『歴史は「べき乗則」で動く』 | 本だけ読んで暮らせたら

『歴史は「べき乗則」で動く』


『歴史は「べき乗則」で動く――種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学』  マーク・ブキャナン/著、 水谷淳/訳、  ハヤカワ文庫 NF 358 〈数理を愉しむ〉シリーズ(2009)

複雑系科学関連書。


例えば、岩石の硬さ。 マイナスの硬さとか、マイナスの強度とかって存在しない。

例えば、体重とか身長。 こういったものにもマイナスの値ってありえない。

正(プラス)の値しか取りえないもの、非負の現象、そういったものの度数(頻度)は大抵の場合、対数正規分布で近似できる。 我々エンジニ屋には、こういった感覚が身に付いている(と思う・・・)。


地震の大きさ、エネルギー量を示すマグニチュード。マグニチュードが1大きくなるとエネルギーは約30倍、マグニチュードが2大きくなると30×30で、約1000倍となる。このマグニチュードには上限がある。およそ9.5程度がその値といわれている。

マグニチュード20なんてのは存在しない。そんなにエネルギーが大きかったら地球自体が吹っ飛んで、跡形もなくなってる・・・。 オット、脇道に逸れた・・・。 

マグニチュード(M)が6の地震は、M=7の地震の10倍程度も頻繁に起こる。 日本近辺ではM7程度の地震は結構起こる。 陸地では兵庫県南部地震とか新潟県中越地震とか。 海溝型(プレート間、プレート内)の地震ではM7程度の地震は年がら年中だ。だが、M8クラスの地震となると滅多に起こらない。 M7クラスの地震のおよそ1/10程度くらいでしか。


M7クラスの地震が起こる回数は、M6クラスの地震が起こる回数の約1/10。

M8クラスの地震が起こる回数は、M6クラスの地震が起こる回数の約1/100。

 ↑ このような対数(指数)的な関係性が認められる。 これが、べき乗則。


・・・ってことで、べき乗則に従う現象として、本書で最も頻繁に取り上げられているのが <<地震>> について。

他にも、山火事の大きさと発生回数の関係だとか、生物の絶滅規模とその回数だとか、・・・、etc・・・


地震ってのは、地盤とか岩盤の内部にひずみが溜まって、それが一気に開放されたときに起こる。

 (何故、岩盤内にひずみが溜まるのかは、簡単に言うと、大陸や海洋を構成している複数のプレートが

  押し合っているからな訳で・・・)

地震発生のメカニズムはかなり判ってきているのだが、それがいつ起こるのか、どの程度の大きさなのか、は未だに良く判っていない・・・。 岩盤内のひずみの開放という、同じ切っ掛けで起こる地震が、何故?規模の違いが生じるのか? なんてことは、特段解りづらい。

この良く判っていないことが、最近の新しい物理学の研究分野が発展すると判るようになるかもしれない?


「べき乗則」に支配される現象というのは、ノン・スケールだということ。 小さな現象(地震)も大きな現象(地震)も同じように生じ得る。現象の規模が大きくなるのか、小さいままなのか?

その分かれ目は、“臨界状態”にある・・・・。 ここから、本書は、「自己組織的臨界」、「ネットワーク科学」へと繋がって行く。


カオスや複雑系科学が対象とするのは、大抵の場合、自然現象に関わることである。精々が経済・金融分野に関わることだった。こうした分野は、膨大な数値データがあるので、一種の自然現象とも云える(?)。


だが、本書のクライマックスでは、人類の歴史までもが物理学によって表せる可能性について、著者の野心的な考えが述べられている。 本書の一番の特徴がここにある。

著者ブキャナンは、「歴史物理学」という言葉を使って、とんでもないことに触れている。 チョイとオモシレェ。