【屋外遊び場】チェック機能放棄しゴーサイン出した郡山市議会。「子ども」不在の政治論理 | 民の声新聞

【屋外遊び場】チェック機能放棄しゴーサイン出した郡山市議会。「子ども」不在の政治論理

郡山市議会は18日、本会議を開き、市内4カ所に3つの屋外遊び場と1つの屋内遊び場を整備するための補正予算案を賛成多数で可決した。説明なき計画変更に、常任委員会では反対意見が相次いだものの、結局は多数の市議が賛成に回った。なりふり構わぬ行政に、チェック機能を果たせない市議会。最大会派からは「地元選出代議士の手前、反対できなかった」との声も。もはやこの街には、子どもたちを放射線被曝から守るという理念など存在しないのか。


【「被曝回避」棄てて「経済優先」】

 郡山市議会が、「子どもたちを放射線から守る」という理念を投げ捨てた瞬間だった。

 当初の「4カ所すべて屋内遊び場」から大きく軌道修正し、屋外3カ所、屋内1カ所として提出された議案に、ほとんどの議員が起立して賛意を示した。「起立多数」。議長の声が議場に響く。放射線被曝の心配なく子どもたちを遊ばせるための屋内施設は、1年半の時を経て、郡山市の安全性を対外的にPRするための道具に変わった。「子どもたちを守るという視点がなくなってしまった。経済優先そのものですね」。女性市議の1人は悔しそうにつぶやいた。

 議案の審議を付託された文教福祉常任委員会。討論に先立って行われた委員長報告が、12日に開かれた委員会の紛糾ぶりを物語っていた。他の委員長報告が軒並み「当局の説明を良とし、原案通り可決」だったのに対し、屋外遊び場計画に関しては、多くの時間を割いて反対意見や当局の答弁が報告された。委員会では「依然として放射線被曝を懸念する保護者は多く、当初計画に戻すべき」「計画地の一つである旧行建小学校跡地周辺には、既に公園が9カ所も整備されている。これ以上、屋外遊び場は要らない」などの反対意見が相次いだという。

 当局は、地域住民への説明会開催を約束。復興庁からの交付金措置が得られない場合には、計画そのものを見直すことまで口にした。結局、否定的な意見が相次いだものの賛成多数で原案は可決された。市議らはなぜ、本心では疑問を抱きながらも賛成に回ったのか。そこには、放射線防護からは大きくかけ離れた、義理人情の世界があった。
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18日に開かれた本会議で、起立して原案に賛意を示

す郡山市議たち。「子どもたちを放射線から守る」とい

う理念は完全に消え去った


【「前復興大臣の手前、否決できない」】

 「実はウラがあるんだよ」

 全40人のうち18人が所属する自民党系の最大会派「創風会」。ある議員は、本会議閉会後に苦笑交じりに語った。

 「地元選出の根本匠先生(前復興大臣)に頭を下げて予算措置をお願いし、大臣も交付金獲得のために汗を流すことを約束してくれた。それを今さら、地元議会が否決するわけにはいかないんだよ。根本先生に申し訳が立たない。いくら計画の中身が変わったとしても、ハシゴを外すことはできない。私だって根本先生のことがなければ反対なんだけど…」。総事業費15億円は国の交付金頼み。これまで複数の会派が根本大臣を訪ね、屋内遊び場整備も含めた復興予算に関して陳情してきた経緯がある。

 反対なのに賛成する。一般市民にはあまりにもわかりにくい政治の論理。この市議は取材中、「当局はNPO団体が実施した保護者アンケートを引用しているが、結果を都合よく解釈している」、「屋内遊び場を造らないのなら、既存の公園に少し手を加えるだけで十分」、「一番大変なのは市職員だろう。屋外遊び場を造る理由が無い」などと計画案に否定的な発言が相次いだ。本会議で反対討論を行った女性市議の意見に理解すら示した。それでも採決では起立して賛成した。

 子ども不在の義理人情。結果として子どもたちを利用した〝安全アピール〟に加担したという批判は免れまい。最終的に原案に賛成するにしても、本会議で会派としての意見を表明し、当局に釘をさすことくらいはできたはず。だが、それもせずに粛々と採決に加わったのは、議会としてのチェック機能を放棄したと言わざるを得ない。昨年8月に発行された「創風会だより」には、次のように記されている。「議会は市民から付託されたチェック機能や問題点の審査提言の任務があります。市民の立場に立ち、郡山市の将来を見据えてさらに議会での審議を進めていかなければなりません」。今こそ、この崇高な理念を思い出す時だ。

 「うーん…。政治っていうのはヤクザな世界だからさ」

 根本前復興相は、このような形で復興予算が消化されようとしていることをご存じか。
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(上)屋外遊び場整備候補地の一つ、大槻公園。「屋内

び場を造らないのなら、既存の公園に少し手を加え

る程度で良い」との声も

(下)郡山市内には、依然としてホットスポットが点在す

る。専門家は「放射性物質を吸い込むことによる内部

被曝を避ける取り組みはまだまだ必要」と指摘する


【「子どもを安全アピールの道具に使うな」】

 結局、本会議で明確に反対意見を述べたのは女性市議たちだけだった。

 岩崎真理子氏(日本共産党郡山市議団)は「今後、屋内遊び場を増やす意向がないことが明らかになった」「既存の屋内遊び場も順番待ちの状態。本来の子育てニーズを反映させるべき」などと反対意見を述べた。駒崎ゆき子氏(郡山の未来をつくる会)は「いつの間に子どもたちを守るという視点が無くなったのか」、「福島第一原発で何があってもおかしくない。子どもたちを守る取り組みは、注意しすぎるくらいやらないといけない」と批判。「北国にとって、全天候型の屋内施設は重要な施策」とも述べ、計画の全面的な見直しを求めた。「当局は住民説明会を開くと言うが、屋外遊び場を造るという方向性が決まってから住民の意見を聴いたって仕方ない」。

 「『屋内運動施設を4カ所整備することで、郡山は危険だから屋内の遊び場をつくったなどと間違った情報発信になる可能性がある』と挙げられているが、この意見に強い怒りを覚えた。これは、安全なのに放射線の影響を心配する方が悪い、風評被害になるから騒がないで欲しいということか。子どもを安全アピールの道具に使わないでいただきたい」

 そう強調したのは、滝田春奈氏(虹とみどりの会)。「将来どのような影響が出るか分からない中、不安を抱えながら子育てしている保護者や子どもたちの意見をしっかりと聞き、事業を再考するべきです」。

 別の女性市議は「(屋内遊び場では)国の帰還政策に反するから、復興庁から待ったがかかったのではないか」といぶかった。国の交付金措置が正式に決定するのは10月末だ。



(了)