武器 | 大神Blog

武器

「大神」の楽曲の中では、そうですね…「オイラのテーマ」「神州平原」
「タマヤのテーマ」「ウシワカ登場」「ウシワカと遊ぶ」「スズメ組の親分」
「シャチ丸のテーマ」「両島原」「カグヤの旅立ち」「月の民のテーマ」
「Reset ありがとうバージョン」「大神 白野威」「太陽は昇る」「旅は続く」
「Reset」が好きな神谷です!
コメントで質問を頂いていて、答えるのを忘れてました。
まだまだ抜けてるかも知れませんけど、絞るのが難しいんですよね…。
僕自身、どれもサウンドスタッフと話し合いながら完成までを見届けた曲
なので、思い入れが一層強いというのもあるんですが、客観的に見ても
「大神」の楽曲は素晴らしいものが多いですから。iPodに入れて、ドライブ
しながら良く聴いていますよ。

さて200回以上続いたこの大神ブログ、僕の順番は次の一回でついに
おしまいです。長かった…と言いたい所ですが、実はブログを続けていた
時間の間隔が麻痺していて、よく分からないんですよね。つい先月始めた
ばかりのような気もしますし、最初の頃のブログを読んでみると、「ああ、
こんなこと書いたっけなぁ」と、はるか昔のようにも感じますし…。
僕はこれまでにも“コラム”という形式で「デビル」や「ジョー」の裏話を
カプコンのホームページで紹介してきましたが(「デビル」のコラムは、
今でもまだカプコンのホームページに残っていたと思います)、限られた
回数の中で、あらかじめ何を書こうか頭の中で決めていましたし、期間も
ギュっと凝縮されていたので、終わった時には「結構書いたなぁ」という
充足感がありました。でも今回のブログは、書き始めから長期更新を
視野に入れていたので、とにかく毎回思い付く事を我武者羅に書き続け…
そのせいか、気が付いたらアッと言う間に200回を超えていた、という
不思議な感覚が残っています。何かもっと言いたい事があったような
気もしますが、今考えてみても何も思いつかないので、言いたい事は
全部言い尽くしたのかも知れません。
僕は、こうしてゲーム作りについて考えている事を書くのが好きなので、
最初にブログの企画を聞いた時には「おっ、こりゃ色んなことを書ける
じゃん」…とワクワクしたのですが、いざ始めてみると、数回程度でネタが
尽きて…毎回書き上げるのに苦労しました。大体、今までの作品での
コラムは、ゲーム作りがほぼ終わる頃に書き始めていたので、これから
買う人への「ゲームの内容紹介」という意味合いが強かったんですけど、
今回はまだゲーム内容についてアレコレ試行錯誤している最中の執筆
だったので、チームスタッフの目が気になって、イロイロ気を使わなくては
ならない事に苦戦しました。…だって、話し合いでモメた日のブログに
「今日はムカつく事があったので…」
なんて、書けないじゃないですか(笑)。かと言って、「今日は気持ちの
良い一日でした」ってのもウソになりますし。…でも、ユーザーに真実を
ありのままに伝えたい、という気持ちを一番大切にしていたので、
なるべくその時その時の生々しさを表現しようと努めてきたつもりです。

…なんだか、いろいろ思い出しているうちに、〆の言葉のようになって
きてしまいました。こんな湿っぽい話はちょっとどこかへ追いやって…
今回はちゃんと書きたい事があるので、話をそちらに移しましょう。

ファンの方と直接話をしたり、また頂いたメッセージを読んでいたり
すると、「どうやったらゲームクリエイターになれるんですか?」という
質問をよく受けます。「ゲームクリエイター」というとあまりにも広義で
答えに詰まってしまうのですが、「ゲームデザイナー」…つまり企画、
もっと突き詰めて「ディレクター職」というところまで絞れば、僕にも
答えられるかも知れません。

