疫病(感染症・伝染病)を防ぐ。その2 vol.2
疫病(感染症・伝染病)を防ぐ。その2 vol.2 は
疫病(感染症・伝染病)を防ぐ。その2 vol.1 の続きです。
以下は感染症に関する詳細を記しています。
この内容を読むことで、勝手に治療等の行為をしないでください。
症状に覚えのある方は、必ず医療機関で診察を受け、医師の治療を受けてください。
避難所の方は医療従事者の方にご相談ください。
[原因病原体]
黄色ブドウ球菌、連鎖球菌、腸内細菌など
[注意点]
泥水などによる汚染がある場合には腸内細菌、ビブリオ、エロモナスなどによる
感染リスクが高まる。
[原因病原体]
破傷風菌
[臨床的特徴]
潜伏期間:3~28日。
神経毒素による強直性痙攣が特徴。
開口障害、嚥下困難、痙笑などから始まり、呼吸困難や後弓反張に進展。
[注意点]
明らかな外傷がなくても発症することがある。
40歳以上はワクチン未接種であり、感受性が高いことに注意。
[原因病原体]
ガス壊疽菌
[臨床的特徴]
潜伏期間:8~20日、平均4日前後。
組織内の嫌疑状態で増殖し毒素を産生することにより発症。
皮下組織におけるガス産生、激痛、水疱形成が特徴で、筋肉壊死が急激に進行
する。高率にショックを合併。
[注意点]
ガス壊疽菌は酸素に弱いことから、過酸化水素水による消毒、高圧酸素療法
などが有効。
[原因病原体]
口腔内細菌、嫌気性菌に加え腸内細菌、緑膿菌、ビブリオ属など
[臨床的特徴]
吸引した菌の種類と菌量により潜伏期・症状は多彩。
腸内細菌や緑膿菌などの場合には、壊死性あるいは出血性肺炎を示す頻度
が高い。
[注意点]
混合感染頻度が高いことに注意。
4~7日後に発症するβラクタム剤耐性重症肺炎の場合にはレジオネラ肺炎
なども考えられる。
[原因病原体]
レジオネラ
[臨床的特徴]
潜伏期間:4~10日。
レジオネラ菌で汚染された水の誤嚥・吸入により発症。
冷却塔・噴水・河川など自然界の水系・土壌に広く存在。
多発性陰影、強い低酸素血症、意識障害、肝酵素異常など。
高齢者に多く、無治療での死亡率は20%以上。
[原因病原体]
レプトスピラ
[臨床的特徴]
潜伏期間:3~14日。
感染動物の尿による経皮感染、汚染された水の接種による経口感染。
発熱・頭痛など風邪様の症状からはじまり、肝障害・黄疸・結膜・充血・筋痛・
腎障害まで多彩な臨床症状を呈する。
[注意点]
げっ歯類(マウス・ラットなど)をはじめ、多くの動物がレプトスラピ菌を保有。
タイでは洪水のあとにレプトスピラ症が多発したとの報告あり。
[原因病原体]
ハンタウイルス
[臨床的特徴]
潜伏期間:1~5週間。
ネズミの糞尿や唾液中に排泄されたウイルスの吸入あるいは
経皮(咬傷)接種により感染。
発熱、頭痛、腹痛、嘔吐、筋肉痛等のインフルエンザ様症状ののち、
(1)腎症候性出血熱:腎障害(乏尿、蛋白尿、腎不全)・皮下出血、
あるいは
(2)ハンタウイルス肺症候群:咳・呼吸困難・ARDS・ショック、など多彩な
臨床症状を呈する。
[注意点]
地震、津波、避難所生活などにより、ネズミとの接触の危険性が高まるため
注意する必要がある。
[原因病原体]
リッチケア
[臨床的特徴]
潜伏期間:1~2週間。
シラミ媒介のリッチケアが経皮的に感染することにより発症。
貧困・気がなどにともない流行。大正時代に7千人を超える患者が発生している。
発熱、頭痛、悪寒、脱力感、嘔気、嘔吐、手足の疼痛などにより突然発病。
高熱を示すことが多く(39~40度)、発疹は発熱後2~5日で体幹に出現、
第5~6病日で全身に拡がる。
