児玉教授の陳述が圧巻だったので、今中氏とともに目立たなくなりましたが、名古屋大学の沢田昭二教授の発言は必見。児玉氏が内部被ばくの複雑さについて言おうとしていた事がさらに詳細に理解できます。

沢田先生は、2009年にギリシャのレスポス島でのECRR(欧州放射線リスク委員会)に参加し、レスポス宣言に加わった方ですが、その趣旨は「内部被ばくを軽視した国際被曝防護委員会の基準を見直すべき」ということ。

7/27 沢田昭二教授 衆議院厚生労働委員会
沢田昭二(参考人 名古屋大学名誉教授)9時45分から15分
(ただし、衆議院TVは、開始時点から閉会まで止まらず流れるので自分で停止クリックが必要。)


多くの政府系御用学者が「因果関係のエビデンス無し」として見殺しにしてきた非認定の被ばく者らの内部被ばくが、放射性降下物に関連があると証明した沢田先生の研究結果は、チェルノブイリ事故の内部被ばくを重視したECRRなどからも高く評価されています。

先の記事で児玉先生の発言でもみられたように、内部被ばくの場合、放射線量だけを見ても、それぞれの核種の性質と集積しやすい部位などをみなければ意味がない事を疫学的に証明されています。(国会のでは配布資料が視聴者に見えないので、6月にIWJの岩上氏がインタビューされた、書き起こし付き動画↓のUstreamサイト
ほうが解り易いです。)


沢田先生は広島の原爆投下時、1400mの近距離で被ばくしたにも拘らず、現在まで発症せずご健康ですが、倒壊した家の下敷きになったお母様を火災で亡くされ、弟さんも晩発性と思しきガンで、65歳で他界。

内部被ばくについての研究をされたのは、ご自身の経験とは関係が無く、元々専門分野は量子物理学。「私が育ってきたのは素粒子論研究のグループで、湯川秀樹先生、友田先生、坂田先生、のような方々はすごく民主的で、一介の大学院生でもきちんとした議論をしていれば、それに耳を傾ける姿勢がありました。私は学会の民主化というのは極めて重要だと思います。」

という発言で、原子力や放射能の研究の世界が如何に真逆で苦労されたかがわかります。時代背景もあるようです。

実際に存在する被ばく者の内部被ばくの症状をもっと科学的に議論するべきである、という姿勢で論文を書いて投稿しても「(これまで原爆や原発事故との因果関係を否定してきた)学会で大変な混乱が起きる、という政治的理由で却下されるということが続いている」とのこと。

京都大学原子炉研究所の今中氏らとともに、広島長崎の放射線量評価を研究されたのが、1990年代末。そして、科学といっても、「原子力」「核」という政治や軍事で御用学者だらけのドロドロした世界に入ることになったわけですね。

被爆国の国民でありながら、こんな事も知らなかった、と思わせられる事が、研究結果とともに出てきます。既出分も含め、たとえば...(委員会視聴時の自分用メモですが)、

●[長瀧氏が属する]放射線影響研究所(放影研)は、初期放射線の影響だけを調べる。(追跡調査無し。)

●被ばく者の発症の実態をみると、すごく低線量でも発症率は高かったり、かなり高線量(4Gy≒4Sv)でも横ばいなど、差がある。⇒このズレが放射性降下物の影響と考えられる。(そして疫学・統計学的に証明したが、[今でも外部被ばく論者らは]認めず。)

●初期放射線は主に外からぴかっとした瞬間に受けるのが外部被ばく。

●全体の被曝線量から外部被ばく分の線量を差し引くと、放射性降下物による内部被ばく。

●広島の被曝で見られた3種類の急性症状のうち、脱毛と紫斑(皮下出血)は爆心地からの距離と相関関係があるが、下痢(腸壁等の被曝)は遠距離の方が発症率が高い。

●近距離では初期放射線が大量に到達し、主にガンマ線が腸の内壁に到達。(かなり大量でないと、透過力が大きい、即ち電離作用がまばらなため、下痢などは発症しない)

●遠距離の場合、放射性物質は呼吸や飲食で摂りこむのでベータ線が届く。[照射では体外から入りにくいものの]一旦体内に入ると、1センチも進まず停留するほど透過力が低い。それにより、密度の高い電離作用を起こす。⇒腸壁に大変なダメージを与えるため下痢を発症する。

●遠距離であっても、内部被ばくで起こっていることは同じ被曝線量で説明することができる。

●初期放射線は2kmあたりでほとんどなくなるが、長崎原爆は強かったので、12kmまで1200-1300mSv(ミリシーベルト)という強い被曝となった。

●下痢は近距離の発症率は低い(ただし、多くの被爆者が死亡している)

●放射線影響研究所(放影研)はこれらの事実を無視し、西山地区など、降雨による初期放射線の影響だけを明らかにした。遠距離被ばくの公表をしていないので、今からでも方向転換すべき。

●[共産党の高橋千鶴子氏によると、今でも被曝認定申請者は毎年5千人くらいいて、却下されている。]

●ガンマ線がDNAの二重螺旋を切断するときは、ぽつんぽつんとなので、数百か所でも正しく修復できる場合が多い。

●ベータ線は接近してDNSの螺旋を切断する。生物が、生体分子の自己修復を行うときに誤った修復の仕方を行う可能性が非常に高くなる。(電離作用を物凄くたくさんうける⇒内部被ばく)

