日本のジャスミン革命5─普通の感覚 | イージー・ゴーイング 山川健一

日本のジャスミン革命5─普通の感覚

 3.11以来、普通の感覚で考えるとおかしいと思うことばかりが、平気でまかり通っている。旧い友人に会うと、「こいつ、壊れかけてるな」と思わされることもある。原発事故の後を生きるわれわれにとって、いろいろな意味で「普通の感覚」をキープすることがいかに大切か、ということをこの頃ぼくはよく考える。
 いちばん問題なのは、電力会社→官僚組織→政府(政治家)、とつづく金銭的なヒエラルキーを維持したい勢力が、今も厳然と権力を握っているということだろう。彼らは原発利権を温存し、「国家のために」という大義名分のもと、今の腐りきった体制を維持しようと必死なのである。
 彼らパワーマン達は東北新幹線と東北自動車道を封鎖させないために、福島、郡山を含む広範な地域を計画的避難区域に指定せずに放置しているのだろう。飯館村は「計画的避難区域」に指定されたが、菅野村長は5項目の実現を政府に要請していると発言した。

(1)政府による避難に関する費用の負担 (2)約2000頭にのぼる牛の取り扱いの明確化 (3)農作物の作付けをしないことへの補償 (4)国家プロジェクトでの土壌改良 (5)村への定期的な出入りの保障

 菅野村長の要請はどれも当然なものだが、これも「計画的避難区域」の指定があればこその話で、いわゆる「自主避難」を選択せざるを得ない広範な地域の人々は、何の補償もないのである。将来的にお金を払いたくない──東電にも払わせたくないから、広大な地域と多くの人々が見殺しにされている。
 「計画的避難区域」とは、福島第一原発から半径20キロ圏内の「警戒区域」以遠で、年間累積放射線量が20ミリシーベルトを超える恐れのある区域のことだ。
 放射性物質を含む汚泥肥料や瓦礫が、全国に流通させられている。ぼくも反対の署名をしたが、これだってどう考えてもおかしい。放射性物質を含んだ汚泥を肥料に加工して流通させるなど愚行そのもので、誰が考えたっておかしいことががまかり通っているのだ。現実にこうしたことが次々に起こり、半ば唖然とさせられる。責任の所在を意図的に曖昧にし、汚染物質と癌との因果関係を証明できないようにするための行政だと言うほかない。
 パワーマン達は、多くの国民を見殺しにしてでも、今の腐りきった体制を維持しようとしているのだ。歴史上、今の日本ほど愚かで犯罪的な国家が存在しただろうか?

 食品の放射線規制値の大幅な緩和が強引に実施され、検査の不徹底と産地偽装が横行し、日本の食の安全は音を立てて崩壊しつつある。汚染された食品の全国への拡散は、ぼくらが予想していたよりもずっと速いスピードで進行している。
 さらにこうした食品が学校給食にまで使用されている。金と利権のために子供達の未来を奪う権利が、誰にあると言うのか。これが、今のこの国の現実なのである。
 汚染された腐葉土が各地に流通しているという報告もあり、これでは産地で農作物の安全性を判断することができなくなってしまう。さらに、最後の自衛手段として自家菜園で野菜を栽培するという選択肢すら失われてしまう。
 このままでは日本国民のすべてが内部被曝から逃れられなくなってしまう。パワーマン達よ、あなた方は本気でわれわれに国を棄てさせようとでもしているのか?

 セシウム汚染した牛はすでに1万頭以上が出荷されているが追跡調査が追いつかないとのことだ。そのうち検査をしたのは1%以下の僅か65頭ほど。99%以上の牛肉は、セシウムにどれくらい汚染されているのか、何も分からないまま市場に流通してしている──恐るべき事実だ。
 福島県だけでなく宮城県北部や岩手県南部の稲ワラからも規準値を超える放射性セシウムが検出されたという報告があり、東電はその後(7月20日)初めて「宮城県北部や岩手県南部にまで放射性セシウムが到達していた」という調査結果を公表した。
 こういう誠意のない企業が原発のように危険なものを扱っているのかと思うと、腹が立つのを通り越して恐怖感を覚える。東電の責任あるポジションにいる人々に、人間の血は通っているのか?
 筒井農水副大臣は「セシウムが暫定基準値を超えた牛肉は国が買い取ることを検討している」と述べた。つまり、500ベクレル以上の汚染牛肉は国民の税金で買い取るということだ。ちょっと待ってほしい。これは東電に買い取らせるべきではないのだろうか。
 われわれは500ベクレル以下の汚染牛肉を食べ、500ベクレル以上の汚染牛肉まで買い取らなければならないのだ。そんな馬鹿な話があっていいのか。
 今の日本は放射能汚染された食材の拡散を止めるどころか、わずか数日のうちに全国に流通させ、小学校の給食にまで使ってるいるのだ。ぼくは、これだってパワーマン達が金と利権のためにわざとやっているのだとしか思えない。

 運転停止中の九州電力玄海原子力発電所(佐賀県玄海町)2、3号機の再稼働を巡って、経済産業省が6月に県民向けの説明会を開いた際に起きた、九電やらせメールというのがあった。これも「普通の感覚」で言えばひどいものである。
 九電本社原子力発電本部の課長級の男性社員達が、玄海原子力発電所再稼働に向けた佐賀県民向け説明会で、市民装い原発再稼働支持を表明する「賛成メール」を捏造していたのだ。ぬけぬけと文案まで作成されていた。 部長級の上司からの指示であった。
 これまで長い間、原発に有利な事実を捏造してきた電力会社の企業体質が出たのだとしか思えない。
 日経新聞が九州電力「やらせメール」依頼の全文を掲載しているが、これはまったく厚顔無恥としか言いようのないものだ。→http://s.nikkei.com/o85YLW 

 その後、玄海町の岸本英雄町長は原発再開容認の撤回を九電社長に電話で伝えている。この岸本町長は、玄海原子力発電所の2、3号機の運転再開問題で、東日本大震災後、立地自治体の首長としては初めて停止中の原発の運転再開を認める意向を表明していたのである。
 ところがこの町長をめぐり、西日本新聞が7月10日「町長就任以降、実弟企業に原発マネー17億円」という記事をスクープした。http://www.nishinippon.co.jp/nnp/item/252790
 結局そういうことなのか……と、暗澹とした気分になったのはぼく1人ではないだろうと思う。
 原子力発電所は、13カ月連続運転し、その後国による定期検査で休止するというサイクルで運行されている。休止中の原発が多いのはそのためである。その際、再稼働時は地元との安全協定により、地元の同意が必要となる。法的には同意がなくとも再稼働できるそうだが、さすがに国も電力会社も地元の意向をまったく無視することはできないだろう。
 最終的に玄海原子力発電所の2、3号機がどうなるか注視していかなければならないが、「定期検査で休止」のまま再稼働させない──という方法論がいちばん早道なのではないかという気がする。
 現在の原発で、津波などで海水に水没して、正常な冷温停止が期待できる原発は存在しない。だからまず、14メートル以下に設置された原発を即刻廃炉にするべきだ。 全国に小事故を繰り返してる原発は多く、これらも即刻廃炉すべきである。 それからメルトダウンしやすいのが明らかな初期型、つまり福島1号機と同系の原子炉も廃炉しなければならない。100Mワットクラスの巨大原発は手に負えないので廃炉。
 もちろん、 地震学者が大地震が来ると警告している地域の原発も即刻廃炉にしなければ危険だ。
 そんなふうに、日本の各地域が地域ごとに原発の再稼働を許さない──という「普通の感覚」による世論を作っていくことが大事なのではないだろうか。