日本の改新 第一部:識者に聞く①
日米同盟 重み増す

 内政・外交共に混迷のまま、日本の2011年が明けた。国民の間には外交、安全保障、経済の行方に強い危機感が広がっている。日本が改新する処方箋は何か、内外の識者に聞いた。初回は、藪中三十二前外務次官とジョセフ・ナイ米ハーバード大教授が日米をインターネット回線で結んで対談した。

安保は世界のの公共財──ナイ氏
尖閣問題で日本人覚醒──藪中氏


 ナイ 日本は今、明治維新、昭和の戦後復興に次ぐ「第三の復活(reinvention)」の時代に入ったといわれる。
 藪中 その通りだ。今の日本はブレークスルー(行き詰まりの突破)が必要だ。日本は2030年に高齢化率が3割を超える。社会構造や人口動態で重い課題を背負う。明治維新や戦後のように、日本人の意識や態度が大きく変わる「ショック」が必要だ。例えば、労働力確保のために外国人労働者にもっと門扉を開くなど、痛みが伴う対応も必要だろう。
 ナイ 中国が自己主張を強めていることや、北朝鮮の脅威などもショックとなったのか。
 藪中 昨今の中国や北朝鮮の動向は、確かに日本人を覚醒させた。日本はどうすべきか、国民が外交や安全保障を日常的に語り合っている。政府には対外的に果敢に主張し、決断力を見せてほしい、という意見が増えた。
 ナイ 私の印象では、中国との尖閣諸島問題などを経て、日米同盟に対する日本人の関心は飛躍的に高まったのではないか。09年秋の民主党政権の頃、日本は米国から離れ、対中接近の政策を取るのではという疑念も生まれたが、すっかり消えたように見える。
 藪中 私もそう思う。尖閣諸島沖の漁船衝突事件を記録した海上保安庁のビデオは、日本人にとって衝撃的だった。中国は非常に大事な隣国だが、経済分野などで一方的に頼り切ってはいけないこともわかった。北朝鮮問題もあり、日本人の多くが今、日米同盟の重要性を実感している。
 ナイ 菅首相もすでに実感したようだが、強い日米同盟の維持、さらには日本、米国、韓国の3か国による緊密な連携が、北朝鮮に我々を分断させないためにも重要だ。12月の日米共同統合演習への韓国の参加には特に勇気づけられた。
 首相が今春のワシントン訪問の際にオバマ大統領と発表する日米共同宣言は極めて重要なものになる。日米安保条約と日米同盟が北東アジアの安定に不可欠であることに加え、「グローバル・シビリアン・パワー(地球規模の文民力)」戦略への日本の参加にも言及してほしい。この戦略は私が提唱しているのだが、日本はシビリアン・パワーとして、国連平和維持活動(PKO)や政府開発援助(ODA)など、地球規模での人道支援や災害救助などでもっと活躍できる。
 藪中 同感だ。日米同盟は近年、当たり前の存在として空気のようになっていたが、過去約1年の間に、日本人はその意義に気付いた。同盟の大きな柱の一つは、ご指摘のような文民活動とするべきだ。
 ナイ 私のアイデアだが、この同盟を東アジアの安全保障の枠組みとしてだけでなく、地球規模の幅広い「公共財」の源へと発展させるため、日米双方の識者で作る両首脳への助言機関を作ってはどうか。そこで今後20年の包括的な日米同盟を考えてみては。
 藪中 我々日本側は、もっと創造的に考えないといけない。21世紀の日米同盟として、伝統的な安全保障分野だけでなく、宇宙や地球環境分野などでも世界の安定に貢献できるよう、視点を広げたい。そうした政策を遂行するためには、安定した政権が必要だ。
 ナイ 国際社会の現状を知るため、日本の若者はもっと海外に出て世界を知ってほしい。日本では米国などへの留学や勤務の率が20年前に比べて激減したとのデータを見て衝撃を受けている。

