★facebookと樋渡啓祐・武雄市長 旬なコラボに目が離せない | ジャーナリスト 石川秀樹

ジャーナリスト 石川秀樹

ちょっと辛口、時どきホロリ……。理性と感情満載、世の常識をうのみにせず、これはと思えばズバッと持論で直球勝負。
3本のブログとFacebook、ツイッターを駆使して情報発信するジャーナリスト。
相続に強い行政書士、「ミーツ出版」社長としても活動中。


開演15分前。舞台の袖から長身のスタッフが降りてきた。
そのままフロア席の人と何やら談笑している。
薄いグレーのシャツをスラックスの上に出し、靴はスニーカー。

『あっ、あれは樋渡さん?』

次々に知人を見つけては、会話が続く。
「撮ってもいいですか?」の声に気軽に反応して、女性とツーショットで収まる。
会場でも“本人”の登場に気がついた。
バッグから本を出し駆け寄る人がいる。
差し出すとそれにサイン
。本は『首長パンチ』であるらしい
。樋渡啓祐武雄市長、2冊目の著書である。
若い夫婦が近づく。奥さんが何ごとか言うと、樋渡さんは男性をつかまえて抱きつきポーズをし、夫人が構えたカメラの方に向いた。
ころあいを計って会場左手の扉から姿を消す。
10分余のパフォーマンスだった。


午後6時半。時間かっきりに講演会が始まった。
主催者のあいさつ、三島市長の祝辞があって、司会の寺西隆之実行委員長が樋渡市長を呼ぶ。
「『10人くらいだから、おいでよ』と言われてきたら、だまされちゃったなぁー」
会場を振り返って見れば、三島市民文化会館小ホールはぎっしりと埋まっていた。
旧知の寺西さんとの掛け合いが終わると、長身のシャツ男はまた会場に降りてきた。
通路を進みながら話す。
「きょうの話は、キモは最後の15分だけですから。途中、眠っちゃってもいいですよ」
堅苦しいあいさつ言葉はいっさい抜きで始まった。


hidekidos かく語り記-樋渡啓祐 武雄市長



【お葬式用ビデオを用意してきました】
おとなしい人間なんですけどね、発言させると人が変わって橋下徹のようになっちゃう。
だから批判も非難も悪口雑言もすごい。
リコールもされちゃいましたからね。
リコールは車だけにしろ、って言ったんですけど……。
(2008年11月、リコール請求成立直前に辞職、翌月の再選挙で当選)
21憶円の損害賠償訴訟も起こされてますから。
だから地元では、「いつ殺されてもおかしくない」といわれてます。
葬式になると大変でしょう?準備が。
急には作れないので武雄市役所の僕のスタッフが「いつでも使えるように」って、僕のお葬式用ビデオを作ってくれました。(以下、動画の説明)


【「無名」であることは武器である】
「1719」この数字の意味がわかる人、いますか? 
(会場から「全国の自治体の数?」)
そうです、よくわかりましたね。
6年前に早稲田大学で講演したときに、100人に「武雄市を知ってますか?」と聞いたんですよ。何人知っていたと思います?
(会場から「3人」「5人」の声)
1人でした。
よく知ってたなと思ってさらに聞くと、「PKOで…」とか言う。
「そりゃ、タケオ市でしょう、カンボジアの!」
まあ、こんな調子です。
佐賀県がどこにあるのか聞いたら、「四国」って人がいましたよ。
それじゃあ五国になっちゃう。


佐賀県武雄市は無名です。
それで市長になってから一所懸命宣伝した。
「レモングラスは武雄の名産です」
「武雄駅の目の前にはレモングラス畑が広がっている」なんて。
そうしたらこの前、武雄市に来た人が「駅前にレモングラスなんかないじゃないか」っていうんです。
ウソがばれちゃった。
ウソはいけないけど、無名だから大ボラ吹けばそれが通っちゃう。
レモングラス、今では年間5億円の売り上げ。
「無名」であることは、実は武器になるんですよ。
知られてないから先入観なく、どんどん広げることができる。


