かけ算の式の順序についての調査結果(2の1) | メタメタの日

 文章題でかけ算の式を書くときの順序についての調査結果です。

 まとめると、

(1)現行の6社全部の小2算数の教科書の「教師用指導書」には、かけ算の式には順序があり、これをきちんと教えるようにという記述がある。

(2)1950年代、60年代の教師用指導書にも、見た範囲のもの(4種類)には、すべて式の順序を指導するように記述がある。

(3)文部省の文献では、かけ算の式の順序について明確にコメントしているものは、下記の1963年のものしか見つけられない。

(*補注 これは間違いで、kikulogのよたよたあひるさんの572番発言で知ったのですが、1951年の「小学校学習指導要領 算数科編(試案)昭和26年改訂版」(文部省)にかけ算の式の順序についてコメントがありました。)

http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/~kikuchi/weblog/index.php?UID=1291884284  )



以下、出典元です。


(1)について。

現行版の平成17年検定教科書はコピー不可ということで、その前の平成13年検定のものですが、文言はほとんど変わっていません。いずれも「小2下」の教科書の指導書です。




東京書籍

18

「「4枚のお皿に柿が3個ずつのっています。柿は全部で何個ありますか。」といった問題では、十分な検討もなく、数字が出てくる順に「4×312」と書いてしまう場合がある。これは、場面を具体的に想像することなく、数字だけを見て式を書いたり、乗法の式の意味の理解が十分でなかったりすることから生じると考えられる。」

26

教科書14頁の問題、「②シートが 5枚 あります。1まいに 3人ずつ すわると、ぜんぶで なん人 すわれますか。」に対する注。

「②の問題で、5×315と書く誤りは、問題に書かれた順に数字を並べただけで、かけ算の意味を理解していないことに起因する。そこで、さし絵などで、「1つ分の大きさ」にあたるのは何か、「いくつ分」にあたるのはどれかを再確認させる。」




啓林館

22

教科書22

おかしの はこが 4つあります。1つの はこには、おかしが 5こずつ はいって います。みんなで なんこに なるでしょう。なんこの いくつぶんかを かんがえましょう。しきは 4×5かな、5×4かな……。5この 4つぶん だから、5×4=20。

②テープを 4本 つなぎます。テープ 1本の 長さは 3㎝です。ぜんぶで なん㎝に なるでしょう。

③あめを 3こ かいます。1こ 5円の あめを かうと なん円に なるでしょう」に対する注。

適用題で、基準量が後に示される場合があることを知る。

 ②③基準量が後に示された適用題を解く。

(略)

ここでは、いくつ分の量が先に、基準量が後に示され適用題を扱い、「基準量のいくつ分」というかけ算の意味についての理解を深めさせる。のような問題では、児童は数値の与えられた順に立式してしまう(4×5とする)ことが多い。題意をしっかり捉え、基準量が何なのかを判断し、正しく立式できるようにするためには、数図ブロックによる操作か図をうまく活用させるとよい。また、これまでに取り組んだ適用題と比較させ、示された数値の順序のちがいを見つけさせることも、基準量を意識させるためには有効である。」




教育出版

16

教科書16頁の問題、「ボートが 6そうあります。1そうに 4人ずつ のると、ぜんぶで 何人に なるでしょうか。」に対する注。

6×4と立式する子供が見られる。その場合、1つ分の大きさはどれか、いくつ分はどれかを明確にとらえさせることが大切である。」

37

「乗法の交換法則の指導

これまでに、乗法の意味に基づき、被乗数は1つ分の数、乗数はそのいくつ分として立式することを指導してきている。しかし、交換法則では被乗数と乗数を入れ替えても答えは同じであることを指導するため、不用意に3×5=5×3のような式を導入した形式的な扱いを急ぐと、混乱する子供が出てくることが考えられる。したがって、例えば「3個の5つ分」と「5個の3つ分」では式の意味は違うが答えは同じであるということを、ドット図やアレイ図を用いて視覚的にも十分納得させてからまとめることが大切である。」




大日本図書

40

教科書22頁の問題、「②6つの はんが あります。どの はんも 4人ずつです。みんなで なん人でしょう。」に対する注。

「このような場合、6×4というように、問題文で示されている数値の順序にしたがって立式することがよく見られる。6×4と立式した児童には、場面を表わす絵や図をもとに、乗法の意味に立ちもどり、4×6と立式すべきことを具体的に理解させていくような指導が必要である。」




