中断期にいただいた質問に少しずつ答えたいと思います。その中に、『「鹿島る」について書いてください。』というものがありました。私はつい最近まで、「鹿島る」という言葉があるなんて知りませんでしたが、勝っている時間にボールキープをしたりして時間を使うプレーを一部でそのように呼ばれているそうです。すごいですね。今日はその試合終盤について話してみます。

ご質問の中に「監督の指示なんですか?」と書かれていましたが、「時間稼ぎをしろ。」と言われたことはないと思いますし、私たちにもハナから時間稼ぎをしようという気持ちはありません。ただ確かにどんな若手であろうと、自分本位なプレーでなくチームの勝利のための判断をしているかは厳しく指導されていました。

例えば、1点差で勝っている時間帯にカウンター気味に攻めるチャンスがあったときに、ボールを持った攻撃の選手は得点を取りたいという気持ちもあるでしょう。しかし、相手ゴールに向かうということはボールを失う可能性も高くなります。安易に突っ込んでボールを失い、また攻撃を受けてしまった場合には監督も注意していたように思います。

ただ、勝っているときも私たちの中では必ずボールキープに持っていこうと思っているわけではなく、あくまで勝つための判断として何を選択すべきか、という観点でしか考えていません。そのままシュートに持ち込める状況やシュートで終わることができる状況であれば、当然その選択をしますし、相手の気持ちが攻撃に向いて守備に集中できていないなら、敢えて早いリスタートをしたり速攻を仕掛けたりもしていました。全てはそのときの試合の状況に応じてプレーしているだけです。

ボールキープは簡単に時間稼ぎができる、ある意味卑怯なプレーと見られているかもしれませんが、質問の中で「最近、鹿島る光景が見られない」と書かれていたように、実際にはそんなに簡単なプレーではありません。高い技術と高度な体の使い方、適切な判断を持っていなければ、ただ単にほんの数秒針を進ませるだけで相手にボールを渡してしまい、普通に攻め込んでいくよりも有効ではなくなったりもします。つまり誰でもできるようなプレーではなく、3連覇を果たした頃のマルキ(マルキーニョス)やダニーロのボールキープを見ながら、私たち選手も感心していたものです。

それに、勝っている状況で敢えて早く相手ゴールに向かわないのは精神面で相手を焦らせることがメインの目的ではありません。針を進ませることももちろん大事ですが、それ以上に相手陣内でボールを回したりボールキープしたりすると、ボールを取らなくてはいけない相手チームの選手は戻らなくてはいけなくなります。そうすれば、ボールを取られても私たちのゴールから遠いところから攻撃をスタートせざるを得ません。負けているチームの選手は攻め残ってすぐに攻撃に転じたいと考えているのに、ボールを相手ゴールに近い位置でキープすることでその選手たちも帰らざるを得なくなり、彼らの攻撃の狙いを削ぐことができます。

サッカーは両ゴール前を行ったり来たりする展開になると自然にどちらかのチームが得点を取る可能性が高くなります。よく「試合をクローズする」なんて言われますが、勝っているチームは展開を意図的に遅らせて、ゲームを落ち着かせる必要があります。

また、もし相手守備陣の選手が焦れて相手ゴール前からボールを取りに来たら、今度は手薄になったゴール前に攻め込み、止めを刺すこともできます。つまり、相手の出方に対して先手を打つことができ、それに対する相手の次の一手に対してもまた先に自分たちでアクションを起こしていくことができます。そして、それが「自分たちのリズムでサッカーをする」ということにつながります。

サッカーは90分の中でいつ何をするかの判断がとても大切なスポーツです。私たちは流れる時間の中で常に考えを巡らせ、90分をできるだけ自分たちでデザインしようとしています。それは対戦相手も同じで、試合においてはボールを持っているかどうかよりも、お互いにどちらのリズムでサッカーをしているかということを取り合っているように思います。