●福島で起こっていることは、内部被ばくが主。外部被ばくのデータは役に立たない。放射線降下物の影響である残留放射線を元にすれば、同じ結果が出る。

●内部被ばくでは測定が難しく、「[一定線量の]外部被ばくと同じ影響を与える内部被ばく」という表現しかできない。それぞれの核種の性質と、その集積部位を観なければならない
例)ホールボディカウンタ(WBC)で、セシウム137(137Cs)を計っているが、ガンマ(γ)線しか測定されていない。137Csは、バリウム137(137Ba)に冷却崩壊する。137Csは高密度のベータ(β)線崩壊によるより深刻な被曝のほうが計測されず、137Baの励起状態から137Baの基底状態に遷移するときに発するγ線のみが計測されている。

●。ICRPが採用している方法ではβ線もγ線も同じ被曝影響という仮定をしているが、内部被ばくの場合、科学的ではない。これは外部被ばくの場合、β線が体内にあまり入らないので、[放射性物質が体内に定着した場合等の]様々な症状を引き起こさないため。

●放射線影響研究所の医学的な疫学調査をするときには、「放射線を浴びていない遠距離被爆者」と「入市被ばく者」を比較対象群としてきた。

●被ばく者を日本人全体と比較すべきで、そうすればがんの発症率が高いこと、そして毎年の健康診断のために早期発見されるので死亡率は却って低いことがわかる。(広島大学の原爆放射能医学研究所(原医研)は県内の被ばく者と県民全体を比較しているので、参考になる情報が出てきている。)

●内部被ばくは極めて複雑で、放射性微粒子が5ミクロンほり小さいと、鼻毛の間から肺の肺胞に入る。1ミクロンより小さいと、肺胞の壁から血液に入る。その微粒子が水や油に溶けるかにより、分子原子レベルまで溶解し、血液循環とともに全身に流れる。ヨウ素なら甲状腺に30%ぐらい、ストロンチウムなら骨・骨髄に、セシウムなら筋肉に、それぞれ集積しやすいところに移動する。

●水に溶けない微粒子で、多少壊れて小さくなったとしても、1ミクロンでも何百万個の放射性原子核が含まれている。循環している間に体に沈着すると、その細胞からまわりの細胞に猛烈に被曝させ続ける。そしてその細胞が死ぬ現象をホットスポット理論という。

●ICRPはこうしたホットスポットにずっと否定的な姿勢を続けている。

●劣化ウランの酸化ウランの微粒子が体に入ると、大量のウランの原子核が含まれていることになる。半減期が凄く長い。影響はそれほどないはずと言われるが、いろんな影響があることが判ってきている。

●被爆労働者は250mSv基準で働いていて、500mSv被曝まで出たというので急性症状発症ぎりぎりのところで大変心配。100mSv以下では証明が難しい晩発性障害が心配で、影響がないと言い切ることは科学的ではない。ないと言い切らず、長期的に被ばく者をフォローする仕組みが必要。

原発建設・運用にも推進派と反対派で分かれていますが、広島長崎原爆やチェルノブイリ事故の被ばく者の分析でも、ほとんどのマスコミは政府寄り、即ち「それほどの犠牲はなかった」とする学者らのみを「専門家」と総称する傾向があり、新たな因果関係の可能性を真に科学的なエビデンスと共に投げかける学者を黙殺してきました。(更に、エビデンスがまだない=因果関係はない、ではなく未確認というだけ。)

その対立の図が面白いほど今回の委員会の陳述や質疑応答で出てきます。圧巻はみんなの党の柿澤未途氏の質問と、それに答えた3名の解答。長瀧氏、沢田氏、今中氏(京都原子炉研究所)。7月27日の厚生労働委員会の最後の一幕。

4月15日に、福島は20mSv以下なので安全、という発言をした長瀧氏が最初。チェルノブイリでも近距離の高線量も遠距離の低線量も放射線での疾患の証拠無し、と言い切ってます。現地では診療した子どものすべてのお母さんたちにお子さんは大丈夫ですよと言って安心させてあげたそうです。

沢田氏の後に応答した京都原子炉研究所のお馴染み今中哲二氏は怒りを秘めた声で回答開始。「最初の2週間、何が起こったか、はっきりとは未だ誰も知りません。これはかなり自信を持って言えます。…[長瀧先生は因果関係が見られないと言うが]初期からきちんと追跡調査したデータが全くありません[怒]!事故直後から避難した12万人をきちんとレジスターしてこの25年間どうしていたかの調査が全くないわけですから、無いところには影響は見えない、というところだろうと思います」と。

誰の言ってることが滅茶苦茶だか、子どもでも解ります。(しかし、明石氏、唐木氏、長瀧氏、3名共に、とにかくゴタクが多い。観念論、抽象論、政治的発言、挨拶などで時間を無駄にする。児玉氏、沢田氏、今中氏が次々具体的な数値や固有名詞をあげて、何をすべきか提案しているのご好対照。御用が誰か先に教えてもらってなくてもすぐにわかります。)

こちら、衆議院TV↓のサイトだと、委員会発言者の名前をクリックして各冒頭陳述から視聴できます。
衆議院ビデオライブラリ 7月27日

ちなみに、唐木氏を参考人として推薦したのは自民党とか。それが本当ならいかにも現在の原発行政を築いてきた組織らしいですね。


政府や文科省の対策を批判した松本市の菅谷市長の著書↓。チェルノブイリでの被ばく者診療経験もある医師でいらっしゃるので、松本市へ給食疎開した人たちもいますね。
子どもたちを放射能から守るために