かけ算の式の順序についての調査結果(2の2) | メタメタの日

(3)について


 文部省の『学習指導要領』は、最初に昭和22(1947)に「試案」が出、昭和26年に「試案の改訂版」が出、そして、昭和33年に「告示」として『学習指導要領』が出ます。その解説として各教科の「指導書」も刊行されたが、昭和36(1961)に「指導資料」も編集刊行された。『小学校算数指導資料Ⅰ 数と計算の指導Ⅰ』。そして、昭和38(1963)に『Ⅱ』が、『Ⅰ』が理論篇なら『Ⅱ』は具体篇として、刊行された。

 その『Ⅱ』の41頁です。


<(2)こどもたちのつまずきからみた問題点

「みかんを5個ずつのせたさらが、3枚あります。みかんの数はみんなでいくつですか。」という問題が与えられた場合に、5×3と正しく立式できても、「みかんをのせたさらが3枚あります。どのさらにもみかんが5個ずつあります。みかんの数はみんなでいくつですか。」というような表現の場合には、3×5と立式するこどもがみられる。これは、乗法を用いればよいという判断はできても、「何のいくつ分」を求めるのかということが、式の意味と結びついてよくわかっていないためと考えられる。

 また、上のような場合、乗法では交換法則が成立することを知っていて、どちらを乗数にしても、結果は変わらないということに基づいて、3×5と立式するこどももいるとみられる。このように考えることは誤りとはいえない。しかし、そのときのねらいが、問題の数量関係を表わすことにあるのであれば、そのねらいにそって立式ができるようにすることが必要である。そのためには、どんな点に留意したらいいかということは、導入期の指導としてはたいせつなことである。>




 『学習指導要領』は、その後、昭和43(1968)、昭和52(1977)、平成元年(1989)、平成10(1998)、平成20(2008)と改訂されたわけですが、昭和52年改訂(554月から全面的実施)版の実施中の昭和61(1986)に、上述の『数と計算の指導Ⅰ』『Ⅱ』を全面的に見直した『小学算数指導資料 数と計算の指導』が出た。この中には、かけ算の順番についての直接のコメントは見当たらない。



 以上の調査結果から、次のようなことが推測されます。




(1)1972年の朝日新聞で、かけ算の式の順序の問題が初めてマスコミで取り上げられたとき(*)の背景は次のようなことになる。

 (*)http://ameblo.jp/metameta7/entry-10196970407.html

 この学校の先生は、おそらく使用していた教科書の指導書に、立式の順番には正誤があるという記述に忠実に従ったのだ。そして、父母からの抗議の質問に対する文部省の解答は、上記『Ⅱ』の記述よりは、はばのあるものになっている印象がある。『Ⅱ』も「誤りとはいえない」と断定を避けてはいますが。

しかし、教育学者も含めて、誰も、『Ⅱ』の文部省の見解を指摘していなかったのは不思議ではある。




(2)かけ算の式の順序については、1950年代から、教師用指導書には書かれていたが、この頃、小学生だった者(私も含めて)は、ほとんどそのように教育されたという記憶がない。佐伯胖氏(1939年生れ)は、子どもの頃から「1あたり量」ということばを聞くと頭が痛くなると発言しているか書いているということをまた聞きした(また聞きの上、私の記憶があてにならないので、不正確な伝聞となる)が、氏が小学生当時(敗戦直後)も、かけ算の式の順序にうるさかったことはあったろうが、それは、かけ算を累加あるいは倍と捉える立場からであって、数教協が50年代に入ってから唱えた量の立場からのものではなかったろう。「1あたり量」という用語は、佐伯氏が小学生のときに、小学生に対して使われたとは思えない。

 しかし佐伯氏の記憶が確かなら、氏はやはりかなり例外的なのであって、多くの子ども(含む私)は、かりにかけ算の式の順序について最初教わったとしても、その後、交換法則を知った段階で、交換法則がきれいに上書きインストールされてしまって、式の順序など教わった記憶はないと歴史の捏造がなされた。あるいは、教師用指導書には、式の順序をきちんと教えろと書いてあっても、当時の教師は、そんなことにはあまりこだわらないで、どっちの順序で式が書いてあっても○にした。私たちの記憶では、こちらの方が正しかったように思えるのだが。



(3)この10数年で、かけ算の式の順序の問題が、急速にネットネタになった理由は、3つ考えられる。1つは、ネットという誰もが手軽に発言でき、反応できるメディアが出現したこと。ネットは新聞の投稿欄の比ではないだろう。2つに、学校の先生が指導書に忠実に教えるようになったこと。3つに、親が学校の教え方を細かくチェックするようになったこと。


(*補注 かけ算の式の順序が最近になって問題化したことについて、この後考えたことは以下に書きました。
http://ameblo.jp/metameta7/entry-10762089171.html  )