかけ警察権力を使う?
 
僕も@emanon34氏のアップしたメモを読んでいたので徳島大学の抗議内容が正当か考えた。
 
まず、名誉毀損について。
 
徳島大学からの抗議メールによれば個人名が出ている云々とあったそうだが、それはイベントでのパネリストや質疑応答での質問者くらいで彼らに対する名誉毀損表現は見当たらなかった。確かに、樋渡氏の講演の中で自身に対する批判者を人相が悪いと名誉毀損というか侮辱する発言があったことが窺えるが、個人名は出ていない。そのため@emanon34氏のメモでは名誉毀損にならない。なるとすれば批判者の顔画像を映写しながら話していた樋渡氏のみが名誉毀損の加害者ということになる。

次に、著作権法違反について。
 
これは講演メモをネット上にアップしたことが、著作権法違反(複製権侵害または公衆送信権侵害)になるのかという問題である。

著作権法の一般論についていちいち解説するのも面倒なので文化庁に手ごろなテキストPDFがあるので参照してもらいたい。
 
「講演」も言語の著作物なので著作権法による保護の対象となる。
そのため、生の講演を録音することは、一応複製権侵害となりうる。
一応というのは著作権法は著作物の無断利用ができる例外を設けており、録音が私的利用のためのものであればいわゆる私的複製として適法とされるからである(法30条)。
今回の講演では録音が禁止されていなかったが、仮に録音が禁止されていたとしても、私的利用のために録音することは法30条により著作権法違反の問題は生じない(つまり、著作権法的には適法)。
講演聴講契約(契約名称は適当)上の債務不履行の問題としては残るが、その場合でもばれたら会場からつまみだされるとか、録音物の消去を求められるとか、何らかの金銭賠償を求められるとかの純粋民事の話であって、犯罪としての著作権法違反ではないから県警に通報してもどうしようもない話である。
 
録音は問題ないとして、メモをネット上にアップすることは複製権侵害(メモの作成)または公衆送信権侵害(アップ行為)の問題にはなりうる。
とはいえ、複製権の侵害というには、単なるメモ以上の録音物をそのまま反訳したような講演録とでもいえるようなものである必要がある。
あくまで、著作権が保護するのは、創作物の「表現」であって、そのアイデアやネタ等ではないからである。アイデアやネタの保護は著作権ではなく特許権である。
生の講演でも録音でも聞きながらでもメモやレポートを作成する際でも、逐語反訳しようとして作成したものでもない限り、メモ作成者が講演を聴き→咀嚼し→まとめるという過程を経ているため、講演による表現そのものを複製したものになることはほとんど考えにくい。
つまり、メモやレポートが講演のネタバレになったとしても、それが直ちに複製権を侵害するものになっているわけではない。
むしろ、メモやレポートの作成にあたり、作成者による内容整理や表現方法の検討が行われていることから、講演メモやレポートに関しては講演者ではなく、メモ作成者自身の著作権が発生しているといえるのである。
今回の@emanon34氏のメモに関しては録音物の時間と樋渡氏の話した内容とが記載されており、当該箇所の逐語反訳ではないかとの可能性もあるが、同氏によれば逐語反訳ほどの精度はない自分なりのまとめということでもあるので、そのあたりは実際の録音物と突き合わせて検討しないと果たして複製権の侵害といえるほどのものかはわからない。僕は録音物を突き合わせて検討したわけではないが、個人的には話を聞きながら書きなぐったメモ以上のものではないから、複製権の侵害にあたるようなものではない可能性が高いとは思う。
 
なお、アップ行為が公衆送信権侵害かはメモが複製権侵害に該当するかとの対応関係にあるので細かい話は省略する。
 
さて、著作権法違反と言えば親告罪であるから被害者が告訴しなければ、著作権法違反行為があっても直ちに処罰されるわけではない。非親告罪にしようという動きがあるような感じだが、いわゆるフェアユース規定がない日本においては親告罪となっていることで、著作物の利用と著作権者の権利保護がそれなりのバランスで保たれてきたのではないかと思うので、個人的には非親告罪化には反対である。
今回、徳島大学から@emanon34氏へ抗議があったが、講演の著作権保有者は樋渡氏個人であるから、著作権法違反の抗議も県警への通報警告も樋渡氏から直接なされるべきものである。
徳島大学によれば武雄市の方からのクレームを受けての抗議とのことだが、徳島大学は被害者たる著作権者じゃないし、武雄市もまた同様である。被害者でない武雄市からのクレームに応えて、被害者でない徳島大学が抗議を行ったということ自体おかしな話である。
樋渡氏の手元には講演の参加者名簿がなく徳島大学にしかないので、直接抗議ができないことから、豊島大学経由で抗議したということならまだわからなくもないが、その場合でも武雄市ではなく樋渡氏個人からの抗議でないと筋が通らない。
もっとも、@emanon34氏がメモのネットへのアップを告知したのはtwitterで#takeotoiletタグをつけてのことである。樋渡氏も@hiwa1118としてtwitterをやっており#takeotoiletタグについても知っている。直接抗議をしようと思えばtwitterを使って行うことが容易だったのである。
 
それなのになぜ、「武雄市」「徳島大学」を経由して「県警に通報」という警告をして公開を停止させようとしたのか。
 
それはひょっとして講演内容が広まることがネタバレを超えてまずいことがあると感じたからではないかと邪推を働かせつつ、もうちょっと続きを書くことにする。