【勢いのある人と組む】
(舞台上の大型スクリーンに橋下徹大阪市長と樋渡市長が握手をしている写真)
このとき初対面です。
そうは見えないでしょう。
政治家は握手をするとき、必ず両手でします。
握った手を離さないように。
これ「ブロック」と言います。
この写真をブログや、ありとあらゆる媒体にばらまきました。
効果てきめん。
「樋渡さん、橋下さんとも親しいんだね」
「橋下さんと一緒なんだ」
錯覚、幻想です。
でも、そう信じてくれて投票してくれる。
これ、後の祭りと言います。
(小さい声で)「維新の会に入れ」と言われています、でも入りません。
力弱い自治体の首長は、勢いのある人と組むのがいいんです。
(孫正義さんとのエピソード、そしてTSUTAYA社長の増田宗昭さんとのエピソード。※増田さんとの件は後述)


【ドラマチックシアター武雄の市議会】
この中で、市議会を傍聴したことがある人(会場からパラパラと挙手)。
では、議会を見ていておもしろかった人は?(今度は1名)。
武雄市議会は200人が傍聴します。
地元のCATVが議会の模様を中継すると、視聴率50%、「紅白」を抜いてます。
Ustreamは2000人が見ます。
武雄の市議会はおもしろい。


(スクリーンに新聞の1面が映される。「市長暴走」「興奮、陳謝」などの大見出しが躍る)
市民病院の民営化をめぐってリコール騒ぎにまでなるんだけど、議会の答弁だって、殺(や)るかやられるか、生きるか死ぬか、のるかそるかですよ。
おもしろくないわけがない。
皆さん、議会はおもしろくないと思っているでしょう? 
ここがミソです。
うちの議会にはハラハラドキドキがある。
だから見てくれる。
注目される。


【どこかの国と似ているぞ、武雄市の戦略】
(スクリーンに文字が大写し)組む・反省せず・過ぎる・笑わす・Speed & Open・劇場化
どこかの国と同じでしょ、笑いをのぞけば。
北朝鮮の国力は都道府県最下位の沖縄県よりも低い。
それでも大国を相手にしている。
テポドンを飛ばすときは、世界にニュースがない時を狙っている。
自治体は「ニュースに取り上げてくれない」なんて言いながら、こういうこと考えていない。
武雄市は5月4日に発表しますよ。
ゴールデンウィークでニュースなんか枯れちゃっているから。


「反省せず」しません!
反省しても暗くなるだけでしょ。
悔い改めても同じ状況は2度と起こらない。
それより前を向いてチャレンジした方がいい。
松下幸之助さんは「失敗したことがない」と言う。
なんて嫌な人かと思ったけど、「成功するまでやるんだ」と。
だから全部、成功へのプロセスになるんですよ。


「過ぎる」 過ぎてる、壊れてます。
過ぎる人でないとやれないでしょう。
「笑わす」 町づくりのつまらないとこは、笑いがないことです。
葬式よりひどいよ。
「市長は決断が速いですね」と言われます。
スピードは最高の付加価値ですよ。
同い年で今では仲良しになった橋下徹大阪市長と話したとき「師匠は誰なの?」と聞くと「デーブ・スペクターだ」と言うんですよ。
「最初の5秒が大事だ」と教えたらしい。
つかみの5秒です。
(テレビ画面に出てくる前から)彼は計算している。
僕の決定が速い理由は、決定する前から決めているからです。
行政が遅いと言われるのは、完成品を出そうとするからだね。
完ぺきなものを出そうとする。僕は仕掛品でいいから出せ、と言っている。
ベータ版でも世に出すんですよ。
具合が悪ければ変えていけばいい。
スピードは最高の付加価値です。


【なぜfacebookなのか】
(スクリーン。「世界一人口が多いのは?」)1番は? 中国。2番は? インド。
では3番は?(会場沈黙)facebookです。10億人。
日本では1500万人くらいですか? 
この前、80歳過ぎのおじいさんからfacebookのメッセージが届きました。
どうしてこの人が送れたのかなと思って調べたら、お孫さんが代筆してました。
そういうことなんですよ、高齢者だから(facebookなんか)使えないと決めつけない。ど
どん伸びていくでしょう、そこに乗っかるということですよ。


※(別のインタビュー動画から「なぜfb」なのかを補足→)
うちみたいな弱小自治体が、ホームページも、ツイッターも、facebookも全部やるというのは不可能な話なんですね。
資源を集中投下するっていうのは経営者としては大事。
経営判断です。
あとは勝ち馬に乗るってことですね。
facebookは使っていて楽しい、実名だから。
匿名であるところに自由はないです。
公の部分と自分のプライバシーという部分が融けている、facebookは1人1アカウントだから。それが今、すごく時代に合っていると思う。


