その他の港は不要か、フィーダー船専用となることになるが、港湾の廃止を断行しようとすれば、血を見ることになるのは必死だろう。
1070の港湾事業は完全な既得権益のようになっていて、閑古鳥が鳴いている港の修理など土木事業に頼って生活している業者が山のようにいる。


(大前研一「大前流 心理経済学 貯めるな使え!」p275より)

既得権益という言葉があります。
「既得権益=悪」というイメージが定着しています。
イメージが定着というよりも「既得権益→悪」と脳が瞬時に反応しているようにも見えます。
しかしこのような単純な瞬間的な反応はあまり意味がないように見えます。
年金問題にて旧社会保険庁=悪と見なして組織の解体を行っても何も解決していないのも同じ構造だと思います。
ですから今回は既得権益についてもっと考えてみたいと思います。

既得権益と言うとすぐにイメージ(正確には「脳が瞬間的に反応」)するのは公務員や土木業者でしょうか。
「公務員は税金で食っているくせに」「土木業者は税金によるムダな事業で食わせてもらっている」と。
ストーリーとして分かりやすいので公務員や土木業者が既得権益のやり玉に挙げられますが、実際は既得権益というはもっとたくさんあると思います。
むしろないという方がよほど珍しいのではないかと思います。
既得権益を非難しているTV局の方がよほど免許制の既得権益です。
税金に依存している多くの事を非難しているくせに選挙の時放送されるTVCMは拒否しません。
日本共産党を除けばスポンサー料の元は政党助成金(当然税金)である可能性が高いにも関わらずです。
「税金の無駄遣いを非難している立場上政党のCMは流しません」なんて言う姿勢のかけらもありませんが、あまり国民の多くは不思議に思わないようです。

そもそも「既得権益」とは何なのでしょうか?
私としてはこのように定義したいと思います。

既得権益=高度経済成長期に作りだした「みんなでうまく幸せになろうよ」制度

高度経済成長時期には財源にも余裕がありましたし、人々も「明日は今よりも裕福になっている」事を当たり前に思っていました。
このような状況下では「あれも不備だ」「これも不備だ」と言えば財源も手当てできたし、「これをよこせ」「あれもよこせ」と言えば政府や自治体がそれなりにやってくれた、お金をくれた。
やはり分かりやすいのは建設業だったのかもしれません。
いろいろな事情で日雇い労働者をやっている方々もいらっしゃいますが、中には「1週間仕事があるよ」と言われても「1週間拘束されるのは嫌だ。気ままに酒を飲んで調子が良かったら翌朝仕事を探したい」なんて言う(一般人の多くから見ればふざけた)人たちにまで公共事業などで仕事を回していた時代もあった訳です。
これはまた聞きで確かな状況ではないのですが、バブルの頃は公共事業を発注する際日雇い労働者の賃金が安すぎると公共事業を行う地方自治体から建設業者へ指導があったとか。
まさに「みんなでうまく幸せになろうよ」の世界です。
失業対策や一種の福祉政策の名にて彼らを助けていた訳です。(行政側は口には出しませんが「防犯対策」と考えていたふしもあります)

他にも色々な職域団体が「自分たちにも果実を!」を主張することで多くの果実を手にすることができました。
かなりの確率で「みんなで幸せになろうよ」精神が達成できた訳です。
このように言うと「自分は既得権益なんか関係ない」という人もいらっしゃるでしょう。
確かにいらっしゃるとは思いますがかなり少数だと思います。
自分が属する組織、自分の家族が属する組織の仕事を精査していけば既得権益によって(原資は税金であるものを回してもらうことで)利益を上げているなんて言うのはかなりあるのではないでしょうか?
先ほど例に挙げた政党のTVCMのように。

ここからしばらくあまり賛同が得られないことを書いていきたいと思います。
私の意見はネット上(twitter上)で評判が悪いもので(爆
ほとんど賛同を得られないことを承知の上で書いていきます。

私が考える最大の既得権益の1つは「年金」だと思います。
このように言うと年金受給者の方は怒るでしょう。
しかし、32歳の私から見れば「年金」こそが既得権益の典型です。
年金の精神はまさに「みんなでうまく幸せになろうよ」の制度です。
「私は保険料をちゃんと納めてきた」という反論が聞こえ来そうです。
冗談じゃない。
どれだけ国の税金が投入されているか。
平気寿命まで生きていれば払った保険料以上のモノが返ってきます。
払った保険料以上のものの部分はまさに税金です。
年金に不満があるようですが、年金制度こそは高度経済成長期に福祉の名(「老人=弱者」の理論)のもとにどんどん拡充してきました。
そして問題なのは、今の制度のままなら年長者であればあるほど年金がたくさんもらえて、若者であるほど年金がもらえないと言う試算があることです。
計算の精度がどれほど正しいのかどうかは分かりませんが、この結論は大まかに言えば間違っていないでしょう。
下手すりゃ若い人たちは自分の払った分の回収もままならない。
ひどい話です。