[注意点]
シラミ対策の徹底が重要。ヒト―ヒトへの感染はなし。
[原因病原体]
リッチケア
[臨床的特徴]
潜伏期間:1~2週間。
草むらなどに生息するダニの1種の“ツツガムシ”の幼虫が皮膚に吸着する
ことにより感染。
発熱、刺し口、発疹を3徴候とし、頭痛、倦怠感、リンパ節腫脹、肝機能障害
などがみられることが多い。
日本では4~6月、9~12月に発症することが多い。
[注意点]
刺し口が診断に重要、しかしこれがみられない症例もある。
[原因病原体]
インフルエンザウイルス
[臨床的特徴]
今現在において、避難所では A香港型(H3N2)の流行がみられている。
[注意点]
手洗い、咳エチケットの徹底が基本。
目などの粘膜を介した感染の可能性にも注意。
[原因病原体]
肺炎球菌
[臨床的特徴]
典型的には“大葉性肺炎”、“鉄さび色の痰”が特徴。
敗血症、髄膜炎、関節炎など転移性病変の合併率が高い。
[注意点]
避難所では 老人~子供間 の飛沫感染が頻発する可能性あり。
[原因病原体]
マイコプラズマ
[臨床的特徴]
“頑固な咳”が特徴。
[注意点]
避難所内で飛沫感染により蔓延する可能性あり。
長引く咳を示す患者さんはマイコプラズマ、百日咳、結核の恐れあり。
[原因病原体]
百日咳菌
[臨床的特徴]
潜伏期間:約1週間。
カタル期→痙咳期(咳発作期)→回復期。
1~2週間のカタル期(咳、痰、鼻水、微熱などのカゼ症状)ののち、
痙咳期(激しい発作性の咳)が1~6週間持続。
[注意点]
避難所内で飛沫感染により蔓延する可能性あり。
1歳未満では重症化傾向が強いことに注意。
手洗い・咳エチケットの徹底が原則。
※ワクチン接種者でも感染する可能性がある。
[原因病原体]
大腸菌、サルモネラ、カンピロバクター、黄色ブドウ球菌、ビブリオ属細菌、
ボツリヌス菌、セレウス菌、ウエルシュ菌など
[臨床的特徴]
◇注意しなければならない細菌性食中毒の特徴。
≪腸管出血性大腸菌≫
鮮血便、強い腹痛が特徴。
糞口感染で感染性が極めて高いことに注意(赤痢と同様)。 ≪赤痢≫
発熱、下痢、腹痛を伴うしぶり腹、膿や血便を伴う下痢便が特徴的。
日本での症例は“ソンネ菌(Shigella sonnei)”が原因であることが多く、
軽度蹴りや無症状で経過する症例もある。
この菌で汚染された食品を介した感染の他に、手指を介した二次感染
事例も多い。
赤痢は感染性が強いので、コップやペットボトルの共有は避ける。 ≪サルモネラ≫
原因食材としては鶏肉・卵が重要(卵内感染例あり)。 ≪カンピロバクター≫
原因食材としては鶏肉が重要。新鮮な肉(特に肝臓)に存在。 ≪ビブリオ属細菌≫
原因食材としては魚介類が重要。
肝硬変などの基礎疾患を有する宿主がある種のビブリオ属細菌で
汚染された食材を摂取することにより、急激に敗血症を発症。
この場合の死亡率は高い。 ≪黄色ブドウ球菌≫
耐熱性毒素による食中毒(熱をかけた食材でも発症)。
本金は傷の化膿創から高率に分離される。
避難所では“おにぎり”などの食材を介した感染に注意。
摂食から症状発現まで3~6時間。
水様下痢、発熱なし が特徴。 ≪ボツリヌス菌≫
“飯寿司(いずし)”など嫌気状態で保存される食材が原因となる。
ボツリヌス菌の産生する毒素による筋肉の弛緩性麻痺が特徴的。
めまい、頭痛、眼瞼下垂、複視、嚥下困難、呼吸菌麻痺など。
乳児では蜂蜜摂食による 乳児ボツリヌス症 に注意。
[注意点]
避難所内でのトイレ環境の維持、手洗いの徹底が基本。
[原因病原体]
ノロウイルス、ロタウイスル
[臨床的特徴]