…というところまで書いてから、一旦トイレに行って戻ってきたんですが、
やっぱり答えられないような気がしてきました。
まぁ、そんな風に話題を切ってしまったらブログがすぐ終わってしまい
ますので、またいつものように、思いつくまま書き出していってみようと
思います。

このブログでも何度か書いたと思いますが、僕はかなり早い頃から
「ゲームデザイナーになりたい!」という希望を持ち始めました。
なにせ、小学校低学年の頃からゲームが大好きでしたから。
親についてデパートに行けば、帰るまでオモチャ売り場かゲームコーナーに
入り浸り。中学、高校(…の前に予備校生活がありますが)と進んでも
ゲーム熱は収まらず、大学進学で一人暮らしを始めた時には、小うるさい
親がいない恵まれた(?)環境で、それはもう一晩中ゲームをやり続けました。
…ただ、どうすれば“ゲームデザイナー”になれるのかが分からなかったので、
ただ「英語が好きだから」という気持ちで、外国学部 英米語学科に安穏と
進学していました。

ちなみに、大学に進学出来たのは僕の力だけではありません。高校三年間
通しての担任だった細川先生がとても熱心で、僕を進学させようと個人的に
補習などをして下さったお陰です。この先生との出会いがなかったら、今の
僕はいなかったでしょう。

…さて無事大学への進学を果たしたわけですが、この時の僕はとにかく
視野狭窄で、ゲーム以外、周りのものがほとんど見えていませんでした。
他人とのコミュニケーションもロクロク図ることが出来ず、東京と言う
新天地で友人さえ満足に作れずに、ただひたすら部屋にこもり、テレビに
向かってゲームをやり続ける…それが僕の生活のすべてだったのです。

そんな生活が、あるきっかけで劇的に変化しました。ひとつは「ダイエット」。
当時、僕の体重は約80kg。高校時代からモリモリと食べ続けた結果、
顔がアンパンマンのようになるほどムチムチに太っていたのですが、
ある理由(早い話が、気になる女性に出会った)で16kgのダイエットに
成功した時、「あれ…もしかして俺ってイケてる?」
と勘違いし、大学デビューを果たしたのです(その後、気になる女性には
彼氏がいる事が判明…)。

そしてもう一つが、友人との出会い。ゲームのほかにこれといった
趣味を持たない僕でしたが、友人を通じて日々の生活を楽しむうちに、
「ゲーム以外にも楽しい事ってあるんだ…」と気付かされ、やっと広く
周囲に目を向けられるようになったのでした。この友人たちとは、今も
深い親交があります。

上に挙げた話は、皆さんの視点から見れば、どちらもつまらない事に
思えるかも知れません。しかし内向的で狭い世界に閉じこもっていた
僕にしてみれば、天地が逆転するような劇的な変化でした。これらの
出来事がなければ、僕はひたすらゲームの山に埋もれ続けて日々を
暮らす、ただのゲーム人間になっていたかも知れません。人との
コミュニケーションもままならなかったでしょう。「企画マン」なんて、
もちろん務まるハズがありません。

…という僕ですから、「クリエイターになるなら、色んな経験を積んで
おくべき」なんてエラそうな事は言えないんですよね…。
ただ、だからこそ、「もっと色んな経験をしておくべきだった…」という
深い後悔の念は、誰よりも強く持っています。小中学校の時、ちゃんと
勉強して基礎学力を付けておくべきだった…。英語力を高めるために
海外留学しておけば良かった…。好きな絵をもっと本格的に学んで
おけば良かった…。合コンも週3回はやっておくべきだった…と、
挙げ始めるとキリがありません。例えば、僕にネイティブ並みの
英語力があれば、「大神」の英語圏への移植の際には、すべての
テキストを僕自身の手で翻訳することが出来たでしょう。
現在、ローカライズスタッフが頑張ってくれており、クオリティも
保証済みですが、僕自身の手で、僕自身の言葉で海外版「大神」を
作りたかった…というところが、やっぱり僕の本音ですから。

