児童・思春期の患者さん(続き) | kyupinの日記 気が向けば更新

児童・思春期の患者さん(続き)

児童・思春期の患者さん」の続き。

もう1名の子は、ADHD+ODDからCD(行為障害)のパターンと思ったが、ひきこもらず活発なタイプなのでアスペルガー的ではないと思った。しかしこのタイプでも明らかにアスペルガー症候群と思われる患者さんもいないわけではない。

アスペルガー症候群の診断は、臨床所見が重視される。だって検査所見でデコボコがあるように思われるのに、アスペルガーとは程遠い人がいる。逆に検査所見で普通の結果なのに、臨床的にはアスペルガーと診断される人もいる。僕は個人的にコミュニケーション、特にリテラシーを重視している。この子の場合、コミュニケーション、リテラシーなどの面でアスペルガー的ではなかった。

この子の場合、どの病院に受診してもさまざまな診断が付くだけではっきりせず、大学病院でも単に子供の甘えのように思われていたようである。ある病院では統合失調症も疑われると言われたらしい。(後にこの医師に会う機会があり、彼女をそう診断する理由を尋ねたところ、どうしてもその子を思い出せないという。恩師であり、思い出せないと言うものをそれ以上聴けない)

その子は、甘えでも双極性障害でもうつ病でもなく、広汎性発達障害的なのである。

うちの病院で診察する際には特別なテストなどしない。どうせ告知しないわけだし、何らかの診断をすることで本人にマイナスになるのを考慮しているというのもある。また、

統合失調症ではない。

ということだけで十分というのもかなりある。(←雑と言えば雑)

だいたい・・
過去のアスペルガーだったかもしれない?偉人はほとんどの場合、診断され告知などされていない。全く無責任なものだ。

アスペルガー症候群の人は、いったん診断・告知されると、診断されることでその後の人生の総エネルギーの30~40%を、診断されたことや、ああでもないこうでもないで無駄に費やす。彼らはそういう思考パターンになっているのである。

僕は疾患性を説明するだけで告知せず、本人のエネルギーを他に向けた方が発展すると言う考え方である。

さて、その子の場合、ひらひらと奇妙な手足の動きがあり、なんとなく診断基準に採用されるようなものもあったので、まだ脳が安定していないのでは?と思った。診察中も立ったり座ったりと落ちつかず、突然診察室を出て行ったかと思うとまた戻ってくる。発言もコロコロと変化する。集中力も乏しいのである。この動きは奇妙だが、初診時、他院で眠剤くらいしか服用しておらずアカシジアは考えにくい。

ひらひらとした動きは一度、アキネトンを筋注してみたところ全く効果がなく、またセルシンの筋注も効果的ではなかった。この動きは薬物の反応を見る限りアカシジア的ではない。僕は入院させて積極的に治療することにした。

思ったこと。

その子は薬物の忍容性が結構高い。しかも興奮状態だとかなりの薬が使える。パーキンソンとかアカシジアなどの副作用が出ない範囲で薬物による短期的鎮静は可能であった。

効果的な薬
①エビリファイ液(絶対値としてかなり有効)
②セレネースあるいはトロペロンの筋注(突発的興奮には効果的)
③デパケンR(たぶん有効)
④アナフラニールの点滴(うつ状態にはかなり効果的)


不適切と思われるもの
①SSRI(衝動が増し対応が困る。怒りが爆発する。家族への暴言が増えるようである)
②ジプレキサ、セロクエル(おそらく不適切。セロクエルは良いかもしれないが、この子には体重増加の懸念がある)


良いのかどうか微妙な薬物
①ラミクタール(おおらく有効であるが、インパクトが今ひとつ)
②ブプロピオン(たぶん有効。短期間処方)
③リボトリール(悪くないが、不安感を抑えるには力不足)


この子のような多動、興奮、衝動が強いタイプで、液剤とは言え少量のエビリファイが奏功するのは感動モノである。液剤で軽く鎮静がかかっていた。

おそらく、エビリファイ液だけで時間が経てば結構よくなるのではないかと感じた。ただ、本人があの薬は嫌いだと言う。デパケンRも効いているように思われるが、剤型の点で嫌うようであった。広汎性発達障害ないしその近縁の子は、明瞭な根拠がない、あるいはこちらがわかりにくい好き嫌いをする。これはたぶん感覚の偏位が関係している。本人が飲まないものは仕方がない。