潜伏期間:1~3日。
冬季に流行。嘔気、嘔吐、下痢、発熱。
ノロウイルスはもっとも頻度の他界食中毒原因病原体である。
原因食材としては カキなどの2枚貝類 が重要。
ロタウイルス感染症は小児重症胃腸炎の原因として重要。
症状は3~8日持続、水様・白色便が特徴的。
[注意点]
感染性が極めて強いことに注意。
糞便だけでなく、汚物を介した吸入感染の可能性もあり。
アルコール消毒は無効で、次亜塩素酸製剤による消毒が効果的。
[原因病原体]
A型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルス
[臨床的特徴]
潜伏期間:2~6週間。
A型は飲食物(特に海産物)、E型は未加熱動物肉(鹿、猪など)の摂取により
感染。
発熱、倦怠感、食思不振(食欲不振)、嘔吐で発症。
典型例では 黄疸、肝腫大、濃色尿、肝酵素上昇を示す。
E型は妊婦で重症化傾向あり。
[注意点]
50歳以下はほとんどがA型抗体陰性。
冬から初春にかけての感染例が多いことからも、避難所内でのA型肝炎ウイルス
の糞口感染に注意する必要あり。
[原因病原体]
サルモネラ属菌
[臨床的特徴]
潜伏期間5~21日。
感染者の便・尿、汚染食品・水・手指を介して経口的に感染。
三徴:比較的除脈、バラ疹(体幹の淡い斑状丘疹)、脾腫。
第1週に三徴出現、第2週は極期、第3週に腸出血・穿孔などの合併症を認める
ことが多い。
[注意点]
治癒後、数パーセントが慢性保菌者になることに注意。
[原因病原体]
黄色ブドウ球菌、A郡連鎖球菌など。
[臨床的特徴]
小児の“とびひ”の原因として重要。
接触感染により ヒト―ヒト伝播。
[注意点]
汚染水の関与が疑われる場合には腸内細菌やエアロモナス属、緑膿菌などの
細菌も考慮。
市中感染型MRSAの増加が報告されており、
この場合はペニシリン・セフェム系薬などのβラクタム剤は無効のことが多い。
[原因病原体]
ヒゼンダニ
[臨床的特徴]
疥癬虫が角質内に侵入、表皮角質層にトンネルを掘り棲息。
強いかゆみを特徴とし、腹部・腋窩(わきのした)・大腿部の虹色小丘疹、
外陰部の赤褐色の小結節、手指の小水疱が見られる。
ヒト―ヒトの密接な接触により感染伝播。
虫卵を含むフケ、リネン、医療器具などを介して感染が広がる。
[注意点]
下着、寝具などの感染対策(50℃、10分処理)。
ノルウェー疥癬はさらに感染性が強く、牡蠣殻状の厚い鱗屑を特徴とする。
[原因病原体]
結核菌
[臨床的特徴]
持続する咳、微熱、食欲低下、体重減少などの非特異的症状。
2週間以上持続する咳がみられた場合には、結核、マイコプラズマ、
百日咳を疑う。特に高齢者では結核の見極めが重要。
感染力は極めて強い(空気感染)。
[注意点]
避難所内で生活する高齢者の結核に注意。
排菌陽性例が1例でもみられた場合には、避難施設内の老人・子供に感染が
伝播している可能性を考えて対応。
[原因病原体]
麻疹ウイルス
[臨床的特徴]
潜伏期間10~21日。
発熱3日で一旦解熱しコプリック斑が出現。4日目から高熱(39℃以上)と発疹。
[注意点]
避難所内での感染制御は困難であり、感染者の早期発見と移送・隔離が重要。
[原因病原体]
水痘・帯状疱疹ウイルス
[臨床的特徴]
潜伏期間:10~21日。
発感染が水疱(丘疹、水疱、膿疱、痂皮の混在)。
発熱2前~水疱の痂皮化まで感染力あり。
呼吸器症状がある場合には飛沫・空気感染。
帯状疱疹患者では水疱内液を介した接触感染も伝播も重要。
治癒した後もウイルスは神経節ないに潜伏。
