精神医療の実態を伝えることの難しさをつくづく感じる。

たとえば、以前エントリで取り上げた『14歳からの精神医学』(宮田雄吾著)に関して。

アマゾンのカスタマーレビューには、少し前まで、この書物への批判の意見が書かれてあった。(記憶では2つ)。

しかし、今日、久しぶりに同じページを開いたところ、見事に、その2つの意見は削除されていたのである。

評価の「星1つ」もまったく結果に反映されていない。

アマゾンのレビューの扱いがどういうことになっているのか、私は詳しく知らないが、都合の悪いものは一方的に削除することになっているのだろうか?(一方的と言ったのは、つまり、2つのうち1つを書いたのは、実は私だからである)。

代わりに、思春期の子を持つ親御さんが「わかりやすい内容で読みやすかった」と絶賛。

本書は中学生だけでなく、分かりやすい精神医学書を求める大人にもオススメします。」ということだ。

そして、最後に、

本書は、他の方のレビューにあった「騙されて子どもが薬漬けにされていく」「子供を向精神薬のリスクにさらしてしまう」内容からは、かけ離れているように思います

素人の私から見て、とても精神疾患にお詳しい方々(専門家?)のレビューのようですが、本の内容からかなり飛躍したことを書いてらっしゃいますし、なんだか批判を通り越して、「悪意」のようなものが感じられてしまいます。」

下線部分――私がエントリで書いたことは、本の引用である。もちろん本には病気の説明なども書かれているが、その治療法として、引用したようにはっきり「まず薬物療法」を掲げているのである。宮田氏は、本を批判する人はたいてい本をよく読みもせず、批判を書いていると別の個所で言っているが、このレビューを書いた人こそ、いったい何を読んでいるのだろうと思う。(サクラが書いたのか?)


また、コメント欄で教えていただいた宮田雄吾さんと漫画家の中村ユキさんのツイートにも興味深い書き込みがあった。

http://twittell.net/search/@yugomiyata/page2.html

その中で、宮田さん自身、自分の著書に対する批判のことを「うーん、レビューというより街宣車だなあ」と嘆いてみせている。http://twitter.com/#!/yugomiyata


私は「悪意」に満ちた「街宣車」なのか?


宮田氏は、自分の本の批判をする人を即「反精神医学」派ととらえて、このように書く。

「反精神医学の背景には一定の宗教的ともいえる思想を持っている人、個人的な悲しみを処理しきれないまま持っている人が多いのかなあ。」

だから、そのいう人たちが発する意見には意味がなく、批判のための批判にすぎないということなのか。しかし、私はそのどちらでもない。


このことを踏まえたうえで、宮田氏の早期介入についての考え。

実は日本における精神科の早期発見・介入について語っている研究者は薬物療法よりもケースワークの大切さを強調している。それなのになぜか「早期介入=薬漬け」と誤解して批判する人が多い。悲しいんだろうなあと思うけど、ちょっとひどい。」

 ちょっとひどいって、ちょっと待ってほしい。

悲しいんだろうなあと思う? その悲しみを作ってしまったのは、一つには精神医療なのではないか。子供を薬漬けにされたその悲しみ――つまり、子供の薬漬けは現にあり(被害者がたくさんいる)、「「早期介入=薬漬け」と誤解して」という表現はまったくもって詭弁である。

 さらに、薬物療法よりケースワークの大切さを強調している、というが、机上で強調することと、実際のケースにおける対応との隔たり。ケースワークの強調と、現場の対応とはまったく別の次元のことだろう。


 さらに、

多剤併用の問題も同様ですが、そういう医師がいるのも事実でもそうなるとすぐに「ほら、だから駄目だろう」と騒ぐのも変な話なんですよねえ。」

宮田氏自身「そういう医師」の存在を認め(彼は違うのかどうかわからない)、しかも「そういう医師」がこの日本において多くを占めているとしたら、やっぱり早期介入、駄目なんじゃないですか? そのあたりのことが宮田氏はまったくわかっていない(わかっていての論理のすり替え、言い逃れ。)


中村ユキさんの意見

私も早期発見・介入の批判について、「子どもの心の病気の本」で関わらせて頂いたので、ずっと考えていました。東京の家族会連合会の友人で、40年近く家族と当事者の相談を受け、精神医療保健福祉の制度作りに関わってきた方に相談してみたところ…

早期介入が取り上げられてから子どもの治療に関する誤診や、安易な薬物投与による薬害の相談が増えてしまっているのは実際の印象であるとの事です

私の私的見解ですが、子どもの心の病において、繊細な経過観察と最適なタイミングで投薬治療できる精神科医や医療機関が圧倒的に少なすぎるのが問題なのではないでしょうか

 と、ある程度はこの問題の本質がわかっているとも思うのだが、結局は、宮田氏をヨイショすることで終わっている。

 そして最後は――

どんな方がレビューを書いているのでしょうね(^_^;) ちなみに、「反精神医学」の方が書いた先生の本の批判の文章を、家族会連合会の友人に見せた所大変お怒りでしたよ。「早期発見・介入」は正しく行うのは良い事である!のに…と。


 だからぁ、「正しく行う」ことができる医師が圧倒的に少なすぎる、それが問題であると、ご自分で(ちょっと前に)書いているではないか。


 こういう文章を読んでいると、多くの人が「思考停止」に陥っているように感じられて仕方がない。

 宮田氏が言うのには、彼の本を批判する人は、「最初から先入観をもって、そこから離れずに、書いていないことを「そうにちがいない」と曲解してレビューと称して誹謗」しているということだが、早期介入を良きことと考えている人たちこそ、「そうにちがいない」と、精神医療(あるいは歴史、あるいは社会通念といったもの)によって植え付けられた先入観でもってそう判断しているだけではないか。

 自分の頭で考えない。自分の身に降りかからない限りわからない――思春期を持つ親としてレビューを書いた人は、自分の子供が精神医療につながれてしまったときもなお、この本に対して同じことを言えるのだろうか。


「反精神医学」の人たちの言うことだからと切って捨てる前に、少なくとも早期介入を実践する医師なら、オーストラリアや世界の動向に目を向けるべきである。早期介入に反対する精神科医が世界には大勢いることを知らないのか。


 

 実際、精神医療の被害にあった人たちが、その実態を他者に伝えるときに感じるもどかしさや違和感、無力感、どうせ言ってもわからない、やっぱり経験しなければわからない……最終的にはそんなあきらめにも似た気持ちになってしまうとよく聞くが、私も同じ気持ちである。

 大多数に対して、こちらはあまりに少数派(ましてこの日本ではなおさらかもしれない)。こうした精神医療の荒廃や杜撰さを知っている人はごくわずかであり、そういう人たちの声は、宗教的思想の持ち主、悲しみを乗り越えられない人といった、一種偏見の目でもって、いとも簡単にかき消されてしまう。

 あまりに偏っていると思う。つまらぬことだが、アマゾンのカスタマーレビューでさえ、ある意味情報操作である。

「悪意」「街宣車」――しかし、早期介入の結果という意味で「悪意」があったのはどちらということになるのだろうか。

 今はそうならないために、「街宣車」だろうがなんだろうが、できることをするだけだ。