エイブラハム・ホッファー博士は、ビタミン剤投与で精神疾患の治療を試みたカナダ人医師。
分子整合医学推進派からは「パイオニア」として、分子整合医学という用語を作り出した
ライナス・ポーリング博士とともにその功績を讃えられている人物です。

とはいえ、エイブラハム・ホッファー博士の書いた文章の訳文は実は半分程度(115ページまで)。
あとは医学用語の訳注が少々。

加えて訳者解説というにはかなり長い訳者自身による文が、残り半分弱を占める本ですが
この解説は具体的な分子整合医学の病院名(かなり有名なところ複数)をとりあげ、
その素晴らしさと、一般的な病院での医療(主に精神科)に対して激しく批判している内容です。

(まぁもうちょっとはっきり書いちゃうと
 ネットや書籍でよくありがちな、分子整合医学礼賛の文章です。
 そう書くと、人が集まったり本が売れたりするんだろうなぁ・・・と横目で眺めます。)

ので今回は訳者解説はざっくりと読み飛ばし、本来の著者であるホッファー博士の
書いた部分のみ、ここでとり上げることにします。

ちなみにタイトル通り、この本は低血糖症の関連書籍じゃないですw
栄養療法の関連書籍であるとは言えますが、まぁ、低血糖症については出てきません。

何故この本かというと、検索して目に触れた、ホッファー博士の本がこれだったからです。
ホッファー博士が低血糖症の関連の本を出してたら読んだでしょうが、
本としてはとりあえず検索しても出てこなかった。
(原著の論文とかあたれば別なのかもしれませんが)
統合失調症とナイアシンとの関係の書籍しかなかったので、読んでみました。



この著者は、分子整合医学を行う前にまず普通に精神科医であった人のようで、
よく読むと、完全に薬物療法を否定している文脈ではありません。

精神安定剤には即効性があるとも認めています(p79)し、抗うつ薬であるクロミプラミンを
使って、精神症状に対処している例も出しています。(p80)
さらには「分子整合医学は全ての薬物療法と共存できます」とも述べています。

著者は向精神薬の副作用に対して、薬物量を減らし、投与をやめていくことで
対処しようとしているのですが、そのためにナイアシンを用いたようです。

モデルケースの症例にはナイアシンの投与について詳しく書かれていて、加えて
その他のビタミンやミネラルの製剤の重要性も、別章で述べています。
治療に決定的なものとして著者が挙げているのは、重点的に書かれているナイアシン以外に
ビタミンB6(ピリドキシン)、ビタミンC、葉酸、ビタミンB12、必須脂肪酸。
ミネラルとして、亜鉛、マンガン、セレンがリストアップされています。

回復したあと、少なくとも5年間分子整合療法を受けること、
生涯にわたって続けて欲しい、と著者はこの本で書いているのですが、
つまりは日本なら、あの月うん万のサプリを、生涯飲むってことなのね('A`)
と、つい自分の立場に置き換えて考えてしまうわたしでしたが。


この本でちょっと好印象を持ったのは、それぞれのビタミンに関し投与の際の副作用についても
全てではないものの、きちっと文中で触れていること。

ナイアシンアミドの過量投与の場合は、吐き気。
ナイアシンの過量投与の場合は、かゆみや熱を伴う血管拡張や、紅潮。それに加えて
まれに重い肝臓障害や、閉塞性黄疸がおこることが記されています。
ビタミンCの場合は、下痢。

副作用について説明を受けるのは至極当たり前のことなのですが、
わたし自身は、栄養療法の担当医からも栄養指導の際も一切説明されていません。
むしろ食品だから安全、一日量をきっちり飲んでください、といわれた有様で。


ただし実際にはビタミンCの有効性の治験を行ったわけではなく、葉酸の統合失調症への
効果も、「あるのではないかと考えた」というレベルです。

心房細動の治療に効果があるから、統合失調症にも効果があるのでは、という文に至っては
「風が吹けば桶屋が儲かる」、かよ?と思ってしまいましたがww

p62の「かぜの症状を緩和してくれる、価値の大きな栄養素」という表現についても、
じゃ風邪が治る薬は統合失調症に効くと言えるのか?とツッコミたくなったり。

機序や有効性の理由の仮定くらいあればまだ納得かもしれませんが、そこらへんは記載がない。
あくまで「効いた人がいる」「研究している人がいる」「それで治療している人がいる」
ということを強調し、症例を並べているという印象が否めません。

p105から書かれている症例などは、当初パラノイア(妄想性障害)、学習障害だと診断した人を
幻聴を訴えた段階になって統合失調症として再診断している、と書かれているのですが
ひねくれたわたしが考えたのは、
それってそもそも最初から統合失調症だったんでは?
あるいは逆に、
それってそもそも統合失調症だったんですか?
という素朴な疑問でした。

確かに幻聴や妄想は統合失調症で起きることがある症状だけど、
逆に、妄想や幻聴があれば統合失調症、というのとイコールなんでしょうかね?
(幻覚は統合失調症でなくても起こりうるものだそうですよ。)
実際は統合失調症でなかったからナイアシンで治ったりしていてねぇ(毒)

逆にいうとそのくらい統合失調症と診断することや、他疾患と鑑別することは難しいのでしょう。
ずっと精神科医として仕事をしている人ですらそういうことがあるわけで。

でも一方で、日本で大手で宣伝している栄養療法の病院の医師のほとんどが、
精神科の病院で精神科医として働いていたことがない人だったりするのを見ると
ほんとにちゃんとうつとか統合失調症とか診断できてるわけ?
と毒づきたくなるわけですよ。
知らないから何でも平気で言っちゃってたりしてねーー(さらに毒)


話を本の内容に戻すと・・・しかもそういうビタミンで治療していた症例が統合失調症であると
再診断した時点で、著者は自分でチオリダジンを投与してるんですね。
(リンク先を参照していただくと分かるかと思いますが、
 チオリダジンは古典的な向精神薬で、現在は製造中止になっています。)
しかもチオリダジンの投与後、患者は短期間で退院できている。

急性の症状で入院を必要とするレベルの不調になった時、症状を改善させたのは
(それまで投与していたビタミンではなく)チオリダジンであったわけで。
結局分子整合医学を推進しているこの著者ですら、急性期の症状を抑えるために
古典的な向精神薬を頼って治療し、奏功しているということなのです。


もしも精神科の診療経験のない医師が、向精神薬の使用をあくまでも悪と考え
入院後も投与することを避けていたら?
この患者を一貫してビタミンのみで治療を継続していたとしたら?

はたしてこの患者が急性期の症状を脱して良くなる方向性へ向かったかどうか?


飲む側の立場から、医薬品として売られているものが嫌いとか信用できないとか、
サプリなら安全なように思える、とか。
処方する立場の側から、ビタミン剤ならば安全性が高いとか、患者の薬を飲みたくないという
ニーズに合致するとか、そういった諸々の感情や思惑はとりあえず除外した上で
冷静な議論として行われるべき検討課題だと思います。

ちゃんと科学的なエビデンスを含めた上での議論ですよ。もちろん。


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