そう言えば、昔あるドキュメンタリー番組で見て、驚いた事があります。
その番組は、「ゲーム音楽の作曲を職業にしたい」という一人の
専門学校生にスポットを当てて、その日常を取材したものだったのですが、
カメラが写したその生徒の部屋には、小さなラックにCDが20枚ほど、
それもゲームのサントラだけが並んでいたのです。

「ディレクター」の仕事と言えば、企画やシナリオを考案する事だけが
注目されがちですが、グラフィックデザイナーやサウンドデザイナーなど、
各セクションの専門家と話し合い、提案をしたりされたりしながら、
自分の思い描くゲーム像を少しずつ組み上げていくこともディレクターの
立派な仕事です。むしろそれこそがディレクターの本分と言えるでしょう。
…そんな仕事をしていこうという時に、「僕、ゲーム以外のことは全く分か
りません」では、一本筋の通った作品など、到底作れるはずがありません。
例えばサウンドスタッフとの話し合いの中では、この場面ではこんな曲が
欲しい!という事を具体的かつ的確に伝える必要があります。
自分の知っている曲、好きな曲を例に挙げたり、映画などで聴いた
音響効果を参考にしたり…ありとあらゆる方法を駆使して、意思の統一を
図るのです。幸い僕は音楽を聴くのが好きなので、趣味で集めた
500枚以上あるCDも、そういう時に役立ったりします。
ともあれ「バイオ2」「デビル」「ジョー」の時、そして「大神」の時も、自分の
知っている知識を総動員して、作品のために必要なものを、各セクションの
スタッフに求めてきました。…スタッフもプロですから、僕の精一杯の情報を
受け止めて、そこに自身の持てる力を幾重にも織り交ぜ、僕の想像を遥かに
越える素晴らしいものを作り出してくれました。「そんなに細かいところまで
口出しをしなくてもゲームは出来る」という考え方もあるでしょう。ただ僕は、
細かいところにも神経を行き届かせて、作品全体の統一を図らないと気が
済まないので、こういうやり方をしてきており、これからもそうしていくつもり
です。そういう時に、自分の中に「知識」があればあるほど、作品への
働きかけが深く出来るのであり、「もっと知識を身に付けておくんだった…!」
という僕の後悔につながるのです。
冒頭に述べたドキュメンタリーの話ですが、音楽家を目指す人間がたった
20枚の、それもゲームという一ジャンルのCDしか持ってないというのでは、
どんなに音楽のセンスが人一倍あったとしても、色んな局面への対応が
求められる作品づくりの世界で生きていくには大変な苦労を強いられる
でしょう。これはある意味、僕の後悔と重なる部分でもあったのです。

…というわけで話が長くなりましたが、僕が言いたかったのは、
ゲームクリエイターを目指すなら、自分にしかない武器を磨いておくべき!
…ということ。服装でも、車でも、映画でも、食べ物でも、何でも良いです。
俺は絶対にコレ!と熱く語れるものを心に持ち、それへの知識を深く追求
しましょう。そういう気持ちが、作品づくりをする時に、こだわりのエネルギー
となるはずです。知っておいて無駄になる知識はありませんから、何にでも
貪欲に興味を持ち、吸収し、それを自分の中で磨いておいてください!
…あ、一つだけ例外があります。僕、作曲やデザイン、プログラムの
専門的な知識は持っていません。ですから、ちょっとした変更にどれだけ
大変な手間がかかるのか、イマイチ実感出来ません。
そのため、求めているものと違うものを提示された時に、気軽にやり直しを
頼んでしまうのです。無知もたまには武器になるかも知れませんね…
(スタッフのみんな、ゴメン…)。

pic205

写真:公表シリーズ! ゲーム中の会話(イベント)テキスト。
 こんなカンジでテキストと最低限の演出を指示。
  これをもとにイベントを作成していってもらいました。
  コンテを描いている時間がなかったので、あとは現場の
  イベントスタッフのセンスに任せました!