
17日
「今日は遅くなるから、食事は先に済ませてくれ。」
「はい、今日は、お姉様の所によって、…」
「ああ、そうか。
宏章の買い物に付き合う日か。」
有一は、ハンガーにかけてあるスーツを見ていった。
「そのスーツ、今日着ていくつもりか?
いくら姉さんに挨拶するからって、そんな堅苦しくなくていいんだぞ。
ちょっと地味じゃないのか。」
「ええ、でも、ほかに合いそうな服もしまってしまったので。
これのほうが、無難ですから。」
「そうか…?
じゃ、姉さんによろしく。
行ってくる。」
有一は蓉子を抱きしめてキスをした。
「いってらっしゃい。」
蓉子は微笑んで手を振り見送った。
---------
「こんにちは。」
「まぁ、いしゃっしゃい。どうぞ。
宏章、蓉子さんよ。」
「引越しの前に、ご挨拶にも伺いませんで、申し訳ありません。」
「急なことだったし、いいのよ。いろいろ準備で忙しいでしょ。
有一には空港で会うことになりそうね。」
「本当に、申し訳ありません。」
「これ、お姉さまのお好きなロールケーキ。いつものですけれど。」
「あら、うれしい。ご馳走様。」
「それにしても、ちょっとみないうちに、ずいぶん奥様らしくなったわね、蓉子さん。
着ている服のせいかしら、ねぇ、宏章。」
「これじゃ、もう蓉子おねえちゃんなんて呼べないわね。おほほ…」
「やだなぁ、母さん、おばさんのことそんな風に呼んだことないよ…。」
「あら、おじさんのことだって、大学に入るまで有一兄ちゃんって呼んでたじゃないの。忘れたような顔をして…。」
「かなわないなぁ、母さんには…。」
「おばさん、早いとこでかけよう。母さんに付き合っていたら、おしゃべりで日が暮れちゃうから。」
「憎まれ口ばかりたたいて。
じゃ、蓉子さん、よろしくお願いしますね。
少し余分にお金を持たせましたから、何着かみてやってくださいな。」
「はい、お姉さま。
では、いってまいります。」
---------
「ねえ、これはどうかしら。
これからの季節にいいと思うんだけど。似合うわよ。」
「もう、いいよ。
合コンの服も決まったし、あんまり買い込むと荷物になるから。」
「だって、お姉さまに頼まれたのに…。」
「いいから…、それより、おばさんにプレゼントさせてよ。
アクセサリーは嫌いじゃないでしょ。
指輪はまずいから…、ネックレスなんかどうかな。
いいでしょ。ね、きまり。」
「ちょっと…」
宏章は蓉子の手を握ると強引にアクセサリー売り場のある5階へと向かった。
ジーンズにTシャツの宏章が、スーツ姿の蓉子を連れているさまはちょっとちぐはぐだった。
エスカレーターでも手を離さずに、宏章は蓉子の手の温もりを感じていた。
〈蓉子さん、こんなに小さな手だったんだ…〉
「これなんかどう?」
小さなピンクがかった紅い石がついたネックレスを指差した。
「今日の服装には合わないかもしれないけれど、おばさんに似合うと思うよ。
つけてみれば。
すみません、これお願いします。」
「僕がつけてあげるよ。」
「ありがとう。」
長い髪をよける蓉子の細く白い指がまぶしかった。
蓉子の髪の香りが鼻をくすぐる…。
「いかがですか、おばさま。」
「いいの、ほんとに。」
「お気に召したようだから、これ、いただきます。
プレゼント用に包んでください。」
「ありがとう。」
「ううん。ほんの気持ち。」
〈こんなことしかできないんだ。僕の気持ちを受け取ってください。〉
「おばさん、食事に行こう。」
「なにがいいかな。」
どさくさに まぎれて握る その人の
手の小ささに 心震える
細い指 髪の香りも この胸に
思い出として 残してください
動画・画像お借りしました
「今日は遅くなるから、食事は先に済ませてくれ。」
「はい、今日は、お姉様の所によって、…」
「ああ、そうか。
宏章の買い物に付き合う日か。」
有一は、ハンガーにかけてあるスーツを見ていった。
「そのスーツ、今日着ていくつもりか?
