続々著作権のお話 | 調布ヶ丘第3倉庫(西中島分室)

続々著作権のお話

前回記事では、樋渡氏がなぜ直接個人として@emanon34氏に講演メモの公開停止を求めず、「武雄市」「徳島大学」を経由して「県警に通報」という警告をして公開を停止させようとしたのは講演内容が広まることがネタバレを超えてまずいことがあると感じたからではないかと邪推を働かせたところで終わっていた。
 
講演内容を見れば暴言や失言のオンパレードで、確かに表に出る樋渡氏の評判形成や他者に対する名誉棄損・侮辱の問題に発展しそうな感じである。
 
しかし、それだけでなく著作権問題的に見過ごせないところがあった。
NHK福岡の特報フロンティアという番組において武雄市の特集が組まれ、樋渡氏も出演し、武雄市新図書館やF&B良品等について紹介された。
徳島大学での講演においては、途中でこの番組映像を20分ほど流して樋渡氏がコメントするという形で、図書館のCCCへの指定管理やF&B良品など自身が行ってきたことのPRがなされていたのだ。
 
NHKのTV番組も著作権法において保護の対象となるから講演会で上映するには権利者(NHK)の許諾が必要である。もし、得ていなければ上映権侵害となってしまう。また、講演会で上映するために番組を録画することは、もはや私的利用とはいえないため、複製権侵害にもなってしまう。
もちろん樋渡氏が講演会に先立ちNHKとの間で番組映像の使用に関して許諾を得るなどの権利処理をしっかりとやっておけば何の問題もない話である。
たまたまこの問題を知る数日前に、弁護士会のシンポの企画会議でNHKの番組仕様を検討していて、その時は秒単位で数万円の使用料がかかると過去に権利処理を行った弁護士会事務局の人から言われて断念したということがあった。だから。樋渡氏が権利処理をちゃんとしていたなら100万円とかのレベルで使用料を払っているということになるのでえらく太っ腹だなぁと思う一方で、予算的に権利処理をちゃんとやってないだろうという疑念を強く持ってはいた。
とある人がNHKに確認したところ、やっぱり無許諾で番組を使用していることがわかった。
 
もっとも、無許諾の使用(上映)も私的複製のように例外的に許されることはある。
1つは引用(法32条1項)であり、もう1つが非営利利用(法38条)である。
 
引用は
1 既に公表されている著作物であること
2 「公正な慣行」に合致すること
3 報道,批評,研究などの引用の目的上「正当な範囲内」であること
4 引用部分とそれ以外の部分の「主従関係」が明確であること
5 カギ括弧などにより「引用部分」が明確になっていること
6 引用を行う「必然性」があること
7 「出所の明示」が必要
の要件を満たす必要がある。
今回の樋渡氏の番組上映は、主に自身のPR目的に出たものであり「必然性」もなければ、20分という番組の大部分であるから「正当な範囲内」でもない。
そのため引用の要件を満たさない。
 
非営利利用は
1 「上演」「演奏」「口述」「上映」のいずれか(「コピー・譲渡」や「公衆送信」は含まず)
2 既に公表されている著作物であること
3 営利を目的としていないこと
4 聴衆・観衆から料金等を受けないこと
5 出演者等に報酬が支払われないこと
6 慣行があるときは「出所の明示」が必要
の要件を満たす必要がある。
今回の樋渡氏の番組上映は、主に自身の進めているF&B良品の営業・PR目的に出たものと考えられるので営利を目的としていないというには困難であるし、樋渡氏に講師料やいわゆる車代が出ていれば無報酬でもない。
無報酬化については未確認ではあるものの営利目的があると認められるのでやはり非営利利用の要件も満たさないといえる。
 
このように樋渡氏の講演会での番組上映はNHKの著作権を侵害していることになる。
徳島大学は武雄市からの方のクレームに応じて@emanon34氏を県警に通報するぞ~といっている場合ではない。講演の主催者として樋渡氏による著作権法違反の共犯(少なくとも幇助)という立場にある。
NHKは事態を知ったばかりであり告訴するかはこれから検討されるだろうけれど、樋渡氏も徳島大学も今のうちに何らかの手当てをしておいた方がいいのではなかろうか。
 
ちなみに講演会での番組上映は今回だけでなく2月6日の静岡県三島市でも行われていたようだ。
樋渡氏が常習的にやっていた手法だとするとさすがにNHKも見過ごすわけにいかないかもしれない。
暴言・失言はもとより、この講演会で番組上映ということが表に出るとかなり困ったことになると焦って、得意の反射神経とやらで「武雄市」と「徳島大学」経由で抗議をしたのではなかろうかというのが、僕の邪推の中身である。
 
以上で著作権のお話もひとまず終わりである。