2011年の米国一般教書演説を分析してみる! | マーケットの今を掴め!FX・CFD東岳ライブ情報

2011年の米国一般教書演説を分析してみる!

私見ですが、2011年は年初のコラムで書かせていただきましたが、注目している投資対象でインデックスではアメリカ株式市場であることを書きました。過去の相場サイクルで今年が大統領の法則に当てはまる年だからです。そこで今回は先週、126日午前11時(日本時間)にアメリカのオバマ大統領が発表した2011年の一般教書演説を政治面と経済面の2つの視点からそれぞれ分析してみたいと思います。



政治面では、今回の一般教書演説はスプートニクショック(米ソ冷戦時代にソ連が先手を打って有人宇宙飛行を実施したことが当時のアメリカ人の心理に大きな衝撃を与えましたが、そこからアメリカのあらゆる資源と技術を宇宙開発競争に投入し、アポロ計画で有名な人類初の月面着陸に成功する、その原動力の発火点になったこと)がテーマでした。それはオバマ大統領の「これぞ、我々の時代のスプートニクショック」という言い回しが、昨今のアメリカの各種メディアの意識調査で顕在化しつつある「アメリカが中国の挑戦を受けている」というアメリカ国民の認識に呼応するように「たとえ不利な状況でもアメリカはやればできるはず。」というメッセージをアメリカ国民に対して発することで、アメリカ国民の意識の統合を図ろうとしています。



またオバマは今回の演説の中で、まず米国経済を振興する方策を述べ、国民を鼓舞し、アメリカンドリームを取り戻そうと訴えています。演説の後半に出てくる「昨年のチリ落盤事故での救出作戦でトンネルの穴を掘ったのが米国の中小企業であった」というイイ話を披露して、「米国は普通の人が大きな仕事をする国である」とフレーズで締めくくっています。会場には、その中小企業のオーナー夫妻が招かれていて、オバマの演説が、その件に差し掛かると中継のカメラが夫妻の姿を捉えるという演出が施されていました。こうした演出は過去にもクリントン大統領が演説の中の「私のヒーロー」という一節でメジャーリーグのホームラン王「ハンク・アーロン」を会場に呼んで紹介したり、ブッシュ大統領はアフガンに出征したアメリカ兵の家族(10歳の少女)からの手紙を読み上げました。



米国の一般教書演説のラストには、毎回非常に計算された演出が施されており、これが一種の政治的一体感を醸し出す装置になっています。その意味で考えると、2011年の一般教書演説でのオバマは政治的には成功を収めたと言えるでしょう。



次に経済面で、この演説を考えてみたいと思います。演説では、世界経済が大きく変化していると言う現実を真正面から受け止め、そのうえで米国経済を再生させるための政策を打ち出さなければならないことを述べ、その対策として3つの分野への投資を提案しています。3つの分野とは「技術革新・教育・インフラ再生」の3つです。私はこれらの政策を大筋では良いことを言っていると思えます。「技術革新」・「インフラ再生」では環境政策(グリーンニューディール)を念頭に置きつつ雇用確保も狙うクリーンエネルギー開発や新高速鉄道網の建設、教育政策の強化(あからさまな反対票が出にくい)による米国の競争力強化を具体策で訴えています。



しかし、この演説には大きな欠点があり、それは上述の政策を「いつまでに」・「いくらの金額を投じる」といったコミットメントラインが一切出てきていないことです。むしろ演説の構成は、上述の3分野への投資の必要性を訴えた後に、連邦政府の財政再建の必要性を説く演説になっています。こちらの方は具体的な数字が並べられており、向こう10年間で4000億ドルの赤字を削減することなどが盛り込まれています。つまりこのオバマの一般教書演説では、支出を削減しなければならないことを訴える一方で、新規の投資が必要と言っています。しかし、新規の投資の財源をどうするかは一切触れられていません。昨今の株式相場は直近の中東情勢の不安定化、特に親米国家であり、中東でのアメリカ外交の要になっているエジプトでの騒乱が原因でマーケットはリスク回避志向を強めていますが、長期的スパンで考えると、大量に発行されている米国債をいかに処理するかに一定の方針を示さなければ、早晩長期金利の上昇を招くことになるため、こうした演説になったものと推察されます。



つまり、この演説から読み取れることは、オバマは新規投資をして米国経済を再生させることは忘れていないというポーズをとりつつも、まずは財政再建が最優先課題であり、そこに全てのエネルギーを投じていく、というスタンスで経済運営をこなしていくと言えるかもしれません。そう考えると、この演説で取り上げられたからと言って「グリーンニューディール」・「環境」をテーマにした投資案件に安易に飛びつくのは、全体の流れから考えると危険なことかもしれません。



逆にプラス面では、今回の演説でオバマが思い切り中道路線に歩み寄り、理念重視から実利重視の大統領の色彩を鮮明にしたことでしょう。オバマの経済チームに新たに経済界出身者を任用したり、大胆な法人税減税を打ち出す姿勢は今までの2年間のオバマの執政スタイルと比較すると大きく変身したといえます。(私は、今までのオバマのスタンスから彼は大統領職を一期で終えるのではないかと推測していました。その理由として「核なき世界」の理念を世界に訴え「ノーベル平和賞」を受賞し、これまでどの民主党大統領が挑戦するも頓挫した「医療保険改革」を大方成功させ、内政外交ともに一定の勲章を得たことで彼の達成感が満たされ、2期目を務める意欲は無いものと考えていたからです。)もともとオバマはイデオロギー的に柔軟な人物で、左派にも中道にも、場合によっては右派に転じることもできる人物で、唯一「偉大な指導者」になることが最も多いオバマ像への論評のようです。



現在の連邦議会は共和党が多数派を占めている“ねじれ現象”が起き、共和党へ歩み寄らなければならない状況がですが、この政治環境は見方を変えると、オバマが就任当初から最も声高に訴えていた「ひとつのアメリカ」というロジックが現実味を帯び始めます。これは民主党の行政府と共和党の議会が双方の妥協の上で共に政策を作り実行していくことで、双方の支持者を対立から共闘に変えていくことに他ならないからです。その意味でオバマは議会で多数を占める共和党懐柔において、柔軟に対応できる人物ではないかと私は考えています。つまり、これまでの2年間よりも、オバマ率いるホワイトハウスの政策チームが共和党・民主党双方の間でうまく立ち回る事が求められてくるので、これまでの2年間のオバマの政治とは、まるで異なる残り2年間の米国政治の姿が出てくることになると思います。その意味でも、引き続きアメリカ株式市場は大いに注目する価値があると私は考えています。



Ken