【稼ぐ自治体をめざして「F&B良品」始めた】
(ここから舞台に杉山隆志㈱SIIIS社長が登場。市長と掛け合いで武雄市が運営するfacebook版の特産品販売サイト「F&B良品」の説明を始める)
稼ぐ自治体、もうける自治体にしようと「フェイスブックシティー課」というものをつくりました。
市の特産品を売ろう、市内の人が作っているものを武雄市が間に入ってネット通販をしようというので「FB良品」というfacebookページをつくりました。
FanBuy(ファンバイ)武雄市


(※このショップ、fbページで商品のPRや関連情報、スタッフの動向などを自由に投稿。実際に商品を購入するのは別のページで、という構成になっている)
facebookを使うというのはオリジナリティーがないと言われるけれども、デザインも先にできているしアレンジするだけだから格安に済む、サーバー代がいらない。
あるものを組み合わせて使うわけですよ。
だから出品者への手数料だって、ただにできる。
他の通販のプラットフォームに頼めば、極端なこと言えば売り上げの半分くらい持ってかれる場合もあるわけです。
武雄市がやれば手数料はいらない。
そこは、もうかったら税金でいただけばいいわけだから。


【80歳ばあちゃんの「うーん、うまかばーい!」でおコメ完売】
もちろんfacebookをプラットフォームにしたというのは、口コミ効果と言うのにも期待しています。
御田中米(みたんなかまい)というおコメがあるんですが、職員の家で80歳になるご両親が作っています。
売れないので職員が動画を撮ってYoutubeに載せたのをFB良品で紹介した。
素人の動画だから、大したことないんですよ。
職員と両親の3人が緊張して正面向いてしゃべるだけ。
(最後にお母さんが茶碗に盛った御田中米のご飯を食べて「うーん、うまかばーい!」。会場は爆笑)
でも、なんとも言えない笑いがある。
それで、80袋が1週間で売れちゃった。
笑いは共感を広げる。
これを見て、武雄市に来てくれる人まで現れました。
今、全国の自治体に一緒にやろうと声掛けしています。
11月には8市町村でポータルサイトを作って、年間10億ビューを稼ごうと、計画しています。


【世界初、公共図書館にスタバが入る】
今度、CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社、TSUTAYAなどを運営している)と組んで、武雄市立図書館を業務委託します。
これも地元では大もめにもめて、論争になったんだけど。
館内にカフェスペースを作りスターバックスが入る。
図書館でTポイントも使えるようにする。
そうすると「業者に個人情報を取られるだろう」なんて声が出てくる。
しかし、そこは工夫で乗り切れる。
だめな理由を考えるより、市民の方に向いているのかってことなんですよ。
市民にとって良い政策ならばやる。
やるというのが大事で、やりながら調整していく。
図書館も、最初の構想から最終形はずいぶん変わっているんですよ。


【ワンパッケージ化】
FB良品や図書館の民間委託は、民業圧迫ではないですよ。
楽天やAmazonを駆逐するなら問題だが、楽天、Amazonでは手数料が高過ぎて参入できない、救われない人たち、零細の店や人たちを救おうということ。
今までそういうサービスがないところにフィールドをつくるんです。
プラットフォームをつくるんですよ、それはベンチャー企業がやるより、自治体がやる方が信頼感があるだろうと。
もっと言えば、FB良品は地域連携でやりたい。


僕がいろいろやっているのは、ロールモデルを作りたいわけです。
だから事業をワンパッケージ化する。
それならほかの自治体がすぐ真似できる。
「公共図書館―TSUTAYA―スターバックス」みたいに、お手本をつくる。
どんどん真似してくれればいい。
もっとうまくいったら、今度は僕らがまたそれをパクリ返します。
むしろ「民業圧迫」と言われたいですよ。
力弱い自治体が連携して(事業の)バリューを上げていきたい。
できるんじゃないかと思ってます。
地方から元気になって日本を活気づけたい。
そしてね、本当に民業を圧迫するくらいに影響力が大きくなったら、(民業圧迫と言われないように)権利を誰かに売りますよ。


【自治体予算の年度主義をどうすり抜けるのか】
(会場から、「新規事業の予算を“市長の思いつき”でなぜ獲得できるのか」と質問が飛ぶ)
質問者:「三島市に限らないと思いますが、議会と予算は年度で動いている。実績がないと議題に上げることさえできないのが現実。なぜ武雄市ではできるのでしょう」

