莫迦に付ける薬無し | さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

酒場であったあんなこと、こんなこと。そんなことを書いてます。ほとんど、妄想、作話ですが。

ウンザリし気が滅入った一日だった。
偶然目にしたニュースでは、なにもわかっちゃい無い無知な奴らの傍若無人な行動が批判的に報道され、そうかと思えば、作業服に身を包んだ大臣が避難所を訪れたはいいもののなんの作業をするわけでもなく30分そこそこで逃げるようにそこを後にして、避難所の住民に文句を言われしどろもどろになっていた。
「なんでこういうときってみんな作業服着るんだろうね。作業するわけでもないのに。あれこそ嘘くさいよ。」
そう呟くと、隣にいた同僚が、「タキシード着ていくってわけにはいかないだろ。」とお前、なにアホなこと言ってんの?となぜか怒ったように口を出してきた。
あ、そうか、とおどけたように苦笑しながら
まあ葬式に喪服を着ていくようなものなのかもしれないな、と考える事にした。
葬式にジーンズにTシャツ姿では出向かないように、被災地に出向くには作業服と、もしかしたら規則で定められているのかもしれない。
どこかの知事も言っていた。
「まあアイツらはもうスーツにネクタイ姿に戻ってるけど、私はまだそんな時期じゃないと思ってるからね。」
そう言って当選を喜んでいるのか笑顔を見せる彼も「どうよ、これ見て!」というかのように鼠色の作業服を纏っていた。

仕事を終えて酒場に行くと、偶然か、既に揃っていた常連達はそのニュースの話題を語り合っていた。常連の一人が
「なあ、アレって本当にうつるのかい?」
と俺に話しかけて来る。
彼は、俺がその辺の事情に詳しいと思っているらしかった。
別に俺じゃなくたってちょいと調べればわかる事だ。
「うつりませんよ。うつるわけがない。
日焼けして真っ黒になった人の隣に座ったからって、こっちが黒くなる事はないでしょ?それとまあ似たようなもんですよ。」
そう答えると、なるほど!とパンと膝を打ち、そうだよなあ!と笑顔になった。
しかし、その後すぐに
「でもさ、やっぱり普通よりは危険なんだろ?」
と、心配そうな顔で俺を見つめた。

俺は癩病を思い出す。
アレもそうだった。
人から人へ伝染する事なんてまるでないのに、多くの人々は癩病患者を見ると、こっちに来るな、あっち行け!と彼等を嫌厭、迫害した。
一番の被害者であるはずの彼等は抵抗する事もなく逃げ惑い、隠れ、しかし、そっと身を潜めていても、わざわざ捜しにきた奴らにみつかり悪魔の手下だと殺されもした。
それが間違いであった、あれは伝染性のない病気だった、彼等に何の罪もないと誰もに理解されるようになったのは、それこそまだ最近の事だ。
実にキリスト前の時代から、途中、迫害、殺傷こそなくなれど、差別、隔離はずっと続けられてきた。
薬でもとに戻ることが証明されなければ、もしかしたら未だに差別は続いていたかもしれない。

人間は利口なようで、実は全然そうではない。

そういえば最新のNew-Lieland External Medicine Journal(NEMJ)にこんな記事が載っていた。
「被曝者から放射能がうつると信じている者よ。部屋に籠って外へは出るな。外界との一切の通信も絶て。さもないとあなたの莫迦菌を周囲に蔓延させることになるだろう。幸いにもまだ感染してない者よ。もし周りにそう信じている者を見かけたなら直ちにその場からすぐに遠く離れ、彼等との連絡も絶て。さもなくばあなたも莫迦菌に感染してしまうだろう。もし止む終えず逃げられなかった場合、手でエンガチョを組み、耳を塞ぎ、一切口を開くな。それで少しは莫迦菌の感染は防げるであろう。」

なんてことも、嘘だよ!と言っておかないと意外に信じてしまう者もいるくらいに。