1月25日(火)~2月6日(日)まで、渋谷の西武デパートにて、サブカルチャー的アート展「SHIBU Culture ~デパートdeサブカル~」が開催されるはずでした。なぜ「はず」なのか?それは何の前触れもなく昨日突然中止になり、渋谷西武のサイトからも展示会の告知ページが削除されてしまいまいた。デパートの展示会で事前告知もなく会期途中で中止されることは異例の事態です。一体何があったのか?

この「SHIBU Culture ~デパートdeサブカル~」は、そのタイトルどおり”サブカルチャー”をテーマに計26名のクリエイターが作品を展示するアート展でした。友人知人もたくさん参加しており、また渋谷西武は会社に行く途中にあるので私も行って見ましたが、その時は特に問題もなく人出も結構あり、Twitter上でも専用ハッシュタグ「#shibu_c」が作られ盛り上がっているように見受けられました。しかし突然Twitterのタイムライン上に「中止」の件が出現、さらに文中には「自粛」の文字まで。一体何があったのか?

事の経緯はこちらのTogetterによくまとめられています。


サブカルチャーをテーマにした展示が急きょ自粛

サブカル系アートイベントが表現に関するクレームにより自粛、中止へ

以下は私が上記Togetter及び出展者のTweetや日記などから間接的に知った経緯です。その点をご了承下さい。

・ある公的な団体(どんな団体かは不明。西武は名をふせている)から展示内容について苦情があった
・その団体に「何者かが」展示内容についての問題を匿名で知らせた。
・その苦情は件の「東京都青少年健全育成条例」を持ち出したものだったらしい。
・渋谷西武は一旦問題を指摘された作品を外し展示の変更を行い続行。
・しかし不完全な展示を続けるより中止を選択した。
・その後渋谷西武から参加クリエイターへ「開催の続行を自粛」というメールが送信された。


つまり、匿名者の苦情で展示会が中止されたようです。

これはあくまでも私の意見ですが、「不完全なものを展示するよりは展示会そのものを中止する」という渋谷西武の判断はアート展を開催する主催者としては正しいと思います。また株式会社である以上、常に風評被害とその影響による売上減を気にするのは仕方の無いこと。問題は匿名の苦情で何もかも可能になる社会です。私はこれとほぼ同じことを高校生の頃に体験しました。

私は高校3年生の冬、その時既に進学先が決定していたため他の人より暇で、その時間を利用して毎週日曜日に在日外国人に日本語を教えるボランティアに参加していました。そこに集まっていた外国人は、国際結婚で日本に来たいわゆる「じゃぱゆきさん」と土木建築系の出稼ぎ仕事をしている中東人、モルモン教の宣教師のアメリカ人、水商売や風俗の出稼ぎ仕事をしている東南アジア人など。そのボランティアの日本語教室はいつも市の公民館の一室を格安で借り、毎回その日のレンタル料を割り勘するスタイルで開催していました。私の記憶では、確か毎回1000~2000円くらいで高校生の私でもなんとかなる金額。私は「この金額で外国人と交流できるなら安いもんだ。日本語教える代わりに英語教えて貰えるかもしれないし」という、正直下心のある参加の仕方だったのですが。ところがある日、突然公民館の人に「もう皆さんには貸せない」と言われてしまいました。理由を聞いてもその人は言葉を濁すばかりで、やっと聞けた理由は「ある右翼団体らしき団体から『怪しげな外国人共を市民の税金で運営している施設に出入りさせるとは何事か!』と抗議された」というもの。そしてそれ以上のことは説明してもらえず、我々は問答無用で追い出され、以後様々な場所を転々とするジプシー状態となってしまいました。

その後すぐ私は進学のため上京し、そのボランティアの日本語教室がどうなったのかは分かりません。しかし今思うのは、「その団体は本当に右翼団体だったのか?」ということ。もしかしたら我々を快く思っていなかった一般市民が右翼を騙っていた可能性も十分にあります。また既存の有料の語学学校が妨害したということも考えられます。しかし抗議された側にそれを確認する術はありません。だいたい得体の知れない団体から急に強い口調で抗議されたらどんな人でも委縮してしまう。

大企業にしてみれば、公の団体から、しかも今話題の「東京都青少年健全育成条例」を持ち出した抗議をされたら、それだけでもう社内問題です。しかし最初に「SHIBU Culture ~デパートdeサブカル~」に対し苦情を言った某個人の主張は正しかったのか?本当に展示に問題があったのか?また問題があったなら誰の何のどんなところに問題があったのか?全てはもう闇の中で知ることはできません。有名デパートが開催している大規模な展示会でさえ、匿名の苦情を一本入れるだけで簡単に中止に追い込むことができる。そんな匿名暴力がまかり通る国を民主主義国家と言えるでしょうか?そして、そんな匿名暴力を生み出す「東京都青少年健全育成条例」という悪法。副都知事の猪瀬直樹氏はTwitterで「委縮なんてしなければいい」と言っていましたが、人間の心理や企業の都合はそんなに単純ではありません。というか規制する側がそんな発言をするのはあまりにも傲慢です。

しかしこの件でポジティブな面を上げるとするなら、Twitterを介したその情報共有の早さでしょう。これがもしTwitter普及以前なら、せいぜい個人のブログやmixi日記に書かれるだけで本当に内内だけに広まり、そのうち忘れ去られていたかもしれません。でも今はTwitterのおかげで中止決定から数時間のうちに多くの人に広まり、西武百貨店元社長である水野誠一氏までがこの件に対しTwitterでコメントを発しました。以前ならこんなに早く”上の人”にまで情報が伝わることは考えられなかったでしょう。

いずれにせよ今回の件は、都条例改悪の弊害を伝えるある意味「良い例」ではないでしょうか。私としてはもっと大きな話題になってもいいのではないかと思っています。引き続き情報共有及び議論が為されることを望みます。