月おぼろにして我が影うすし、
我が生命(いのち)さへ覺束なきかな。
靜かなる心だにあらば
たのしさは來らむものを。
あはれ、日にして夜(よる)として
我が胸の靜なることはあらず。
ある時は、死の谷に迷ひ、
ある時は、嘆きの海に溺る。
こゝに一日(ひとひ)の惱みよりのがれ出でて
ひとり丘邊にさまよひ來(く)れば、
繁れる松の樹の影もうすし。
夕風のなかにそよげる草のごとくに
寂しくてたえだえなる我が生活は、
節ほそく哀れに鳴りて、
おぼろおぼろの歌とこそなれ、
影もろともに薄らぎつゝも。
生田春月