
あの人が旅立って3ヶ月、季節が変わろうとしていた。
宏章は、また携帯を開いて写真を見ていた。
空港で別れる前の、有一と蓉子の笑顔がそこにはあった。
蓉子の胸には、宏章がプレゼントしたペンダントが光っている。
その日の、蓉子らしい清楚な服に、それはとてもよく似合っていた。
携帯を操作し、今度は受信のメールボックスを開く。
過去の履歴をたどり、蓉子の名前を探す。
あった。蓉子からの最後のメール。
「もう、メールは送らないでください。
後ろを振り向くのはやめて、お互い、前を向いて歩きましょう。
お元気で、幸せになってください。 蓉子」
何度このメールを読み返したことだろう。
無味乾燥な携帯の文字でさえ、愛しい。
僕が風なら、今すぐあなたのところへ飛んでいけるのに…。
あなたを暖かく包み込んで、そっと見守ることができるのに…。
会いたい…
どうしようもなく、会いたい…
蓉子さん、あなたは強い人だ。
僕はまだ、あなたとの思い出の中から抜け出すことができません。
あなたの笑顔。
髪の香り…
白くて小さな手…
何もかも、忘れることができません。
あなたは、もう僕のことを忘れようとしているのでしょうか。
どうか、会えなくてもいい、いつの日か、笑って再会できるその日まで、僕のことを忘れないで…。
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「宏章!宏章!大変よ。」
「どうしたの母さん。」
「有一からはがきが来たのよ。蓉子さん、おめでたですって。
よかったわね。待ってたものね。
あら、そうだわ。
あちらのお母様にも、お祝いのお電話をしなくちゃ。」
母は、まるで自分の孫ができたようなはしゃぎようだ。
おじさんは年が離れた弟だし、もう祖母は亡くなっているから、そんな気分なのだろう。
「女の子だといいな。
そしたら、おばさんに似てきっと美人だよ。
僕のいとこかぁ。
大きくなったら、僕の奥さんにしようかな。」
「いやあね、この子ったら。いくつ年が違うと思っているの。
40過ぎまで一人でいるつもり。
さっさと片付いてくれないと、母さん面倒見きれないわよ。」
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蓉子さんが母になる。
僕のいとこが生まれる。
その子は、僕と血が繋がっていて…、蓉子さんはその子のお母さん。
祖父母がいて、母や叔父が生まれたように、蓉子さんと叔父がいていとこが生まれる。
その、当たり前のようなことが、改めて宏章の中で不思議な感情を育んでいた。
僕と蓉子さんは、新しい絆で結ばれた。
それはもう、何があっても切れることのないもの…。
蓉子さん、あなたはもう新しい道を歩き始めたのですね。
身ごもったあなたは、新しい命を抱いて、きっとますます美しく輝いているに違いない。
あぁ、あなたに出会えてよかった。
もし、叔父があなたと出会わなければ、僕とあなたは一生会うことがなかったかもしれない。
いま、初めてそのことに感謝します。
どうか、無事に新しい命が生まれますように。
あなたも、どうか健やかでありますように。
僕も、やっと前に進みだすことができそうです。
僕の幸せをつかむために…。
風になり あなたのもとへ 行けたなら
儚い願い 届かぬ想い
新しい 命が結ぶ この絆
深き縁と 不思議を思うい
新しい 命が結ぶ この絆
深き縁と 不思議を思う
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