「少し飲みすぎじゃない?宏章さんには珍しいことね。」
「そうですね。
でも、いいじゃありませんか。もう、こんなこともないだろうし…。
もうすぐ、出発ですね。」
「ええ…。」
二人の視線が会った。
一瞬の沈黙の後…
「ここでいいわ。
後は、タクシーを拾って帰るから。
…大丈夫?
駅まで歩けるの?」
「大丈夫ですよ。ご心配なく。」
「今日は、ご馳走様。
お姉さまに、よろしくね。それから、プレゼント、ありがとう。」
蓉子が右手を差し出すと、宏章がそっとその手を握った。
宏章が握った手が、宏章の手から離れていく…。
「蓉子さん!」
行こうとする蓉子を宏章が呼び止めた。
しかし、宏章は身じろぎもせずただたっている。
蓉子は振り向くとゆっくりと宏章に近づいた。そして、やわらかく宏章を抱きしめた。
「ごめんなさい。
本当に…ごめんなさい。
幸せになって…。」
蓉子は、宏章の胸でそうささやいた。
身体を離すと、蓉子は背伸びをして宏章の頬に優しくくちづけた。
「さようなら。」
蓉子はタクシーを止めると、何事もなかったかのように振り返り、手を振って乗り込み走り去っていった。
宏章は、金縛りにあったようにその場に立ち竦むばかりだった。
〈蓉子さんは僕の心を知っていたんだ。
酔ったふりをして抱きしめようとしたことも…。
愛していることも…。
僕の心の痛みも…。
蓉子さん、ごめんなさい。
僕はずっとあなたのことを苦しめていたんですね。
何も知らずに、自分だけが苦しんでいるつもりで…。〉
蓉子が乗ったタクシーの赤いテールランプを、宏章はじっと見つめていた。
蓉子は、タクシーのシートに身を沈めると懸命に涙をこらえた。
〈宏章さん、ごめんなさい。
私は、あなたの気持ちに答えることができないの。
もしも…もしも出会う順番が違っていたら、あなたに先に出会っていたら、私はきっとあなたを愛したと思う。
けれども、運命は私とあなたのおじ様を先に出会わせてしまった。
私の心には1人の人しか住むことができないの。
宏章さん、私はあなたのことが大好きよ。
でも、あなたには、私の愛する人の甥でいてほしい。
だから、私は旅立ちます。
もう、多分日本には帰ってきません。
そのほうが、私とあなたのためだと思うから。
あなたは、日本で幸せになってほしい。
私の大切な人だから…。〉
一度だけ あなたの名前 呼び止める
その細い肩 抱きしめたいと
今はもう 出会えたことに 感謝して
深い縁を 尊く思う
「そうですね。
でも、いいじゃありませんか。もう、こんなこともないだろうし…。
もうすぐ、出発ですね。」
「ええ…。」
二人の視線が会った。
一瞬の沈黙の後…
「ここでいいわ。
後は、タクシーを拾って帰るから。
…大丈夫?
駅まで歩けるの?」
「大丈夫ですよ。ご心配なく。」
「今日は、ご馳走様。
お姉さまに、よろしくね。それから、プレゼント、ありがとう。」
蓉子が右手を差し出すと、宏章がそっとその手を握った。
宏章が握った手が、宏章の手から離れていく…。
「蓉子さん!」
行こうとする蓉子を宏章が呼び止めた。
しかし、宏章は身じろぎもせずただたっている。
蓉子は振り向くとゆっくりと宏章に近づいた。そして、やわらかく宏章を抱きしめた。
「ごめんなさい。
本当に…ごめんなさい。
幸せになって…。」
蓉子は、宏章の胸でそうささやいた。
身体を離すと、蓉子は背伸びをして宏章の頬に優しくくちづけた。
「さようなら。」
蓉子はタクシーを止めると、何事もなかったかのように振り返り、手を振って乗り込み走り去っていった。
宏章は、金縛りにあったようにその場に立ち竦むばかりだった。
〈蓉子さんは僕の心を知っていたんだ。
酔ったふりをして抱きしめようとしたことも…。
愛していることも…。
僕の心の痛みも…。
蓉子さん、ごめんなさい。
僕はずっとあなたのことを苦しめていたんですね。
何も知らずに、自分だけが苦しんでいるつもりで…。〉
蓉子が乗ったタクシーの赤いテールランプを、宏章はじっと見つめていた。
蓉子は、タクシーのシートに身を沈めると懸命に涙をこらえた。
〈宏章さん、ごめんなさい。
私は、あなたの気持ちに答えることができないの。
もしも…もしも出会う順番が違っていたら、あなたに先に出会っていたら、私はきっとあなたを愛したと思う。
けれども、運命は私とあなたのおじ様を先に出会わせてしまった。
私の心には1人の人しか住むことができないの。
宏章さん、私はあなたのことが大好きよ。
でも、あなたには、私の愛する人の甥でいてほしい。
だから、私は旅立ちます。
もう、多分日本には帰ってきません。
そのほうが、私とあなたのためだと思うから。
あなたは、日本で幸せになってほしい。
私の大切な人だから…。〉
一度だけ あなたの名前 呼び止める
その細い肩 抱きしめたいと
今はもう 出会えたことに 感謝して
深い縁を 尊く思う