高齢など免疫能の低下にともって再燃(帯状疱疹)。
[注意点]
避難所においては、高齢者の帯状疱疹が接触感染で免疫のない小児に感染
する可能性あり。
ワクチン接種歴の確認と未接種児に対するワクチン接種を考慮。
-------
〈参考資料〉
▼社団法人 日本医師会
感染症危機管理対策室
▼社団法人 日本感染症学会
災害に関する感染症についてのご相談を受け付けます。(2011年3月25日)
災害と感染症対策:災害関連リンク
東日本大震災―地震・津波後に問題となる感染症―Version 2(PDF)
▼国立感染症研究所 感染症情報センター
東北地方太平洋沖地震関連
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『疫病(感染症・伝染病)を防ぐ。その3 』へ続く。
疫病(感染症・伝染病)を防ぐ。その2 vol.1 の続きです。
以下は感染症に関する詳細を記しています。
この内容を読むことで、勝手に治療等の行為をしないでください。
症状に覚えのある方は、必ず医療機関で診察を受け、医師の治療を受けてください。
避難所の方は医療従事者の方にご相談ください。
◆外傷後の創部感染
[原因病原体]
黄色ブドウ球菌、連鎖球菌、腸内細菌など
[注意点]
泥水などによる汚染がある場合には腸内細菌、ビブリオ、エロモナスなどによる
感染リスクが高まる。
◆破傷風
[原因病原体]
破傷風菌
[臨床的特徴]
潜伏期間:3~28日。
神経毒素による強直性痙攣が特徴。
開口障害、嚥下困難、痙笑などから始まり、呼吸困難や後弓反張に進展。
⇒後弓反張:後頚部の筋および背筋、上下肢筋の筋緊張または痙攣により頚部を強く背屈させ、
全身が後方弓形にそりかえる状態
全身が後方弓形にそりかえる状態
[注意点]
明らかな外傷がなくても発症することがある。
40歳以上はワクチン未接種であり、感受性が高いことに注意。
◆ガス壊疽
[原因病原体]
ガス壊疽菌
[臨床的特徴]
潜伏期間:8~20日、平均4日前後。
組織内の嫌疑状態で増殖し毒素を産生することにより発症。
皮下組織におけるガス産生、激痛、水疱形成が特徴で、筋肉壊死が急激に進行
する。高率にショックを合併。
[注意点]
ガス壊疽菌は酸素に弱いことから、過酸化水素水による消毒、高圧酸素療法
などが有効。
◆汚染水の誤嚥による肺炎
[原因病原体]
口腔内細菌、嫌気性菌に加え腸内細菌、緑膿菌、ビブリオ属など
⇒嫌気性菌:増殖に酸素を必要としない生物で多くは細菌。
⇒ビブリオ属:自然界では海水などの水中に多く存在する環境中の常在細菌であり、
コレラ菌や腸炎ビブリオなどの病原体もこのグループに含まれる。
⇒ビブリオ属:自然界では海水などの水中に多く存在する環境中の常在細菌であり、
コレラ菌や腸炎ビブリオなどの病原体もこのグループに含まれる。
[臨床的特徴]
吸引した菌の種類と菌量により潜伏期・症状は多彩。
腸内細菌や緑膿菌などの場合には、壊死性あるいは出血性肺炎を示す頻度
が高い。
[注意点]
混合感染頻度が高いことに注意。
4~7日後に発症するβラクタム剤耐性重症肺炎の場合にはレジオネラ肺炎
なども考えられる。
⇒βラクタム剤:抗生物質。
◆レジオネラ肺炎
[原因病原体]
レジオネラ
[臨床的特徴]
潜伏期間:4~10日。
レジオネラ菌で汚染された水の誤嚥・吸入により発症。
冷却塔・噴水・河川など自然界の水系・土壌に広く存在。
多発性陰影、強い低酸素血症、意識障害、肝酵素異常など。
高齢者に多く、無治療での死亡率は20%以上。
◆レプトスピラ症
[原因病原体]
レプトスピラ
