七夕企画『くもり のち 雨。……のち きっと晴れ。』 | 安寿の妄想工房

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貴女の妄想請負人(志願)・須藤安寿のブログです。
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(前置き)
 ゑろしーんがないからきっとこっちでもダイジョブだろう。
……ということで、久々にこっちのブログに短編を投下してみる。

竹の子書房の七夕企画に寄せた短編です。
ネタ的にはちょっと気が早い感じですが、
〆切の関係です(^^;。

*注
原稿は切り取り線の下からです。

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 雨は降っていないけど、晴れてるってわけでもない。出掛けに見た天気予報では「夕方から雨になりそうだ」とも言っていた。
 俺もそのはっきりしない天気と同じように、ぐずぐずと気持ちを決めきれないままだった。ようやくバス停にたどり着いたとき、乗るつもりだったバスはもう発車してしまっていて、駅前ターミナルの出口にある交差点を左折していくところだった。
 次のバスまで、十二分。
 その時間を待ちながら、俺はまた逃げ出したくなっていた。
 もしかしたら去年と同じように、あいつからメールが来るかもしれない。そんな気が、したから。
 ケータイを握りしめる手が、少し汗ばんでいる。
『久しぶり。元気にしてる?』
 あいつから来たメールは、たったそれだけの、短い文面だった。
 きっとあいつは今の俺と同じように、迷いながら、逃げたいと思いながら、そのメールを打ったんだろう。言いたいことは、本当はもっとたくさんあったに違いない。
 朝からどしゃ降りだった去年の七夕。
 たたきつける雨のしずくが、涙みたいに流れていく窓の向こうを眺めて、俺に送るメールの言葉を選んでいたあいつの姿が目に浮かぶ。
 おととしの七夕は、あいつと一緒で、海辺の街の七夕まつりを一緒に見に行った。
 あのときの天気は、今日と似ていた。そう……おととしも、あいつの見たがっていた天の川は雲に隠されて見えないままだった。
「ね……好きって言ったら、怒る?」
 帰り道、がたん、がたん……とレールの継ぎ目を数える電車の音にまぎれて、今にも泣き出しそうだったあいつの声。
 俺は答えられなかった。
 怒っていたからじゃない。あいつがキライだったからでも……ない。
 そんなのおかしいじゃないか。たぶん、そう思ってしまったからだ。
 普通ならそんな告白、女の子にするもんだろう。
 そんな告白を男にされて、どきどきするなんて……おかしいじゃないか。
 でもそれを口にすることも、俺にはできなかった。
 むっつりと押し黙った俺の顔を盗み見るように見上げて、あいつの体が小さく震えた。そしてその震えが、隣りあって座っていた俺とあいつのあいだに小さな隙間を作る。
 混雑する電車の中。
 それまで意識しないままに触れあっていたあいつの体温が失われたことに、俺は自分でも驚くほどに落ち込んで、ますます何を言えばいいのかわからなくなっていた。
 それっきり、俺とあいつは一言も言葉を交わさず、触れあうこともないままだった。卒業して、別々の進路を選んで……出会うこともなくなってしまっている。
 手遅れになりませんように。
 逃げ出さずにいられますように。
 バスを待ちながら、俺はずっと、おまじないの言葉みたいにその願いを繰り返していた。
 雨が降りだす前に、あいつに会えますように。
 ちゃんとごめんって言えますように。メールをありがとう……っていう礼の言葉も忘れませんように。
 また何も言えずに黙り混んじゃうかもしれないけど、それでも逃げずにいられますように。
 あいつが俺を、ゆるしてくれますように。ガキだった俺を。そしてまだ、オトナになりきれずにいる俺を。もしかしたら、またあいつを傷つけてしまうかもしれない俺を……。
 こんな願いごと、きっと短冊には書ききれない。
 メールでも……たぶん足りない。
 だから、ちゃんとあいつに会えますように。
 そしておととしの七夕の夜から、もう一度やり直すことができますように。
 きっとあいつの気持ちに答えるから……。
 俺たちが互いに見失った二年分の記憶を、これからきっと取りもどすから。言葉にできなかったとしても、それでもきっと……おまえが好きだと告げるから。
 だから……。
 今年こそ、晴れますように。
 あいつと一緒に天の川が見られますように。

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