<み>です。前回の投稿記事に、丁寧な感想メールをいくつか頂戴しております。まだ返信できていないのですが、、ありがとうございます。

1月下旬、Deutsches Historisches Museum (ドイツ歴史博物館@ベルリン)へと遠足しました。

特別展  Hitler und die Deutschen (ヒトラーとドイツ人)
2010年10月15日~2011年2月27日

を見学しましたので、記録を兼ね投稿します。

現代史の展示は数多くあるベルリンですが、『わが闘争』が発売禁止のここドイツ連邦共和国では、「ヒトラー」が含まれるタイトルはちょびっと新鮮に映る感じもあり(ますよね?)、
「難しいテーマだけど、どういうふうに展示されてるんだろう?」という興味がかきたてられます。
わたしたちもそんなことを話しながら展示室に向かいました。

わたしたち5人は、博物館員の方による解説ツアー(4ユーロ)に参加しました。
担当の方が7~8箇所のポイントので関連知識を講釈してくださり、それに参加者(全部で20数人?)がゾロゾロついていくという方式で、1時間15分ほど。
ツアー参加者はなぜか中高年の方が多めに見えました。
辺りを見回したところ、オーデォオガイド(3ユーロ)を利用している見学者は老若を問わず多いようでした。

展示物はだいたい時系列に沿って配置されています。
・ヒトラーの肖像画複数、ヒトラーや側近の彫像
・ヒトラー自筆の絵やメモ
・ヒトラーが登場するプロパガンダ映像
・ナチス制服(多数)、勲章など
・ヒトラーユーゲントのポスター
・プロテスタント教会と人々が体制に協力する様子を描いたタペストリー
・強制労働の概要についての簡単な解説コーナー(アウシュヴィッツの近くの、化学物質ブナ工場の写真等も)
・T4作戦(優性思想による障害者の集団殺害)の解説コーナー
・ヒトラー暗殺をもくろんだ人物たちの紹介
・戦況や作戦が書き込まれた1940年代の地図など
・収容所に関する展示の小部屋 (ここだけ部屋の壁がダークグレーで隔離)
・誰がユダヤ人とされたか、の解説
・その他。全部は見きれませんでした・・・

ドイツ歴史博物館の所蔵品に加え、各地のアーカイブ等からも展示品が集められており、豊富で充実した展示室になっていました。
人々が動員されていった過程に関連するグッズ(募金箱とか)の展示や、ユダヤ人殺害について一般の人々はどれほど知っていたのかという問題の提示もあり、目配りもきいています。
その半面、企画の焦点はやや拡散しているような印象もすこし残りました。
ホロコースト展示のような残虐な写真類は除かれており、かといって、映画(たとえば「ヒトラー最後の12日間」とか)のような人物描写の迫力もそこまで追求されていなかった感じです。

ヒトラーの人物描写に集中するのではなく、テーマ設定が「ヒトラーとドイツ人」になっているのは、ヒトラーの偶像化を連想させる路線は避けなければならないという社会的前提からなのでしょうかね。
リーダーひとりに責任を負わせてすませてはならない、ふつうの人々も彼を選んだり、ナチス体制や戦争に参加したり差別に加担したりしたし、産業界もそれを支援した、それを軽視してはならない・・・ そういう、「過去の克服」的な「教え」に、この企画展は沿っていると思います。
結果として、ヒトラーの本や自筆原稿等を陳列品に加えた以外は、ベルリンのあちこちにあるような現代史展示の路線を踏襲、再構成した感じになっている部分もいくらか生じているような。
しかし、そもそも、ナチスの研究や議論はいまに始まったことではなく、目新しい企画展を打つのはどんどん難しくなっていそうだし、もし、すごく目新しい企画じゃなきゃ特別展など開催しない(+見ない)・・・ということになったら、過去は風化してしまうに違いない。学校で一度習ったことだって、ときどき記憶更新しなけれ遠のいていくし。
そうかんがえると。壁崩壊や統一20周年関連のイベントがすっかり終わったいまの時期、すこしだけでも新味を加えて、首都ベルリンでナチス関連展を開くというのは、ナチスの過去との取り組みの<継続>こそを確認し、示す、という文化政策上の意志表明の意味が大きいのかもしれません。
そして実際に、展示が大盛況となり混雑するということは、驚くべき現象のような気がします。
この特別展開始からまもない11月ごろは、混雑して入り口に行列までできてる、という話をほうぼうより聞いていました。
わたしたちが訪れた際は、行列はありませんでしたが、それでも会場には午前中から人が結構いて、地図の展示などは、前の人が見終わるのを待ったりしなければなりませんでした。

特別展のカタログは二種類で、しっかりチェックせずに帰ってしまいましたが、薄めの冊子は8ユーロ、分厚い本格カタログは25ユーロ、どちらもカラー印刷だったと思います。
分厚いほうには、イアン・カーショーやハンス・モムゼンといった歴史研究者たちの文章も収録されているようでした。

この展覧会で印象に残ったひとつは、展示室の壁の色が、ところどころ変えてあることです。
赤っぽいエリアと、カーキ色エリア、そして灰色の小部屋があって(ほかにも見逃しているかもしれない)、緊張感が演出されていて、飽きないような雰囲気作りとしても工夫されているのかな?、と思ったりしました。