いくら姉さんに挨拶するからって、そんな堅苦しくなくていいんだぞ。
ちょっと地味じゃないのか。」
「ええ、でも、ほかに合いそうな服もしまってしまったので。
これのほうが、無難ですから。」
「そうか…?
じゃ、姉さんによろしく。
行ってくる。」
有一は蓉子を抱きしめてキスをした。
「いってらっしゃい。」
蓉子は微笑んで手を振り見送った。
---------
「こんにちは。」
「まぁ、いしゃっしゃい。どうぞ。
宏章、蓉子さんよ。」
「引越しの前に、ご挨拶にも伺いませんで、申し訳ありません。」
「急なことだったし、いいのよ。いろいろ準備で忙しいでしょ。
有一には空港で会うことになりそうね。」
「本当に、申し訳ありません。」
「これ、お姉さまのお好きなロールケーキ。いつものですけれど。」
「あら、うれしい。ご馳走様。」
「それにしても、ちょっとみないうちに、ずいぶん奥様らしくなったわね、蓉子さん。
着ている服のせいかしら、ねぇ、宏章。」
「これじゃ、もう蓉子おねえちゃんなんて呼べないわね。おほほ…」
「やだなぁ、母さん、おばさんのことそんな風に呼んだことないよ…。」
「あら、おじさんのことだって、大学に入るまで有一兄ちゃんって呼んでたじゃないの。忘れたような顔をして…。」
「かなわないなぁ、母さんには…。」
「おばさん、早いとこでかけよう。母さんに付き合っていたら、おしゃべりで日が暮れちゃうから。」
「憎まれ口ばかりたたいて。
じゃ、蓉子さん、よろしくお願いしますね。
少し余分にお金を持たせましたから、何着かみてやってくださいな。」
「はい、お姉さま。
では、いってまいります。」
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「ねえ、これはどうかしら。
これからの季節にいいと思うんだけど。似合うわよ。」
「もう、いいよ。
合コンの服も決まったし、あんまり買い込むと荷物になるから。」
「だって、お姉さまに頼まれたのに…。」
「いいから…、それより、おばさんにプレゼントさせてよ。
アクセサリーは嫌いじゃないでしょ。
指輪はまずいから…、ネックレスなんかどうかな。
いいでしょ。ね、きまり。」
「ちょっと…」
宏章は蓉子の手を握ると強引にアクセサリー売り場のある5階へと向かった。
ジーンズにTシャツの宏章が、スーツ姿の蓉子を連れているさまはちょっとちぐはぐだった。
エスカレーターでも手を離さずに、宏章は蓉子の手の温もりを感じていた。
〈蓉子さん、こんなに小さな手だったんだ…〉
「これなんかどう?」
小さなピンクがかった紅い石がついたネックレスを指差した。
「今日の服装には合わないかもしれないけれど、おばさんに似合うと思うよ。
つけてみれば。
すみません、これお願いします。」
「僕がつけてあげるよ。」
「ありがとう。」
長い髪をよける蓉子の細く白い指がまぶしかった。
蓉子の髪の香りが鼻をくすぐる…。
「いかがですか、おばさま。」
「いいの、ほんとに。」
「お気に召したようだから、これ、いただきます。
プレゼント用に包んでください。」
「ありがとう。」
「ううん。ほんの気持ち。」
〈こんなことしかできないんだ。僕の気持ちを受け取ってください。〉
「おばさん、食事に行こう。」
「なにがいいかな。」
どさくさに まぎれて握る その人の
手の小ささに 心震える
細い指 髪の香りも この胸に
思い出として 残してください
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