Muslim Brotherhood Measuring Political Possibilities in Post-Mubarak Egypt
ムバラク政権崩壊後の政治的可能性を模索するイスラム同胞団

http://www.bloomberg.com/news/2011-02-02/muslim-brotherhood-measuring-political-possibilities-in-post-mubarak-egypt.html
By Vivian Salama, Dahlia Kholaif and Caroline Alexander
2011年2月3日8:00(グリニッジ標準時+9時間)

 エジプトにおけるホスニ・ムバラク大統領に対する自然発生的な街頭デモの初動において、ムスリム同胞団はすぐにはその列へと加わらなかった。現在、国内最大の反政府派閥であるイスラム教徒集団は、エジプト政治の将来を形作るため、その立場を固めようとしている。

 同胞団は蜂起から数日の時を置いた後、公然と反政府派に対する支援を開始し、30年にわたるムバラク支配の終了、新たな憲法、開かれた選挙と全政党による政府の樹立といった目的を彼らと共有していると表明した。2月1日にムバラク氏は時期大統領選への不出馬を表明したが、草の根での活動に長けた同胞団が、これによって優位を得る可能性がある。

「エジプトにおいて同胞団は最も組織化されており、また、人気が最も高く、会員構成や指導層の面でヒエラルキーを持つ団体だ」と、英国エクセター大学でアラブ政治学のエジプト学講師であるOmar Ashour氏は語る。「彼らの影響力が現時点では大きくないとしても、ムバラク氏の辞職後には一定の役割があるかもしれない」

 ムバラク氏が生まれた1928年に創設されたムスリム同胞団は、合衆国や欧州連合、そしてイスラエルがテロ組織として注視しているパレスチナ地域のハマスを含む、世界中のイスラム教徒による運動に影響を与えてきた。アラブ世界において最大の人口を有するこの国の状況が変わる際には、果たすであろう役割に対する懸念を緩和するよう、グループは行動する必要があるかもしれない。同胞団はエジプトにおいて政治活動を禁止されており、メンバーが立候補する場合は、無所属として議席を争わなければならなかった。


平等の権利

 ムバラク政権下で数回の逮捕歴があり、同胞団の幹部指導者でもあるEssam al-Erian氏は、反政府派は団結していると語っている。同胞団は、「専制的且つ腐敗した体制から、全ての国民に平等の権利を保障する市民のための民主主義への移行」を確実な物とするため、「自由主義者、世俗主義者、共産主義者、そして全てのセクション」と共に取り組んでいると、彼はカイロからの電話インタビューに答えた。

「ムスリム同胞団はエジプト国民の一部であり、そうであるが故に、国民の評決には黙って従う」と、al-Erian氏は語り、「イスラム教を出典とするシャリーアを持つ民主主義体制の確立」をグループは模索すると付け加えた。なお、彼の語る体制は、エジプトの憲法野中に既に納められている物でもある。シャリーアとは主にコーランからの法典、預言者モハメッドによる格言、そしてイスラム教の学者による見解に基づいており、また、刑法ではないがエジプトの法のいくつかの領域において、その基盤をなしている。

 その立場は他の既得権益と競合する可能性がある。エジプト軍の指導層は、イスラエルによるガザ地区封鎖を支援し、イスラム過激派に反対するアラブ人の支持を集めようと努力した、ムバラク氏の外交政策に専念していた。


民主化へのプロセス

 国務省のフィリップ・J・クローリーは1月31日の記者会見において、将来のエジプトの新政権に対し、どのような関与を考慮しているかについて問われた際、「蜂起が始まって以来、バラク・オバマ大統領の政権はエジプトとの接触を保っているが、そうした関与は同胞団には及んでいない」と答えている。彼はエジプトでの役割を演じるあらゆるグループは「非暴力を約束すべきである」と語り、「民主主義のプロセスを尊重する」と述べた。

 合衆国の外交政策専門家と元外交官は、エジプトの争乱がアラブ世界にどのように波及していくかを予測しつつ、アメリカの立ち位置を評価している。ムバラク追放を要求したデモ参加者と、現大統領による体制への支持者が、タヒール広場で投石の応酬によって衝突したため、カイロでの抗議行動は今朝早朝まで続いた。

 2月1日にアブドラ王が首相を免職したヨルダンにも、反政府動乱は既に広まっている。イエメンのアリ・アブドラ・サーレハ大統領は、任期の切れる2013年に地位を退くと述べており、また、アルジェリアでは抗議者が治安部隊との衝突で亡くなっている。


安全保障政策にとっての『災厄』

 「同胞団は米国の安全保障政策にとって災厄となるだろう」と、ニューヨークの外交問題評議会の名誉会長であり、元国務次官補のLeslie Gelb氏は、1月29日にデイリー・ビースト誌のウェブサイト上で述べている。同胞団は1979年に締結されたエジプト・イスラエル平和条約に反対しており、「テロ対策活動を、地域及び世界中で危険にさらすことになるだろう」と、彼は述べた。「これは、まさに一大事だ」