[臨床的特徴]
潜伏期間:3~14日。
感染動物の尿による経皮感染、汚染された水の接種による経口感染。
発熱・頭痛など風邪様の症状からはじまり、肝障害・黄疸・結膜・充血・筋痛・
腎障害まで多彩な臨床症状を呈する。
[注意点]
げっ歯類(マウス・ラットなど)をはじめ、多くの動物がレプトスラピ菌を保有。
タイでは洪水のあとにレプトスピラ症が多発したとの報告あり。
◆ハンタウイルス症
[原因病原体]
ハンタウイルス
[臨床的特徴]
潜伏期間:1~5週間。
ネズミの糞尿や唾液中に排泄されたウイルスの吸入あるいは
経皮(咬傷)接種により感染。
発熱、頭痛、腹痛、嘔吐、筋肉痛等のインフルエンザ様症状ののち、
(1)腎症候性出血熱:腎障害(乏尿、蛋白尿、腎不全)・皮下出血、
あるいは
(2)ハンタウイルス肺症候群:咳・呼吸困難・ARDS・ショック、など多彩な
臨床症状を呈する。
ARDS⇒:急性呼吸窮迫症候群。重症状態の患者に突然起こる呼吸不全の一種。
[注意点]
地震、津波、避難所生活などにより、ネズミとの接触の危険性が高まるため
注意する必要がある。
◆発疹チフス
[原因病原体]
リッチケア
[臨床的特徴]
潜伏期間:1~2週間。
シラミ媒介のリッチケアが経皮的に感染することにより発症。
貧困・気がなどにともない流行。大正時代に7千人を超える患者が発生している。
発熱、頭痛、悪寒、脱力感、嘔気、嘔吐、手足の疼痛などにより突然発病。
高熱を示すことが多く(39~40度)、発疹は発熱後2~5日で体幹に出現、
第5~6病日で全身に拡がる。
[注意点]
シラミ対策の徹底が重要。ヒト―ヒトへの感染はなし。
◆ツツガムシ病
[原因病原体]
リッチケア
[臨床的特徴]
潜伏期間:1~2週間。
草むらなどに生息するダニの1種の“ツツガムシ”の幼虫が皮膚に吸着する
ことにより感染。
発熱、刺し口、発疹を3徴候とし、頭痛、倦怠感、リンパ節腫脹、肝機能障害
などがみられることが多い。
日本では4~6月、9~12月に発症することが多い。
[注意点]
刺し口が診断に重要、しかしこれがみられない症例もある。
◆インフルエンザ
[原因病原体]
インフルエンザウイルス
[臨床的特徴]
今現在において、避難所では A香港型(H3N2)の流行がみられている。
[注意点]
手洗い、咳エチケットの徹底が基本。
目などの粘膜を介した感染の可能性にも注意。
◆肺炎球菌性肺炎
[原因病原体]
肺炎球菌
[臨床的特徴]
典型的には“大葉性肺炎”、“鉄さび色の痰”が特徴。
敗血症、髄膜炎、関節炎など転移性病変の合併率が高い。
[注意点]
避難所では 老人~子供間 の飛沫感染が頻発する可能性あり。
◆マイコプラズマ症
[原因病原体]
マイコプラズマ
[臨床的特徴]
“頑固な咳”が特徴。
[注意点]
避難所内で飛沫感染により蔓延する可能性あり。
長引く咳を示す患者さんはマイコプラズマ、百日咳、結核の恐れあり。
◆百日咳
[原因病原体]
百日咳菌
[臨床的特徴]
潜伏期間:約1週間。
カタル期→痙咳期(咳発作期)→回復期。
1~2週間のカタル期(咳、痰、鼻水、微熱などのカゼ症状)ののち、
痙咳期(激しい発作性の咳)が1~6週間持続。
[注意点]
避難所内で飛沫感染により蔓延する可能性あり。
1歳未満では重症化傾向が強いことに注意。
手洗い・咳エチケットの徹底が原則。
※ワクチン接種者でも感染する可能性がある。
◆感染性下痢症・食中毒(細菌)
[原因病原体]
大腸菌、サルモネラ、カンピロバクター、黄色ブドウ球菌、ビブリオ属細菌、
ボツリヌス菌、セレウス菌、ウエルシュ菌など
[臨床的特徴]
