今夏の電力需給を分析する 1 | 西陣に住んでます

今夏の電力需給を分析する 1

西陣に住んでます-六本木ヒルズ



これまで3回にわたって、

東日本大震災後の東京電力電力需給について

私の考えをアップしてきました。


3月19日 [東京電力の計画停電を考える]

3月20日 [今こそサマータイム導入を!]

3月27日 [東京電力の計画停電を考える-2]


これらの記事の続編として、今回の記事から3回にわたって、
今夏の東京電力サービスエリア内の電力需給について定量的に分析し、

各種節電策の効果を具体的に試算してみたいと思います。


まずこの記事では、電力需給に関わる社会の動向について整理した上で
予想される電力不足について分析します。



1電力需給に関わる社会の動向


電力不足を解消するにあたっては、


(1)電力の供給を上げる
(2)電力の需要を下げる


の2つ以外方法はありません。


ここで、大震災発生後の電力供給と電力需要に関わる社会の動向について
それぞれ分けて整理します。



右矢印電力供給


平成23年3月11日の東日本大震災の発生後、
東京電力ではHPの[プレスリリース] などを通して
電力需給に関するアナウンスを行ってきました。

その重要なものを整理すると次の通りです。


3月12日[需給逼迫による停電の可能性と一層の節電のお願いについて]
計画停電の可能性があることについてはじめて発表がありました。


3月13日[需給逼迫による計画停電の実施と一層の節電のお願いについて]
3月14日(月)に計画停電を予定していることについて発表がありました。
事実、3月14日から計画停電が行われました。


3月22日[電力の使用状況グラフの掲載開始について]
東京電力HP上で[電力の使用状況グラフ] が確認できるようになりました。


3月25日[今夏の需給見通しと対策について]
今年の夏の需給見通しの第1報です。
今夏の供給力として、4,650万kW程度を見込んでいること、
今夏の最大電力として、地震の影響や節電の効果を見込み
記録的猛暑だった昨年に比べて約500万kW低い
5,500万kW程度(発電端1日最大)と想定していることを発表しました
(平日平均の最大電力を4,800万kW程度と想定)。
具体的な追加供給力は次の通りです。
(1) 震災による停止からの復旧【760万kW】鹿島火力、常陸那珂火力他
(2) 長期計画停止火力の運転再開【90万kW】横須賀火力
(3) 定期点検からの復帰【370万kW】品川火力、横浜火力など
(4) ガスタービン等の設置【40万kW】
(5) その他【▲260万kW】既設火力の夏期出力減少分など


4月8日[計画停電の原則不実施と今夏に向けた需給対策について]
震災による企業活動の停滞と節電努力によって
各日の最大電力が前年比約-20%で推移していること、
今後、計画停電については、「原則実施しない」ことを発表しました。


4月15日[今夏の需給見通しと対策について(第2報)]

今年の夏の需給見通しの第2報です。
ガスタービンの新設などに見通しがついたことから、今夏の供給力を、
5,070万kW~5,200万kW程度(発電端1日最大)へ上方修正しました。

7月末 需要:5500万kW 供給:5200万kW 予備力:300万kW
8月末 需要:5500万kW 供給:5070万kW 予備力:430万kW

具体的な追加供給力は次の通りです。
(1) ガスタービン等の設置【7月+20万kW、8月+80万kW】

(2) 震災停止・定期点検からの復帰【110万kW】鹿島、常磐
(3) その他【▲20万kW(7月)、▲170万kW(8月)】柏崎刈羽点検停止
(4) 揚水発電の活用【400万kW】

また、引き続き各日の最大電力が

前年比約-20%で推移していることを発表しました。



右矢印電力需要

2011年3月14日
石原都知事が蓮舫節電大臣にネオンとコンビニの深夜営業の制限を要請しました。一方、蓮舫大臣は石原都知事に東京電力エネルギー消費の3割を占める東京都の節電の徹底を要請しました。