「同胞団はハマスや他のテロリスト集団を支援し、イランの独裁者や拷問者にとって耳心地のよい雑音を発するだだろう」と彼は述べ、「極めて重要な施設であるスエズ運河の気まぐれな主人となるだろう」と付け加えた。

 この運河では、世界の海上貿易の8%を占める貨物が扱われている。1月25日に抗議活動が始まって以来、エジプトでの動乱が原油供給を途絶させる恐れが湧き上がっており、原油価格は5%以上の値上がりを見せた。

 「同胞団はこの段階で、全ての国際協定と条約について委ねられる」と、グループの上級幹部であるMohamed al-Beltagy氏は電話インタビューで語っている。「後のことは、国民の決定に任せるべきだ」


反乱の乗っ取り

 同胞団が反ムバラク活動を乗っ取ったのではないかという疑問は、国際原子力機関の前事務局長であり、今回の反対運動の指導者の一人であるモハメド・エルバラダイ氏によって退けられた。彼はそうした見方を、ムバラクが米国からの援助を永続化するため、そのような不安をかき立てた物だと1月31日にABCニュースに語っている。

 「これは、体制が我々を抑圧するか、あるいは、アルカイダなどの過激派グループの跳梁に任せるか選べと、米国や西側諸国に売り込んだと言うことである」とエルバラダイ氏は語り、同胞団については宗教的に保守的であり、非暴力主義であると評した。「彼らの参入を認めるべきであろう」

 アムステルダムに拠点を置き、2002年にエジプトのAl Ahram Beverages社を2億8700万ドルで買収した醸造会社であるハイネケンNVを含む国際企業は、抗議運動が始まって以来、エジプト国内での操業を停止したり、在外スタッフの引き揚げを実施している。昨日まで続いた動乱を受け、企業はエジプトの将来とイスラム教の影響を持つ政府が成立するかについての予測をし始めた。


『好意的ではない』

 そのような政府は、「社会福祉への要求を満たそうとはするが、西側諸国からの投資や企業活動には好意的とは言い難い経済政策」を追求するかもしれないと、ロンドンに拠点を置くリスク・コンサルタント会社であるMaplecroft社は今週の報告書で述べている。

 同胞団の歴史は、こうした懸念を裏付ける物だ。1954年に急進派がガマル・アブデル・ナセル前大統領を暗殺しようとした事で非難されてはいるが、同胞団は数十年間非暴力を貫きつつムバラク体制へと執拗な批判を繰り返してきた。

 長年の間、首脳部の大半は投獄されてきていたが生き残り、2005年以降には無所属候補の擁立によって彼らは議席の1/5を確保し、議会の主要な野党勢力として姿を現した。11月の選挙において、政府が彼らの擁立候補の1/4から資格を剥奪したため、昨年来、勢力は後退している。


幅広いアピール

 同胞団は宗教運動と見なされないように努力し、また、その訴えを広げようとしてきた。前最高指導者であるMahdi Akef氏は、宗教運動と見なされるのは政治活動を空しくさせると語り、反政府抗議運動の場においてコーランを振り回さないよう指導している。さらに、2007年に他の反政府グループと同胞団内の要職にある者が、女性や異教徒に大統領になる資格を与えるべきではないとする提案を行った際には、同胞団はこれに反対している。

 次に彼らは政治的支持者であるエジプトの貧民のために、社会福祉及び健康維持プログラムを促進した。そうした多様な成功を目の当たりにした他のイスラム教徒の集団は、彼らの社会福祉事業モデルに追随している。

 自由投票であるならば、「20~25%をムスリム同胞団が得票するのを予想するのは、いとも容易い事でしょう」と、英国ブラッドフォード大学の国債安全保障専門家であるポール・ロジャース氏は語る。

 同胞団は保守的ではあるがイスラム教徒としての印象は「厳格ではなく」、「エジプトで起こるであろうイスラム教徒による革命が、イランのそれと似たものになるというのはあり得ない、馬鹿げた考え方だと言えます」と、ロジャース氏は語った。


政治的衝撃

 ワシントンのカーネギー国際平和基金でエジプトの政治情勢を追っているミシェル・ダン氏は、ハマスと同胞団の違いについて述べ、彼らによる政治的衝撃について調査すべきだと語っている。

 「彼らはハマスの成立しています。交渉関係はあるでしょう」と、同胞団について彼女は語った。「大きな相違点としては、ハマスが目的を果たすために暴力と武力を用いているのに対し、同胞団は40年間、暴力を用いてはいません」

