以下、医療ジャーナリスト、藍原氏の取材です。 

「髪の毛や乳歯を検査して欲しいといっても、すぐに検査してくれる機関は、なかなかありません。
しかし、今は安い費用で検査できなくても、いずれ将来、検査技術が向上したり、手軽に検査を依頼できる態勢が整ってくるでしょう。 

将来、健康に影響が出てきたときに、手帳には当時の被曝の状況を証明してくれることになる記入欄が多く設けられています。 

この生活手帳を作成したグループが調べたところ、ICP-MAS(アイシーピー・マス/誘導結合プラズマ質量分析装置)という、髪の毛1本からでも核種を検出できるとこれは機械が、全国の警察、科捜研、科警研、大学の研究室などに導入されています。一部の保健所などでもすでに導入。 

株式会社ニッテクリサーチのICP-MAS(画像クリック) 

髪の毛を溶液に浸して、それをプラズマにかけて計測するという大がかりなもので、120003000万円もする高価な機械。当然、素人には操作できません。 

問題は、確かに髪の毛1本でも検査できるのですが、髪の毛に含まれている核種の濃度が、ごくごく微量の場合は検出できないということがあります。 

この機械は、政府が隠しているヨウ素129とか、ウラン、プルトニウムなど、半減期が何百万年、何千万年単位の核種の検出は得意ですが、機械にとって半減期の短いセシウムとか、ヨウ素131は苦手であるようです。 

要は、計測器にも核種に応じて得意、不得意があるので、将来、起こすかもしれない訴訟の内容に応じて適宜、検査機を変えて計測することになります。こうした費用が早く無料化されることが望まれます。 

他にも、こうした微細な検査を行える機械は、今でもあることはあります。
今回の福島の原発事故を機会に、短期間のうちに普及する可能性は十分あります。 

震災の後、多くの問い合わせが、このメーカーに来ているそうです」。 

こうした将来の技術の進歩も考えて、自分も内部被曝しているのかなと心配になってはいても、WBC検査までは行きたくない、と思っている人は、とりあえずは東北地方、関東地方にお住まいの別なく、誰でも髪の毛は保存しておいたほうがいいと思います。 

現在まで、行政は、すべてにおいて後手後手で、結局はこうした市民団体が先行して、逆に行政の尻をひっぱたいている格好。
なぜ、福島県の知事、そして行政は、いつもいつも、こうもダメなのか。本当に理解に苦しむところです。 

行政が言い訳として常に使う「今のところは難しい」という表現は、民間の開発部門の人たちが言う「難しい」のレベルの、10分の1程度の難易度を表しているに過ぎません。 

これでは福島の1年後も、3年後も、大して変わらないでしょう。病院が繁盛する以外は。 

この200万人県民健康管理調査は、すでに失敗している 

福島県の行政のやる気のなさ、スキルの低さ、それに追い討ちをかけているのが佐藤雄平知事の「県民流出防止策」です。
こうした様を見るに見かねて、市民グループが独自に作成したのが、この「被曝者手帳」なのです。 

福島県の佐藤雄平は、長崎大学から日本のメンゲレ、山下俊一を呼び寄せ、200万人被曝検査の拠点となっている福島県立医大や国と検討を行い、県の災害対策本部の下に県民健康管理調査検討委員会を設置しました。
詳しい経緯は、「福祉までヒロシマ、ナガサキと同じことが行われる」をお読みください。 

鳴り物入りで、国際会議まで開いて大風呂敷を広げたまではよかったが、やっていることは子供のママゴトレベルです。 

200万人県民健康管理調査の問診表は、まだすべての住民に届いていないのです。 

市民による生活手帳は、こうした行政の体たらくを見るにつけ、「もう彼らに任せてはおけない」というところから生まれたものです。 

この県民健康管理調査というのは、線量が高かった先行調査区域 (川俣、浪江、飯館の計29000人対象)は6月末に、そして、その他の地域に対してしては8月下旬から問診表の配布が始まったのですが、まだ、配布が終っていない地域も一部残したまま。ずさん極まりないのです。 

先行調査区域では、配布後3ヶ月経っているのに、回収率が47%。
それ以外の、8月下旬から配布を開始した地域では、回収率が、たった3.8%の回収率。 

調査対象は福島県民200万人全員を対象にしているものの、回収率は異常な低レベル。 

回収率が低い理由は、送られてきた問診表の入った封筒を開けた住民の「こんなもの、いったい何の役に立つのだ。住民の視点ではなく、行政側が、まだ我々を管理しようとしていることが、ありありと分る内容だ」という感想が物語っています。 

送られてくるものは、封筒に問診表と説明書、返信用封筒。 


記入の仕方を説明している部分は、最後のページだけ。(下の画像に見える右側の赤字部分) 