◇注意しなければならない細菌性食中毒の特徴。
≪腸管出血性大腸菌≫
鮮血便、強い腹痛が特徴。
糞口感染で感染性が極めて高いことに注意(赤痢と同様)。 ≪赤痢≫
発熱、下痢、腹痛を伴うしぶり腹、膿や血便を伴う下痢便が特徴的。
日本での症例は“ソンネ菌(Shigella sonnei)”が原因であることが多く、
軽度蹴りや無症状で経過する症例もある。
この菌で汚染された食品を介した感染の他に、手指を介した二次感染
事例も多い。
赤痢は感染性が強いので、コップやペットボトルの共有は避ける。 ≪サルモネラ≫
原因食材としては鶏肉・卵が重要(卵内感染例あり)。 ≪カンピロバクター≫
原因食材としては鶏肉が重要。新鮮な肉(特に肝臓)に存在。 ≪ビブリオ属細菌≫
原因食材としては魚介類が重要。
肝硬変などの基礎疾患を有する宿主がある種のビブリオ属細菌で
汚染された食材を摂取することにより、急激に敗血症を発症。
この場合の死亡率は高い。 ≪黄色ブドウ球菌≫
耐熱性毒素による食中毒(熱をかけた食材でも発症)。
本金は傷の化膿創から高率に分離される。
避難所では“おにぎり”などの食材を介した感染に注意。
摂食から症状発現まで3~6時間。
水様下痢、発熱なし が特徴。 ≪ボツリヌス菌≫
“飯寿司(いずし)”など嫌気状態で保存される食材が原因となる。
ボツリヌス菌の産生する毒素による筋肉の弛緩性麻痺が特徴的。
めまい、頭痛、眼瞼下垂、複視、嚥下困難、呼吸菌麻痺など。
乳児では蜂蜜摂食による 乳児ボツリヌス症 に注意。
[注意点]
避難所内でのトイレ環境の維持、手洗いの徹底が基本。
◆感染性下痢症(ノロウイルス、ロタウイスル感染症)
[原因病原体]
ノロウイルス、ロタウイスル
[臨床的特徴]
潜伏期間:1~3日。
冬季に流行。嘔気、嘔吐、下痢、発熱。
ノロウイルスはもっとも頻度の他界食中毒原因病原体である。
原因食材としては カキなどの2枚貝類 が重要。
ロタウイルス感染症は小児重症胃腸炎の原因として重要。
症状は3~8日持続、水様・白色便が特徴的。
[注意点]
感染性が極めて強いことに注意。
糞便だけでなく、汚物を介した吸入感染の可能性もあり。
アルコール消毒は無効で、次亜塩素酸製剤による消毒が効果的。
◆ウイルス性肝炎
[原因病原体]
A型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルス
[臨床的特徴]
潜伏期間:2~6週間。
A型は飲食物(特に海産物)、E型は未加熱動物肉(鹿、猪など)の摂取により
感染。
発熱、倦怠感、食思不振(食欲不振)、嘔吐で発症。
典型例では 黄疸、肝腫大、濃色尿、肝酵素上昇を示す。
E型は妊婦で重症化傾向あり。
[注意点]
50歳以下はほとんどがA型抗体陰性。
冬から初春にかけての感染例が多いことからも、避難所内でのA型肝炎ウイルス
の糞口感染に注意する必要あり。
◆腸チフス・パラチフス
[原因病原体]
サルモネラ属菌
[臨床的特徴]
潜伏期間5~21日。
感染者の便・尿、汚染食品・水・手指を介して経口的に感染。
三徴:比較的除脈、バラ疹(体幹の淡い斑状丘疹)、脾腫。
⇒バラ疹:腹部や胸部にピンク色の斑点が現れる症状。
⇒脾腫:脾臓が腫大した状態。
⇒脾腫:脾臓が腫大した状態。
第1週に三徴出現、第2週は極期、第3週に腸出血・穿孔などの合併症を認める
ことが多い。
⇒穿孔:穴があくこと。
[注意点]
治癒後、数パーセントが慢性保菌者になることに注意。
◆皮膚接触感染症
[原因病原体]
黄色ブドウ球菌、A郡連鎖球菌など。
[臨床的特徴]