学校図書

5

4枚ずつ3袋あるおせんべいの場面から、必要な条件をぬき出し、立式する。「4×312」と立式し、声に出して読む。「4枚ずつ3袋」だから4×3となることを理解させ、3×4としないように注意させる。」




大阪書籍。これのみ、現行版(平成16年度~21年度)

34

教科書28頁の問題、「4.おかしが はいった はこが 6はこ あります。1はこに 8こずつ はいっています。おかしは ぜんぶで なんこ ありますか。」

 指導書に「8×648 こたえ 48こ」と朱書があり、「ポイント」として注が次のようにあります。

「話の順序から、6×8と立式する子どもも出てくる可能性があるので、「~のいくつ分」がどちらに当たるのか、しっかり確認したい。」



大阪書籍の「平成13/14年検定」版には、このような記述はなく、他の5社すべての「平成13/14年検定」版にはかけ算の式の順序についての記述があったのと対比的であったが、現行版で大阪書籍も5社に倣ったということになる。






(2)について

 昔の指導書の例。




啓林館・3年上・昭和29年(1954年)

42

教科書31頁の問題。4切れに切ったりんご1個と切っていないりんご4個の絵があって、「①りんごが5こあります。どのりんごも四つにきると、みんなで いくきれできるでしょう。②かず子さんは、5×4=20とかいて、20きれできると こたえました。これでよいでしょうか。③5×4は どんなことですか。4×5は どんなことですか。」に対する解説。

「② 各自考えさせるがよい。そうすると中には必ず、5×420と書くこどもも見つかるであろう。若し見つからないときは、②番を読ませて、これでよいかどうかを討論させ、理由を考えさせるがよい。③4×5とのちがいをはっきりさせる。上記の討論は結局、この問題に落着くことを理解させる。乗数と被乗数の区別をはっきりさせる。乗数と被乗数をはっきりさせるためには、式の数に名前をつけて表現するようにすればよい。」




学校図書・3年上下・昭和30年(1955

36

教科書24頁の問題

「(3)こどもが6人います。せんべいを、ひとりに、5まいずつあげるには、みんなで、何まいいりますか。」

「(3)(略)かける数、かけられる数を正しく理解しているかどうかをみるために、式に書き表して計算させるのがよい。問題には、6人という数値が、先に示されてあるので、6×5 の計算をする誤りがあるかもしれないからである。」




東京書籍・3年上・昭和35年(1960

教科書35頁の問題への朱書。

「2 絵はがきを 入れた ふくろが 5つ あります。どの ふくろにも 6まいずつ はいって います。絵はがきは みんなで 何まい あるでしょうか。」

「答 30まい 立式に注意、5×6まい=30まいは誤り。」の朱書。

「3 4週間は 何日でしょうか。 この もんだいを 考えるには、つぎの どの しきを つかえば よいでしょうか。

4日×7   7日×4   4×7日

こたえも だしましょう。」

「答 7日×428日」の朱書。



学校図書・2年上下・昭和37

197

教科書67頁の問題。

「2.かけざんの しきに かきなさい。こたえも だしましょう。

① こしかけが 6つ あって、ひとつの こしかけに 4人ずつ かけて います。みんなで、何人 いるでしょうか。」

「① 4人×6  4人+4人+4人+4人+4人+4人=24

・被乗数になるものは何かを入念に指導する。①のような場合、乗数が先に書かれていると、6×4とする子どもが出るであろう。式に名数をつけると、この誤りがわかりやすい。この点は、ここのみでなく、次単元を通じて、繰り返し指導する。」

209

教科書77頁の問題

「1 かだんが あります。よこの長さは、たての 2ばいです。たては 5m あります。よこは 何メートルですか。

2 こどもが 5人 います。ひとりに ノートを 2さつずつ くばります。ノートは、ぜんぶで 何さつ いりますか。

3 えんぴつを 半ダース かいます。1本の ねだんは 5円です。みんなで いくらでしょうか。

4 ()

「1 5m×210m  こたえ 10

 2 2さつ×510さつ  こたえ 10さつ

 3 5円×630円  こたえ 30

(略)

・1,2,3は、いずれも乗数になる量が前に出ている。3では、乗数が半ダースとして、かくされている。(略)これらの点をよく注意し、ゆっくりと指導することが大切である。

・どれが被乗数で、どれが乗数かを明確にいわせ、被乗数を左に書くことを入念に指導する。」