内容は、311日から325日まで、屋外にいたのか屋外にいたのか、どの場所にいたのか、ということだけを記入すればいい、というもの。
居た場所が自宅だった場合は、鉄骨造か、計量鉄骨造か、木造か、などの別に記入する欄が設けられているようです。 

311日から325日の2週間だけは、比較的、詳しく書くように記入欄が設定されているようですが、326日以降は、自由覧になっており、記入する住民側が、自由に期間を決めて、どこどこにどれくらい居た、と記入するだけ。 

県の問診表には、どんな食べ物を食べ、どんな飲み物を取ったかを記入させる欄は設けられておらず、場所の記入だけになっているのです。いったい、何の役に立つ? 

ということは、内部被曝は一切、考慮せず、外部被曝だけを問題にしていることが分かるのです。 

この問診表の中には、「スクリーニング(除染)を受けたことがあるか」という質問があるのですが、ここでいう「スクリーニング(除染)」とは、家の周囲を高圧洗浄器で洗い流すことではなく、自分の体のこと。
それも体の外側のこと。 

つまり、震災直後、断水が続いていたので、自分でどこかでシャワーを浴びたり、衣服を着替えたりしたか、ということを尋ねているのです。
ここでも内部被曝は意図的に省いている様子がありありと分ります。 

市民が企画・編集した「生活手帳」にしても、「健康生活手帳」にしても、3月に「鼻血を出した」とか、「下痢をした」とか、「気分が悪くなった」とか、こと細かく症状を記入するよう求めているのに対して、県民健康管理調査の問診表には、そうした記入欄は一切ないのです。というか、あえて設けていないのです。 

県の問診表は、実質、行動記録でしないのです。これでは、まるで印刷版GPSです。 

このほかには、心のケアに関する問診表と、妊婦に対する問診表が別にあって、人によっては、計3種類の調査になるようです。
しかし、いずれにしても内部被曝は一切、考慮せず。 

結局、県民健康管理調査をやってわかること。
「たいしたことは何も分りませんでした」ということになるのは目に見えているのです。。
こんな杜撰な調査に、国民の税金が湯水のように注がれているのです。 

こうしたことから透かして見えてくることは、県民健康管理調査委員会の目的は、あくまで一般市民ではなく、36万人の福島児童の甲状腺被曝調査であることが分るのです。
この児童に対する甲状腺被曝検査にしても、血液検査をやらず、エコーだけですから、病気の早期発見になどつながらないのです。
治療、早期予防という視点が、まったくないのです。これは本当に驚くべきことです。 

こういう表現を使いたくなります。
「いったい山下俊一の呪術的な言葉を信じてしまった国や自治体は、何を企んでいるのだろう?」。 

役に立たない調査委員会は、「県民健康管理調査の問診表の回収率が悪いのは、インセンティブがないからだ」と屁理屈を言っています。 

そこで、問診表に記入して送り返してきた住民には、「生活手帳」や「健康生活手帳」のような景品をプレゼントする計画があるようです。 

私は、新しい発見をしました。
あまりに落胆し、バカらしいと思ったとき、人は、失望から思わず大笑いしたくなるものだ、と。
これは私が想像していた以上に酷い。 

この市民が作った被爆者手帳。 

「生活手帳」も、「健康生活手帳」も、記入欄のほかに、
α線とβ戦の違いとは」、
1ミリシーベルトとは、人間の細胞1個に1回、放射線が当たることを意味する」とか、
「遺伝子にどんなメカニズムで悪影響を及ぼすか」とか、
「低線量被曝とは、どういうことか」とか、
「年間1ミリシーベルト以下なら、本当にガンにならないのか」とか、
「大人と子供の放射線影響の違いについて」とか、
難しいことを図解入りで分りやすく解説してあります。 

分りにくい核種の生物学的半減期についても、これで100%理解できます。
福島県以外の人にとっても、勉強のための資料として、また、お母さんが子供に教えるテキストとして、とてもいいと思います。 

市民放射線測定所が作った「生活手帳」は、元放射線医学総合研究所主任研究員の崎山比早子さんと、市民科学者の高木学校が監修しています。 

飯館村の「健康生活手帳」のほうも、兵庫医科大学の先生と、NHKの【ETV特集】で有名になった獨協大学医科大学の木村真三さんが監修しています。 

「健康生活手帳」は、繰り返しになりますが、愛する飯舘村を還せプロジェクト負げねど飯舘!!から無料ダウンロード出来ます。
実物を入手したい方は、1000円(飯館村への寄付金として)にて譲ります、ということです。 

「生活手帳」は、誰でもAmazonから一般書籍と同じように購入できますが、一時的に印刷した分は「完売」とのこと。