懐かしのイッスン | 大神Blog

懐かしのイッスン

「大神」の制作も終わって大分経ちますが、
いま、ちょっとだけ「大神」に関わる仕事をしています。
といっても「続編!?」…なんて話じゃないですよ(笑)。
明日更新予定の、大神公式ホームページのコンテンツの手伝いをしてるのです。

そう言えばこの間も、北米版「大神」の仕事をちょっとだけしました。
笹部郷に大きな鹿威し(ししおどし)の仕掛けがあるのはプレーした方なら
ご存知だとは思いますが、北米に住む人には鹿威し自体が理解出来ないことも
考えられるので、鹿威しを調べた時のヒントメッセージを追加したんです。
追加メッセージはこんな感じです。

【小さい鹿威しを調べた時】
「鹿威しが コンコンと いい音 させてるじゃねェか/
 流れる水が 重しになって シーソーのように 竹筒を動かす 仕組みさァ/
 こんな工夫で 心に染み入る 音を 作り出す ―/
 …人間たちも 中々 やるモンだろォ?」

【巨大鹿威しを調べた時】
「ひゃあ~ こりゃ 怒デカい 鹿威し だァ!/
 こんなにデカくて… 本当に 動くのかィ?/
 鹿威しってのは 水の重みで 竹筒が動く仕組み だけど ―/
 塞き止められてるのか 流れ落ちる 水だって ありゃしねェや/
 小さい鹿威しなら チョロチョロと 水を 垂らすだけで 充分だが ―/
 これだけ デカいと チョロチョロで 動かすってワケには いかないぜェ」

「大神」における“調べるメッセージ”は、
基本的に同行のイッスンが代弁するスタイルを採用しています。
上記のメッセージは当然、英訳されてゲームに組み込まれるのですが、
翻訳スタッフに意図を正確に伝えるためにも、原文もちゃんとイッスン口調で
書かなければなりません。この仕事で、久しぶりにイッスン口調のテキストを
書き起こしてみたんですけど、何だか物凄く懐かしい気分になりました。

以前、雑誌のインタビューで、「『大神』の登場人物の中で、誰が一番好き?」
という質問を受けたことがありますが、その時に答えた「アマテラスとイッスン」という
答えは、今も変わっていません。
イッスン誕生にまつわる話は、以前 このブログでも書きましたし、
イッスンへの思い入れも…確か書いたことがありましたよね?

「大神」制作中は、色々と大変なこともありましたけど、
イッスンのメッセージテキストを制作する時は、いつも心が癒される思いでした。
ゲームは糞真面目に作っていても面白くないのですから、荒唐無稽で夢のある事を
盛り込みたくなるのですが、ゲームの進行上、そんな仕掛けやシナリオと大人の事情を
うまく馴染ませるために、多少無理をする部分がどうしても出てきます。
そういう部分を、イッスンの明け透けな口調で説明してしまうことで
プレーヤーに強引に納得させるのが、僕は楽しくて仕方が無かったんです。

例えばアガタの森の“急流下り”イベント。
あのゲームは制限時間を超えるとミスになりますが、
そこでゲームオーバーにするのではなく、再びリトライ出来るようにしなくてはなりません。
こういう時に、ただ「リトライさせるため」という大人の事情で冒頭に戻すのではなく、
何とかゲームの世界観と馴染ませようと頭を悩ませる事、それが僕にとって、
イッスンのお陰で苦労どころか快感だったのです(イッスンを使ってどう乗り切ったかは、
実際にゲームの中でお試し下さい!)。イッスン関連のシナリオテキストを制作する日の
朝は、「ああ、今日はイッスンの会話を考える日だ…」と、ママチャリのペダルを漕ぐ足も
一層軽やかになったものですね…。

ただ、あまりにもイッスンに思い入れてしまったお陰で、逆に苦労する面もありました。
仕事やプライベートで何かムシャクシャする事があると、モニターに向かってキーボードに
手を置いても、全然イッスンの言葉が出てこないのです。
僕はすぐに感情的になる人間なので、一度火がつくと腸がグツグツと煮え滾って…

「プフフフフ! …じゃねぇよ畜生…」

…と、興奮が冷めるまで何にも手が着かないのです。
まぁこれはイッスン関連のみでなく、シナリオ制作全般に言える事ですけど。
情緒不安定な状態では、他人の気持ちをコントロールするシナリオを制作する事は
どうしても困難になるんですよね…
と、長編シナリオを初めて手掛けた僕が言うのもナンですね。

そのシナリオ面も、イッスン抜きに語る事は出来ません。
「大神」のシナリオ制作では、お話の中に「やさしさ」を漂わせるよう、常に心がけました。
登場する人々は、みんな良い人、優しい人、楽しい人。誰と会話しても、
心がほっこりと温かくなるように、言葉選びには細心の注意を払っています。
そしてそれは、イッスンも同じ。イッスンは、すぐにものをズケズケと言うように思えますが、
その言葉遣いが誰かを傷つけるような事は、絶対にありません。
何と言うか、毒の無い無邪気な可愛さのようなものを表現した…つもりですけど、
上手く伝わっていますでしょうか? ボインボイン言ってますけど…

シナリオの話が出たついでに、以前 お話しかけた、シナリオで描いている
もう一つのテーマについてお話しましょう。…と言っても、ゲームをプレーした方なら
もうお気付きかと思いますが、「大神」の物語の根底に流れているメインテーマ、
それは“覚悟”です。どんな事象に対しても、力強く立ち向かう人々。
その生命力を“覚悟”という形でシナリオの主軸に置き、そこへ肉付けをしていく過程で
“やさしさ”を潜めていったワケですが、この“覚悟”というテーマを「大神」の物語の中で
一番に体現しているのが、他ならぬイッスンなのです。
…というのも、エンディングまでプレーした方にはお分かりかと思いますので、
それ以上触れるのはやめておきましょう。

ともかく、制作した僕にとってはもちろん、プレーした皆さんにとっても、
イッスンはなくてはならない存在(のはず)です。今回のHP新コンテンツの仕事では、
そんなイッスンと久しぶりに会えた気がして、ちょっと心が温かくなったのでした。

この新コンテンツ、イッスンの他にも、色んなキャラが意外な形で登場予定!
最後の最後、怒涛の更新プロジェクトをお楽しみに!


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写真:懐かしついでに、伝説の“正月ミーティング”の一部を公開!
    カジ、ヨッシー、カタカイ君、タケヤス、そして僕。この五人で、
    ワイワイとホワイトボードに書き込みながら、「大神」の基本を
    作っていったのでした。ホワイトボードに書いたものはケータイで
    撮影して残し、それを印刷したものを手元において、次の日また議論…。
    この日々無くして、「大神」は在り得なかったでしょう。