僕はそうではないのだ。ということを繰り返しこのブログで述べている。先週の金曜日はそのことが容易に理解できる本を紹介した。今回はちょっと違った観点から、「お話」をもとにその理由を述べていきたい。
A君は地方のある都市で暮らしている。最近、東京から仕事の関係で引っ越してきた。
地方では大きな都市とはいえ、東京でしか暮らしたことのないA君にとってはひどい田舎である。
家の周りには小汚い居酒屋兼定食屋がある。また、その隣にあまりおいしくない中華料理の店がある。
また、おしゃれなバーなどはなく、古びたスナックがあるだけである。
A君の新生活が始まったわけだ。A君は何げにおしゃれなので、一人でもバーとかカフェに入ってまったりとすごすのが好きだったりする。
しかし、この街にはそんなものはない。
最近の週末の生活はこうだ。10時くらいにおきて、自分でごはんをたいて食べる。そして、その後、趣味であるランニングやジム通いなどをして、昼飯は取らずに、夕食はまた自宅で作って食べる生活である。まだ、来たばかりで会社の人以外に知り合いもいないのでどうしてもこういう生活になってしまう。
しかし、なぜこの街にはまともな料理屋がないのだろうか?どうも、今ある3つの料理屋は政治家や役所と結びついているらしく、そのせいで他の料理屋が飲食店を開く許可を求めても許可が下りないという。明確な規制ではないが事実上の規制がそこにあるわけだ。
もちろん、この3件の店は地元の人からもあまり好まれてなくあまり流行っていない。ゾンビのようにそれでも競争がないので、一日に数人やってくる客をあいてにすることでなんとか経営が成り立っている。
多くの企業や起業精神のある若者が飲食店やカフェ・バーを開きたいと思っているが、許可が下りないのである。そして、この街に居る人は飲食店に行くなんてことはほとんど想像もしないので、飲食店に対する需要は低いかのようにも見える。3つの店の供給力に対して、需要は少ない。需給ギャップとでも呼ぶべき状態が存在している。
3つの店の経営者は「需給ギャップを埋めろ!」と要求していて、政治家は当該飲食店で食事をすれば1割引になる商品券を配っている。当初は効果があったが、それでもおいしくないものはおいしくないので、現在では誰も利用しない。あまり効果はなかったのだ。
A君はある日想像した。もし、あの定食屋がもっと安くてうまい定食屋だったら・・・。あの変なスナックがおしゃれなバーだったら。。。?あの中華屋が高級中華料理店だったら。。。?
金曜の夜は会社の人と中華料理を食べに出かける回数が増えるだろう。なにせA君は一部上場企業に勤めていて給料はそれなりにあるからだ。
そして、土曜の朝は胃が重たいのでごはんなどの軽めの食事で済ませるだろうが、昼過ぎくらいに定食屋でごはんを食べることは間違いない。そして、夜は一人でバーにでかけてバーテンダーと話しながらお酒をたしなむだろう。
さらに、規制が緩和されて、カフェやバーがたくさんでき始めればどうなるだろうか?いろんなショップや美容院などもでき始める。そして街がより活気付いてくるだろう。もちろん、所得が低下気味の時代であるから、安い値段で良質のサービスが提供されねばならないことは言うまでもなく、供給者は常に厳しい競争の中で努力を強いられるけれども。それでも規制の緩和によって飲食業界のみならず関連産業も活気付くことは間違いない。
一体これは何を意味しているのだろうか?
このストーリーを聞いて、この街の飲食業界を建て直すためには「需要が必要なのだ!」という人はほとんどいないだろう。
重要なのは事実上の規制を撤廃してより多くの飲食店が競争するようになり、より安価で良質のサービスが提供されるようになることが需要を押し上げることにつながり、飲食業界、ひいてはこの町の経済を発展させることに寄与するということだ。と多くの人が思うだろうし、納得するだろう。この話で出てくるような誰も寄りつかない飲食店を生きながらえさせるための財政政策に賛成する人はほぼ皆無に等しいはずだし、意味がないと誰もが思うだろう。
日本経済にこの話を当てはめられるだろうか?日本という国はたしかに、他の諸外国と比べても十分に競争的な市場である。異常に規制が多い国とはいえないだろう。しかし、だからと言って、上記の話を聞けば、「需要を無理矢理押し上げること」が何の解決にもならないことは明白だ。
重要なのは「需要」ではない。「需要を喚起できるような供給」がないことである。また、そのネックとなる規制や「事実上の規制」が数多く存在していることである。仮に需要不足であったとしても、人々が買いたいものがないのに無理矢理買わせることは不可能であるし、持続可能ではない。ケインズの間違いはこんな単純な話からも容易に理解できるはずである。
だからあまりに「需要サイド」に焦点を当てるのはおかしいと僕は思うのである。
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