予算を獲得するために、臨時議会を開きまくりますね。
新規事業は本予算ではなく補正予算でやる。
どんどん臨時会を開いて、その場で(新規事業に)予算を付けていく。
予算を付ける代わりに無駄は省きますよ。
武雄市は僕が市長になったときに500憶円の累積赤字を抱えていた。
それをこの6年間で100億円削った。


それに僕はトップダウンじゃない。
「トップアップ」なんですよ。
僕は一般の会社なら、会長でCEO(最高経営責任者)。
ピラミッドの頂点の横にいるんです。武雄市の社長は副市長ですよ。
この人がCOO(最高執行責任者)兼CFO(最高財務責任者)で実質的なトップ。
僕は職員のところに行ってけしかけて、化学反応を起こさせる。
それが予算請求で回ってくる。
僕がダメというときもあるし、僕がその事業にかかわっていても副市長が通さないときもある。要するにふたりが拒否権を持っているんです。
議会もチェックするし。
だから僕は市政の独裁者だけど、統治はしていないし、できない。
そういうところでバランスが取れている。


■   ■
以上、三島市の講演内容を中心に「聞き書き風」にまとめた。録
音機を回したわけではないので、1字1句正確な文章になっているわけではない。
勘違いの解釈があるとすれば僕の責任だ。
より詳しい説明が必要と感じた個所については、他のインタビュー動画などからも引用した。


講演を聴いていてあらためて実感したのは、樋渡市長はまれにみる戦略家であるということだ。単に、アイデアを思いつくということではない。
それを実行に移すことにおいて、能力がありエネルギーを費やせるという意味である。
カネもないし自前のスタッフがいるわけでもない、舞い降りた舞台は武雄市という人口5万人の弱小自治体。
沈滞しきった現実が待っていた。
何とか変えなければいけない。
そこでカネは使えないけれども、人々の気持ちは変えていく事業を思いつく。
新しいことだ。
やろうとすれば反対が出てくる。
しかし、断固としてやりたい。
やり抜かなければならない。
そこで、気配りが生まれる。
周到な計算をする。
戦うために使えそうな手はどん欲に使ってみる。
もっとも有効に使ったのはメディアだ。
『市民のためにやっている。この町が元気を取り戻すためにやっている。正しく思いが伝われば、市民は必ず理解してくれるはずだ』と思っている。
伝わらなければ意味がないが、メディアが代わりに伝えてくれる。
新聞、テレビ……。
マスメディアは「新しいこと」に弱い。
そこをしたたかに利用する。
この6年でかなり政治家・樋渡啓祐の名は知られてきた。


そういう中で、ツイッター、facebookのソーシャルメディア時代がきた。
個人がメディアとなる時代だ。
すでに「有名」を得ていた樋渡市長にとっては、直接自分で流れが作れる時代になった。
個メディアの影響力はまだ「力弱い」。しかしこの2年間、ソーシャルメディアを意識したメディア戦略をとってきて、市と市民の関係はそれ以前に比べて何十倍もの強いきずなが生まれてきている。
口コミの威力は、選挙を通じて頭と体にしみ込んでいる。
そう考えると、冒頭に“演じた”樋渡さんのホスピタリティーもいくぶんは理解できるのではないか。
有名市長とツーショットできれば、多くの人はそれをツイートする。
facebookにもアップするだろう
。微々たる効果だ。
あるかないかの影響力かもしれないが、人の記憶にしっかり根を下ろす。
ソーシャルメディア時代は、個人が主役だ。
がっしりと個人をつかまえたうえで、また新しい政策を打ち立てる。


11月16-18日、武雄市はfacebookの話題一色に染まるだろう。
昨年行った日本facebook学会総会を今年も開くからだ。
大会のテーマは「地方自治2.0」。
ソーシャルメディア時代の自治体について激論を戦わせるのだろう。
大会のfacebookイベントページには「武雄市から 今後の地方自治の在り方に関する重大な記者発表も初日にされるかも?です」と、イミシンなメッセージも書かれている。
facebookを絡めたニュースとなるに違いない。
そしてそれはマスメディアによって全国に拡散されるだろう。
facebookは今が旬。
そして樋渡啓祐市長にも風が吹いている。
幸せな出合い。
双方がもっとも力を発揮できる時期に、何をしでかしてくれるのだろうか。
“武雄の劇場”にいましばらくは、目が離せない。



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