実は年金に限らず「この国における最大の既得権益集団は年長者たち」だと私は思っています。
32歳の人間としてはいくら反論を受けようがはっきり言っておきます。
よくよく考えれば当たり前で既得権益が高度経済成長期に生み出した「みんなでうまく幸せになろうよ」制度なのですから、年長者達の方が高度経済成長期におけるこの制度の果実を受ける機会がたくさんあった訳ですね。
バブル崩壊後に果実がどんどん減っていったので若い人ほど既得権益はないことになります。
しかしながら惰性にて今までの既得権益は解体されずに残っています。
よって既得権益の有無(多い少ない)を見る場合は職種で見るよりも世代で見た方が断然分かりやすいと思っています。
公務員だ、建設業だ、なんて見るよりも「お前はどの世代なんだ」で見た方がより正確だと思います。(もちろん完ぺきではありませんが、職種で分ける方がよほど乱暴だと私は思います)

現状の分析はここまでにしておきます。
あまり賛同を得られない話を延々とするのもはばかれますので(苦笑
問題はここからで、これからの社会はどうなるのかということです。
私としては「みんなでうまく幸せになる」社会を維持するのは無理だと思います。
もはや壊れかけているのかもしれません(例・・・リストラを評価する風潮など)がこれからはどんどんぶっ壊れていくのでしょう。
言いかえれば「誰かに涙を飲んでもらう」社会に今まで以上になっていくと言うことです。
というのももはやこの国には余力がないからです。
一番分かりやすいのは財政でしょうが、財政を含めてこの国にはもはや余力がない。
リーマンショックの後処理にて日本はバブルまで貯め込んだあらゆる遺産を使い果たしたと思っていましたが、今度は東日本大震災です。
簡単に言えば「政府とてない袖は振れない」訳です。
いくら「果実をくれ!」と言っても果実をあげようがないし、もっと言えば今まである果実を没収せざるを得ない訳です。
優先順位をつけざるを得ない。
今風の難しい言い回しをすれば「プライオリティ」なんて言うのでしょう。
優先から漏れた者には涙を飲んでもらう。
涙を飲んでもらうものが誰なのかは分かりません。
今は一時的な復興需要がありますが、将来的には建設業者には泣いてもらうのかもしれません。
それは日雇い労働者かもしれませんし、生活保護者かもしれないし、私のような難病患者かもしれません。
そして安定の権化のように言われている公務員かもしれません。
というか私個人としては泣くことになるのは公務員である可能性が高いと思っています。(この意見もtwitter上で評判が非常に悪い(笑 )
政府としても自治体も「ない袖は振れない」訳ですから。
今まではアホみたいに国債や地方自治体の債券を国民たち(というか銀行など)が買っていたけど、これからも買うんですかね?
国債や自治体の債券が見向きもされなくなったら財源はなくなるし、見向きもされなくなると困るから財政再建をするので財政支出はできないと。
「ない袖なのにお金が出てくる」という摩訶不思議な魔法はもうじき解けて、「ない袖は振れない」という当たり前の状態になる日は近いと思います。

公務員だろうが、別の者であろうが(実際は公務員の多数+国民の多数であろうと予測してますが)涙を飲むものたちが悪い訳ではありません。
しかしながらも誰かには(しかも結構な数の国民には)涙を飲んでもらわないといけない。
明治時代に士族に一時金を与えて特権をはく奪しました。
別に士族が悪いことをした訳ではありません。
一般の士族には明治維新に貢献した者も多かったでしょう。
しかしながら世の中の状況として必要なので士族には涙を飲んでもらった訳ですね。
多くの武士が商売を始めても不慣れで失敗し困窮して「士族の商法」と呼ばれてしまいました。
これから多くの人たちが21世紀版「士族の商法」状態になる可能性があるのではないかと思います。
「みんなでうまくやって幸せになる」事はできない訳です。

年金に話を戻せば、これからは受給年齢の引き上げや受給額の引き下げが本格化するでしょう。
簡単に言えば年金の支給額全体を減らす訳です。
政府とてない袖は振れない訳ですから当然です。
年金受給者(将来の受給者も含みますが)たちみんなの幸せを確保できない訳です、少なくとも今のレベルは。
結局政府の言いたいことは「みんなの幸せを確保できないから独立独歩でやってくれ」ということなのだと思います。
政府が言っている「生涯現役社会」なんて「自分でナントカ責任持ってやってくれ」というのが本音だと思います。
「自分でナントカ責任もってやってくれ」なんていう率直なギブアップ宣言を政府はできないから「生涯現役」なんて言うポジティブなワードを使っちゃっている。
正直自分の生活を政府に頼らずやっていけるのなら「生涯現役」ではなくても「親の遺産」だろうが「FXでぼろ儲けしたあぶく銭」だろうが何だっていいと政府は思っているのではないかと想像しています。

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