2011年3月15日
蓮舫大臣がコンビニの深夜営業に加えて屋外広告やパチンコ店の制限について「政令で規制するのが本当に適切なのか。」と発言しました。


2011年3月18日
石原都知事が海江田経産大臣にネオンの禁止とコンビニの深夜営業の中止を要請しました。


2011年3月19日
蓮舫大臣が「東電管区内でのナイター開催に私は慎重意見」と発言しました。


2011年3月22日
蓮舫大臣が夏の電力需要が増えることに対して「ライフサイクルのあり方、あるいはサマータイム、あるいはフレックスタイム、それに対して誘導していくための例えば税制とかあるいは電気料金とか、どういう組み合わせが考えられるのかを抜本的に見直していくきっかけにもしていきたいと考えています」と発言しました。


2011年3月23日
政府が電力消費量が多い工場などを対象に事業者ごとに電力使用量の上限を設定する「電力総量規制」導入の検討に入りました。


2011年4月1日
蓮舫大臣がコンビニの深夜営業について「夜間の電力は現段階では相当余っている。コンビニや自動販売機の夜間の照明は、治安的にも意味がある」と発言しました。


2011年4月8日
政府の電力需給緊急対策本部が「夏期の電力需給対策の骨格」を発表し、大企業、中小企業、一般家庭が今夏の使用最大電力を、それぞれ15~20%程度削減する節電目標を設定しました。


2011年4月10日
石原都知事がパチンコと自動販売機の電力使用を批判しました。


2011年4月11日
日本経済団体連合会が「電力対策自主行動計画」を発表し、その策定作業を開始しました。参加者数は4月20日現在で製造業281社、その他262社、計543社です。


2011年4月11日
蓮舫大臣が石原都知事の自動販売機批判に反論しました。


2011年4月19日
上田清司埼玉県知事が夏の電力消費ピークに備え、節電に協力した家庭への金券などのプレゼントや、電力逼迫時の緊急警報案を提案しました。


2011年4月26日
枝野幸男官房長官は「使用制限は検討の途中」「節電に対するそれぞれの地方自治体や企業の自主的な協力はありがたい取り組みだと思っている」と発言し、サマータイムの導入については「ピークがずれるだけにとどまる可能性がある。相当なコストがかかる。個別の企業や業種で影響の少ないやり方を判断いただく方が現実的で効果的だ」と発言しました。


2011年4月26日
東京、神奈川、埼玉、千葉の4都県知事が、サマータイム制度の導入やパチンコ店の営業時間の変更、自動販売機の時間規制など9項目の節電策を政府に提案しました。石原都知事によれば、「全部やれば良いんだ、全部やれば。できるんだから、政府の責任で」「何の具体性もないことで20何%削減といっても、そんなものは通らない」と発言しました。


2011年4月28日
関西広域連合で産業政策を担当する大阪府と環境分野を受け持つ滋賀県が新エネルギーの共同研究に着手する方針を決め、サマータイムの導入も広域連合として検討していくことも申し合わせました。


2011年4月28日
海江田万里経済産業相は今夏の節電目標を企業も家庭も一律15%程度にすると発表しました。


この間、森永乳業、東京証券取引所、ユニ・チャーム、ソニー、パナソニック、三菱ふそう、日産、イオングループ、コナミ、伊藤園、日本製紙、ブリヂストン、東京農工大の各種企業、団体が、すでに始業時間を早くするサマータイムを実施、予定、あるいは検討することを発表しました。また、ソニーは、夏休みも2週間程度に増やす方針を示しています。



以上の動向から判断すると、現在のところ日本政府は、
電力供給面についてはまったくの無策

東京電力の供給力増加を黙って期待しているだけ
電力需要面については、具体的案を示さない

節電目標を掲げて企業や国民の自主的な努力を期待しているだけ

と残念ながら言えそうです。


もちろん政府が具体的案を示さないことは
企業が自由に活動できる環境を提供していると言えなくもありませんが、
官僚組織という最高のシンクタンクデータをもっている機関としては、
いくつかの節電施策に対する効果を試算して