「中国台頭し米凋落」は誤り

 藪中 米国の国際社会での指導力低下が心配だ。昨年11月のソウルでの主要20か国・地域(G20)首脳会議(サミット)では、不均衡是正の方策などで中国が新興国やドイツと組んで米国を批判し、米国は防戦一方だった。日本も米国と連携する必要があるが、米国にはもっと強い指導力を発揮してほしい。
 ナイ ご指摘の通り。米国は金融危機からの回復が遅れている。成長率が伸びて失業率が下がれば世界経済でもっと 指導力を発揮できるはずだが。ただ、中国の台頭の陰で米国の国力が凋落している、 という今の米世論には、私はノーと言う。米国人は、1957年に人工衛星スプートニク1号の打ち上げでソ連に先を越された時や、日本経済が急成長した80年代など、周期的に凋落思想にとらわれてきた。冷静に考えれば、米国の経済力、軍事力、ソフトパワーなどの底力は大変なものだ。中国が簡単に追いつくことはできない。
 藪中 中国は、国際ルールを守り、責任ある国家となる用意があるのだろうか。通貨改革や気候変動への対応などでは、国際社会の期待に応えていない。
 ナイ 米国は中国政策を変えた。オバマ政権は発足当初、中国と強く連携しようとした。これを「G2(主要2か国)」と呼ぶ向きもあった。私はこの発想に反対した。世界の重要な課題は日本と欧州を含めなければ解決できないからだ。米政府の姿勢が変わったのは、オバマ大統領が2009年11月に訪中してからだ。この時、中国当局は、民主活動家などを多数拘束するなど過剰反応した。さらに、昨年1月の米国の対台湾武器売却以降は米中軍事交流が途絶えた。中国は国内のナショナリズムを背景に過剰反応しているようだが、国際的な批判を招くなど大きな代償を払いつつある。米国は東シナ海や南シナ海での領有権問題に関して中立の立場を取るが、クリントン国務長官は「尖閣諸島は日本に領有権があり、日米安保条約の適用対象である」と明言した。
 藪中 北朝鮮問題はどうか。11月の韓国砲撃と濃縮ウラン施設の公開をめぐり、中国は断固とした対応を見せず、みなが失望した。
 ナイ 中国が最も避けたいのは、北朝鮮政府の瓦解による大量の難民流入や、韓国軍の北朝鮮進駐だ。中国に対しては、弱い北朝鮮の方がむしろ驚くべき影響力を行使している。それでも我々は中国に対し、「今止めなければ北はさらに行動をエスカレートさせ、事態はさらに悪化する」と警告している。韓国の李明博大統領の忍耐も限界に近い。中国が試される深刻な局面が続くだろう。


 司会 政治部次長 飯塚恵子

 国家の力(パワー)の源泉のありかを追求し続ける米国の論客と、昨夏まで民主党政権外交の中枢にいた元外交官トップとの対談。インターネットを通じた画面で日米を同時に結ぶ初の試みだった。特に熱を帯びたのは、中国の台頭が国際政治に及ぼす影響、そして日米同盟深化のあり方をめぐる議論だった。2011年も中国の動向が世界を動かすのは間違いない。



巡る因果の猫車-読売その1

巡る因果の猫車-読売その2

巡る因果の猫車-読売その3

 紙面版には載ってるんですけど、webには一向に載らないので打ち込んでみました。
 これといって目新しい意見は無いようには思いますが、北に対する韓国の李大統領の忍耐が限界に来てるなど、ちょっと不気味な発言もありますね。挑発が度重なってるとはいえ、それで李大統領が朝鮮戦争再開を望むとも思えませんが…まあ、それはさておき。


 あたいの方からはこれと言って付け加える事はないんですけど、ナイ氏の「ただ、中国の台頭の陰で米国の国力が凋落している、という今の米世論には、私はノーと言う」という発言、こーいう事を断言できるのが知識人としてメインを張り、時には政策にすら関与できる国ってのはやっぱり強いよなぁと思うんですよね。
 もちろん、根拠無き楽観だけで事を進めようとするのはタダのヴァカなんですが、現実を踏まえた上で自国民に「悲観しすぎんな!」と言えるリーダーは、日本にこそ必要だと思うんですけどね。
 日本だと、オピニオン・リーダーどころか政治家までもが、日本の強みは語らずに、日本はダメってところからしか語れないのばかりでウンザリしてきます。
 まずはこの辺からなんとかしないと、日本が勢い取り戻すことはないんじゃないでしょうか。うーん、せめてこのブログだけは、その弊に陥らないようにしなきゃなぁ…


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