小児の“とびひ”の原因として重要。
接触感染により ヒト―ヒト伝播。
[注意点]
汚染水の関与が疑われる場合には腸内細菌やエアロモナス属、緑膿菌などの
細菌も考慮。
市中感染型MRSAの増加が報告されており、
この場合はペニシリン・セフェム系薬などのβラクタム剤は無効のことが多い。
⇒βラクタム剤:抗生物質
◆疥癬
[原因病原体]
ヒゼンダニ
[臨床的特徴]
疥癬虫が角質内に侵入、表皮角質層にトンネルを掘り棲息。
強いかゆみを特徴とし、腹部・腋窩(わきのした)・大腿部の虹色小丘疹、
外陰部の赤褐色の小結節、手指の小水疱が見られる。
ヒト―ヒトの密接な接触により感染伝播。
虫卵を含むフケ、リネン、医療器具などを介して感染が広がる。
[注意点]
下着、寝具などの感染対策(50℃、10分処理)。
ノルウェー疥癬はさらに感染性が強く、牡蠣殻状の厚い鱗屑を特徴とする。
◆結核
[原因病原体]
結核菌
[臨床的特徴]
持続する咳、微熱、食欲低下、体重減少などの非特異的症状。
2週間以上持続する咳がみられた場合には、結核、マイコプラズマ、
百日咳を疑う。特に高齢者では結核の見極めが重要。
感染力は極めて強い(空気感染)。
[注意点]
避難所内で生活する高齢者の結核に注意。
排菌陽性例が1例でもみられた場合には、避難施設内の老人・子供に感染が
伝播している可能性を考えて対応。
⇒排菌:保菌者が、病原体を体外に排出すること。
◆麻疹
[原因病原体]
麻疹ウイルス
[臨床的特徴]
潜伏期間10~21日。
発熱3日で一旦解熱しコプリック斑が出現。4日目から高熱(39℃以上)と発疹。
⇒コプリック斑:粟粒大の白斑。大小不規則な形をしていて、集合して存在する。
発熱2日前~痂皮化まで感染力あり。感染力は極めて強い(空気感染)。 ⇒痂皮:かさぶた。
[注意点]
避難所内での感染制御は困難であり、感染者の早期発見と移送・隔離が重要。
◆水痘・帯状疱疹
[原因病原体]
水痘・帯状疱疹ウイルス
[臨床的特徴]
潜伏期間:10~21日。
発感染が水疱(丘疹、水疱、膿疱、痂皮の混在)。
⇒痂皮:かさぶた。 ⇒膿疱:発疹の一種で、膿が貯まって皮膚や口粘膜が盛り上がった状態。
発熱2前~水疱の痂皮化まで感染力あり。
呼吸器症状がある場合には飛沫・空気感染。
帯状疱疹患者では水疱内液を介した接触感染も伝播も重要。
治癒した後もウイルスは神経節ないに潜伏。
高齢など免疫能の低下にともって再燃(帯状疱疹)。
免疫能⇒:身体の抵抗力。
[注意点]
避難所においては、高齢者の帯状疱疹が接触感染で免疫のない小児に感染
する可能性あり。
ワクチン接種歴の確認と未接種児に対するワクチン接種を考慮。
-------
〈参考資料〉
▼社団法人 日本医師会
感染症危機管理対策室
▼社団法人 日本感染症学会
災害に関する感染症についてのご相談を受け付けます。(2011年3月25日)
災害と感染症対策:災害関連リンク
東日本大震災―地震・津波後に問題となる感染症―Version 2(PDF)
▼国立感染症研究所 感染症情報センター
東北地方太平洋沖地震関連
-------
※この記事では、難しい箇所を平易な表現に換えたり、
医学的で分かり辛い部分を省略している箇所があります。
個人で収集したデータをまとめたため、内容に間違いのある可能性があります。
間違いを見つけられた場合にはメッセージよりご連絡ください。早急に訂正致します。
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『疫病(感染症・伝染病)を防ぐ。その3 』へ続く。