その結果を国民に提示するくらいのことはしていただきたく思います。


また、一般国民や個々の企業の動きはあくまでも自主努力であり、
その自主努力に期待することを前提とするのであれば、
自主努力の効果がトータルとして電力需要に対して
どのくらいインパクトを与えるのかを分析し、
電力需給ギャップを埋めて所要の予備力を確保することができるのかを
早期の段階で確認し、必要とあれば施策を出すというフローチャート、
つまり電力需給確保までのアクションプランと具体的スケジュール
国民に明らかにすることが最も重要だと思います。


特に節電大臣にいたっては、系統的な施策を出さないばかりか、
他者が提案する施策に対してただただ反論しているのが現状で
本来、節電を啓発すべき大臣の仕事とは

実質的に逆方向に動いているというおかしな状況になっています。
反論によって、節電を行う上でのスタンスについては示していますが、
だったらどうすればよいのか?については全く示してくれません。
今の大臣は、国民からしてみたら完全に評論家と化しています。


なお、大臣は、企業ごとに一定の始業時間を設定して分散させることを
「フレックス制」と呼んでいますが[→youtube]
これは大きな誤解を生むことになるかと思います。
「フレックス制 (flextime)」というのは、一定の時間の範囲内で
従業員(employee)が「フレクシブル(柔軟)に」労働時間を選択することを
雇用者(employer)が認めるという制度であって、
この場合、オフィスでの照明や冷房などの電力使用時間が増えるため、
供給計画に不利となるランダムな分散効果を生むと同時に
明らかに電力需要の低減に悪影響を与えると考えられます。


2予想される電力不足


先に示したように、東京電力では
今夏の最大電力として、地震の影響や節電の効果を見込み
記録的猛暑だった昨年に比べて約500万kW低い
5,500万kW程度(発電端1日最大)と想定していることを発表しました。
まずは、この値が妥当な値であるかを考えてみたいと思います。


[気象庁発表:東日本の夏の気温予測] によれば、

関東甲信越の気温が平年より高くなる確率は50%、
平年並みとなる確率が30%、平年より低くなる確率が20%ということで
現時点で今年の夏は気温が高くなる可能性が高いと言えます。


下の表は、過去15年にわたって、最大電力を記録した日の

東京(管内最大の需要地)の気温を示したものです。


西陣に住んでます-ピーク発生時の気温と電力消費量


ちなみに、いずれの年についても、最大電力を記録した日は
東京で最高または最高に近い気温を記録した日となっています。


この表をもとに気温と最大電力の相関関係を調べてみると、
気温が高いと最大電力も大きくなるという関係が得られ、
中でも日最高気温と最大電力との関係の相関性が高い

という下図のような結果が得られました。


西陣に住んでます-ピーク発生時の気温と電力消費量


(日最高気温をTとすると、回帰式は91.083*T+2768.2[万kW]となります。)

上の図を見て気になることは、記録的猛暑だった昨年において
東京の気温はけっして最高に高い値ではなかったということです。
このことは、たとえ昨年のような猛暑でなくても
東京の気温が昨年を上回ることは十分に考えられることで、
この場合、昨年以上の最大電力となることもあり得ることを示します。


つまり、東京電力が「記録的猛暑だった昨年に比べて」と表現するのは
必ずしも適切ではないということです。

ちなみに、過去15年の日最高気温の平均値である35.2℃から予測される
最大電力量は、91.083*35.2+2768.2=5974[万kW]です
また、日最高気温の標準偏差である1.955℃を用いて
下側95%確率(95%の確率でその値を下回る)を求めると、なんと
91.083*(35.2+1.955*1.645)+2768.2=6267[万kW]にもなってしまいます。