 何が起きるにしても、おそらく合衆国は甘んじて受け入れねばならないだろうと、ダン女史は語った。

「この点において、我々が同胞団について何を考えようと関係はないでしょう。エジプトの情勢は非常に素早く推移しています」と彼女は述べている。「政治指導部が始動すれば、そこに同胞団は存在していると思います」

 事態の展開が急なんで、2日ばっかり前の記事も時期を外した物になりかねないんでちょっとドキドキしながらやってました。
 ブルームバーグによる各界の識者による談話のまとめ記事って感じになります。楽観的な物もあれば、悲観的な物もあり。ただ、あたいとしては、どーにも悲観的な予想しか出来ないんですよね。こんな話まで出てきちゃいましたし。

■「イスラエルとの平和条約破棄」=新政権主導へ意欲-エジプト・ムスリム同胞団
http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2011020200547
 【カイロ時事】エジプト最大のイスラム原理主義勢力、ムスリム同胞団の最高幹部の一人でカイロ大学教授のラシャド・バイユーミ氏は2日までに、ムバラク大統領退陣後の政権で主導権を握ることに強い意欲を示し、エジプトが1979年にイスラエルと締結した平和条約を破棄するほか、米国の援助拒否、シャリア(イスラム法)導入など、政策の抜本的修正を目指す意向を表明した。バイユーミ氏は同胞団内で最高指導者に次ぐ幹部3人の1人。時事通信のインタビューに対し、同胞団の一致した見解として明らかにした。
 欧米諸国は親米ムバラク政権の退陣後のイスラム勢力台頭を懸念しており、バイユーミ氏の発言は欧米側を一層警戒させる材料になりそうだ。
 同氏は「最高憲法裁判所長官と協議し、暫定政権を設け、民主選挙を容認する憲法改正などを経た後、大統領選や議会選に候補を立てる」と言明。改憲については、大統領再選回数の制限のほか、宗教政党容認、シャリアに基づく犯罪処罰規則の導入を求める考えを示した。
 さらに、イスラエルとの平和条約を「平和的な条約ではなく、エジプトにとって降伏条約だ」と批判。「新政権ではパレスチナ問題の解決が最重要外交課題になる」と語った。
 米政府の巨額の対エジプト援助に関しては「米国は中東諸国を破壊する敵だ。援助を受ければ米国の意向に従う必要がある」とし、新政権入りすれば援助を拒否する姿勢を明確にした。ムスリム同胞団を弾圧してきたムバラク大統領については、退陣後に「不正蓄財や政治犯弾圧、デモ参加者殺害などの犯罪行為での訴追を求める」と述べた。(2011/02/02-18:08)


 うーん、ブラフか本気かは解りませんが、イスラエルとの平和条約破棄にしても、合衆国からの援助拒否にしても、現状を悪化させるだけのような…
 前者はイスラエルとの緊張を高め中東地域を不安定化させますし、後者は食料価格の低下が現時点で見込み薄なことを考えるなら、国民生活に悪影響を与えかねません。
 特に今回は政治的自由を求めてってよりは、小麦価格の高騰により食糧事情が悪化した事に動乱の原因がありそうなこと考えると、エジプト国民的には事態は何も解決しないと思うんですよね。
 パンと職を求めての革命だったはずなのに、それが原因でパンも職も失うんじゃ意味がないと思うんですが。それでいいのかと問いたい気分です。

 ツイッターの一部では(一部と信じたい)、ソーシャルメディア革命だ!みたいに盛り上がってますけど、ネットやれるような富裕層がどれだけエジプトにいたのか、そしてどれだけ今回の動乱にコミット出来てたのか、今一つ判然としてはいないのに、そんなはしゃぐことなんですかね?何より度し難いのは、圧制者を倒し米帝を追い出せればそれで良しとして、その後エジプト国民が被る影響とか、紛争の可能性については考えてはいない模様。
 どーにも、自分達の願望を投影して喜んでるだけのように思えて、横から見てる身としてはグロテスクに映ってしょうがないんですよね。
 一緒にエジプト国民の闘いを見届けよう!とか言ってますが、こちらが連帯してる気分になっても、エジプト国民から見たら無責任な野次馬としか認識して貰えないと思うんですが。ま、それはこんな記事書いてるあたいも同じではあるんですが。

 まあ何にせよ、ムバラク政権は遅かれ早かれ崩壊する以上、その後どのような勢力が政権に就くかがその後のエジプト、ひいては中東全域の運命を変えることになるでしょう。
 今のところ最大の勢力を持つのが、ムスリム同胞団ってのは頭が痛い話ですが…現実を知る軍部が彼らを押し留めることに期待したい物です。なにせ、エジプト軍の装備は米軍式で固められており、合衆国との関係が途切れれば整備もままならなくなるのですから。


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