「新曲聞けました!!
ライブには行けなかったのですが、
ネットで聞いてから毎日頭から離れません!!」

ある日、そんなメッセージが届いた。

たくさんくれたみんなのコトバの中で 
そのメッセージは私の頭の中の「ハテナ」の項目に分別されたまま
数日間 そこに置きっぱなしにしていた。

しかし その意味を数日後に、知ることになる。

HELLO ENDING


ー遠征ツアーを終えて東京に戻ってきた日のこと。

久しぶりに会えたEARTHの仲間達とワイワイと話していると
一人から彩織さん、さおりさんちょっと。と声をかけられる。

「どうしたの?」

「あの…」

「何かあった?」

「ワンマンのライブの音源が、ネットにあがっています」

「えっ……」

ネットデキイテカラ……点と点がつながった。

---

HELLO ENDING


ワンマンの音源がネットにあがっている。

つまり、ライブに来てくれたうちの一人が録音機器をオンにして、
インターネットにアップロードした ということだ。

確認すると、たしかに【PAの近くで録音しました】という説明付きで
ライブの音源があがっている。

違法アップロードである。


次の日、車の移動中に深瀬に話しかけた。

「ツアーの音源が、ネットにあがってるんだよ」

深瀬はかなり長い間沈黙したあと、話し始めた。

---


HELLO ENDING


「そっか………。
その人は悪意があってネットにあげた訳じゃないのかもしれない。
でも、それはスゴく困るよ。」

「そうだね」

「俺たちはライブで未発表の曲もやってる。
リリースはみんなに一番届くタイミングとか、方法を考えて発表するでしょ」

「うん」

「こうやってリリースの前にネットにあげられたら、
新曲をライブで発表することが出来なくなる」

「うん…」

「タダで得たものなんて、所詮タダの価値しかないんだよ」

CDが売れない、と言われている時代。
しかし作品を作るには莫大な時間とお金がかかる。

無料で聞かれた音楽は、
無料で聞ける音楽しか作れなくなる。

これは私たちだけのハナシじゃない。

インターネット全盛期を迎えて
ミュージックは今、瀕死の状態なのだ。


HELLO ENDING


「便利さと引き換えに失ったのは【実感】だよ。」

「どういうこと?」

「ゴハンがいつでも無料で食べられたら、
ディズニーランドが毎日無料で入れたら、
世界はどうなると思う?」

「情熱を 失うのだろうね」

「今はそういう時代になってきてる。音楽だって同じだよ」

「………」

きっと誰もが感じていること。
でも止めることのできない 文明の進歩の代償。

幸福な世代。ハッピージェネレーション。
何だって手に入る、どこへだって行ける自由な世界。

しかし、同時に自由に蝕まれた時代。


「違法アップロードが簡単にネットで見れてしまう今、
文明の代償を止められるのは 一つしかないよ」

「なに?」

「愛」

笑えなかった。
感情を無くしつつあるこの時代、
対抗勢力として 世界に足りないのは「愛」だ。

「自由」の中から「不自由」を選択する難しさ、不自然さは理解出来る。
一人の意思が変わっても、
どうせ世界は変わらないじゃんと思ってしまうキモチも理解出来る。

だからこれはほとんど祈りに近い願いだけれど

私たちが生み出して 世界と戦う 愛しい楽曲たちを
どうかどうか その手で愛をもって守ってください。