ただし、現在の最大電力量が昨年同時期の値に対して
コンスタントに大きく下回っていることもまた事実です。
東京電力によれば、各日の最大電力が前年比約-20%で推移している
ということなので現在800万kW程度の節電が行われていることになります。

この傾向が夏まで続くのであれば、
最大電力を5,500万kWと想定することはやや楽観的であるものの
それほど遠い値ではないと言えます。
予断をもつことは許されませんが、
当面のターゲットとしては妥当な値かもしれません。



ここで、後に各節電策の効果を試算するために
需要の最大電力を5,500万kWと仮定して、
夏のピーク時の電力需給をシミュレートしてみたいと思います。


夏のピーク時の電力需要曲線(日負荷曲線)としては、
電気事業連合会が公開している[下図] があります。


西陣に住んでます-電力需要曲線


これらの曲線は10電力会社の合成値で、
東京電力で過去最大の最大電力である6,430万kWを記録した

2001年7月24日の曲線も含まれています。
まずこの2001年7月21日の曲線の値を正確に読み取り、
最大値が6,430万kWとなるように比例係数をかけて
下図のような東京電力の電力需要曲線を描きます。


西陣に住んでます-電力供給2011/7/21


10電力会社の電力需要曲線と東京電力の電力需要曲線の形状は
完全には一致しないと考えられますが、概ね類似していると考えられ、
他にピーク時のデータがないことから、このように仮定することにします。


次に、ベースロード(石炭火力、原子力、流れ込み水力)、
ミドルロード(石油火力、LPG/LNG火力)、
ピークロード(揚水式水力、貯水池・調整池式水力)
の電源を色分けしてこの曲線に割り当てます。
電源を割り当てるにあたっては、
[平成22年度数表で見る東京電力] を参考にしました。


西陣に住んでます-電力需給2001/7/21

なお、


・電力需要は夜間に少なく昼間に多い
・大量の電力は直接貯めておくことができない
・揚水発電によってピーク電源をまかなっている

といった基本的な電力需給システムについては、
[東京電力の計画停電を考える] で詳しく紹介しましたので
そちらをご参照いただきたく思います。


ここで、今夏に利用できない福島第一・第二原発の全機と
柏崎刈羽原発の点検分の計1500万kWをマイナスするとともに
東京電力が新たに獲得した電源を火力にプラスします。
また同時に2001年7月24日の電力需給曲線に

比例係数(=5500/6430)をかけて
最大電力5500万kWとなる電力需要曲線をシミュレートします。


西陣に住んでます-電力需給2011夏


この電力需要曲線と供給力の差(図の黄色い部分)が

電力の不足分となりますが、ミドルロードの火力については、
実際には、出力調整によって不足分をカヴァーできるので
最終的に得られる電力需給は次の図のようになります。


西陣に住んでます-電力需給2011夏


この図の電力需要曲線と供給力の差(黄色部分)が

最終的な電力の不足分です。

需要を下げるか、供給を上げるかによって、このギャップを埋めることが

絶対的に必要となります。

しかも運用面を考えると、ギャップを埋めるだけでなく、

需要曲線をある程度上回る分の予備力をもつことも重要です。


ところで、約300万kWのこのギャップ、非常に少ないように見えますが、
実際に試算をしてみると、

これを埋めることがかなり難しいことがわかります。


この試算については、[今夏の電力需給を分析する 3]
しっかりと示したいと思います。


そして、その試算を行うために必要な


・気温と電力需要の関係
・平日と休日の電力需要の差
・一日のTV視聴率


などのファクターについては、
次の[今夏の電力需給を分析する 2] で分析したいと思います。



関連記事


[東京電力の計画停電を考える]

[今こそサマータイム導入を!]

[東京電力の計画停電を考える-2]

[今夏の電力需給を分析する 1]

[今夏の電力需給を分析する 2]

[今夏の電力需給を分析する 3]