一度、不思議な事件が起こった。入院中、僕の不在時に著しい興奮状態が生じ、当直中のうちの女医さん(ネコカレンダーの人)がなんとトロペロンを2アンプル筋注したのである。これは相当に激しい興奮状態が生じたためにそうしたと思うが、僕はそれまで0.5アンプルまでしか筋注したことがなかった。それで十分に効果的だった。

ところがである。その子は2時間ほど眠り、目が覚めた後、スッキリしたと言い、そのまま活発にすごしたと言う。これは僕が0.5アンプル筋注した時と、眠った時間まで全く同じであった。目覚めがすこぶる良いことまで同じである。

これは、きっとあのような時期は患者さんも特に忍容性が高まることが1つ。もう1つは、医師の薬物のエイジングの相違であろう(参考)。女医さんの場合、トロペロンが少し多めでないとうまく効かないのではないかと思った。

○○先生は副作用を出さない天才かもしれないね~

その後、ちょっと違うことを思い始めた。あの事件があの経過になったのは、僕がほぼ毎日診ている患者さんだからではなかろうかと。よく考えると、僕が2アンプルしても同じ結果になったような気が非常にする。よく似た事件が他にもあったからである。

治療経過中、リストカットは速やかに消失した。リストカットは消失しやすい精神症状と思う。ただ、この子の場合、それ以外がかなり問題である。

まず発作的なオクターブの高い興奮とてんかん的な不機嫌である。不機嫌からそのまま興奮状態に至ることもある。また、うつ状態や厭世観もみられる。このようなケースでは母親への指導も重要と思う。子供が烈火のごとく怒った状況で、それを真に受けて対応を間違っていることが多いからである。

また、治療中にあたかも内因性の双極性障害の如き臨床経過を目撃した。

内因性の破片がちりばめられている・・

あれが子供でありえるのか?と思うほどである。その場面だけ診ると、双極性障害と診断する誘惑に非常に駆られる。しかしエピソード性に侵入している点が少し違う。(本来は双極性障害はエピソード性であるが、その前後が連続形になっていない)

今回のあの子は衝撃的だ・・

この話をあの2アンプルの女医さんに話した。この子の場合、ひきこもらないタイプなので精神科病院内で静かに療養することは向かない上に、マイナスのようにも思える。看護者も慣れていないので、けっこう大変である。だから短期間で退院させることにした。家族へは今後のこともあるので、発病以来の経過について思っていることを伝えた。個人的にこんな風に思っている、といったところである。

この子も最終的には前回紹介した子と経過が似ていた。ある日突然、重い症状が頓挫するように消失したのであった。

あれは偶然ではなかったのかも・・
最後頃に使っていた薬は少量のブプロピオンである。しかし、特別にブプロピオンでなくても良かったような気がする(たぶんエビリファイでもトロペロンでも良かった)。

今は全く服薬していない。学校へも通っている。完全に良いとは言えないが、興奮やうつ状態が安定し近年の最も良い時期の状態に戻ったと言う。家族も対応が以前よりはしやすくなったようである。ただこのまま服薬なしだと再燃の危険性はある。だからといって、少量の内服により再燃が避けられるのか?という疑問も相当にある。服薬なしでこのまま様子を診る方がたぶん現実的であろう。本人が薬を嫌う以上。

ひょっとしたら、うまく対処できればADHDは最終的に服薬は必要ないのかもしれない。

このような興奮や行動面の問題が多いタイプの子は積極的に薬物療法をすべきなのは間違いない。これは、薬である程度抑えないと、話ができないからである。また希死念慮やうつ状態についても同様である。(話が前に進まない)

一般に、子供だからという一点で、薬物療法が躊躇われすぎている。急に症状が頓挫したのは、薬でアプローチした結果であり、自然にそうなったわけでは決してない。

特に・・
あのひらひらと奇妙な手足の動きがいつのまにか消失しており、その後も出現することはなかった。あの子は初診時は眠剤しか服薬していなかった。また全般、診察中も落ち着きが出ている。(突然立ち上がり、部屋を出ていったりしない)。

それにしても、この2名の最後あたりの経過が謎過ぎる。改善のパターンが似ているもの不思議だ。しかしまだ治療途中なのである。将来的にどのような経過になるかはまだ予断を許さない。

「成熟が治療的」と思われる器質性疾患は、若いうちに決定的に悪くならないことが重要だと思う。

(終わり)

この記事は「児童・思春期の患者さん」の後半でしたが、ずっとボツ原稿まま放置していました。なぜボツ原稿だったのかは、読めばわかると思います。急に気が変わりアップしています。