「みえないばくだん」(文/たかはしよしこ 絵/かとうはやと) | イージー・ゴーイング 山川健一

「みえないばくだん」(文/たかはしよしこ 絵/かとうはやと)

未だに、「500ベクレルの暫定基準値は安全なのです。大人は500ベクレルの野菜を食べるべきだ」とか、「原発は公害をなくすためにあの当時は必要とされていた。いわば必要悪だった」などと言う人がいる。

今年、「原発事故の情報統制はちょっとこれまでとは違うぞ」と感じた人は少なくなかったはずだ。あからさまな嘘を、新聞やテレビは垂れ流しつづけた。ぼくは年末年始も、テレビは見ないことにした。

この国はどうしてしまったんだろう、狂ってしまったのだろうか、あるいはもともと狂っていたのだろうか──と、ぼくらは呆然とするばかりであった。最初の頃は、そんな感じではなかったろうか?

そんな状況下、子育て中の母親たちを中心にインターネット上で大きな反響を呼んだ作品が「みえないばくだん」であった。YouTubeに動画がアップされ、ピアニストの谷川賢作氏の音楽が流れてきた。著者は小さな子供を持つ主婦と会社員の男性。ごく普通の人たちだった。


この作品はそのタイトルそのものが、原発事故の本質を見事についていた。「たしかにべんりになるけれど これは『ばくだんになるもの』じゃないの?」。そう、だからこそ経産省や政府や東電は──つまり日本の巨悪は強引にも世論をねじ伏せようとしているのだ。

原発と核兵器とは、同じコインの裏表だったのだ。いわば1セットだったのだ。同様のツイートをぼくもしていたが、それは難解な文章になってしまっていた。「みえないばくだん」はそれをわかりやすくストレートに描いていた。子供にだってわかるだろう。そこが、素晴らしい。

ひらがなだけの文章と絵で綴られている「みえないばくだん」は、ブログ公開とともに大きな反響を呼び、母親たちを中心に共感の声が寄せられた。YouTubeの動画は外国語が得意な人達のボランティアによって次々に外国語にも対応していった。今回それが、絵と文を描き直した紙の絵本オリジナル版として刊行された。

みえないばくだん/たかはし よしこ
¥1,365
Amazon.co.jp

帯の推薦文を、3名の方が書いていらっしゃる。
「子どもにもわかる。ここに描かれているのは、いま、日本で知らねば生き延びられない本当のこと」(俳優/山本太郎)

松本市長で医師の菅谷昭氏は「子どもや孫たちの命を守るために考え続けてください。この本には、その答えのきっかけが隠されているかもしれません」とお書きになっている。

ピアニストの谷川賢作氏は「……そして私たちはまだ間に合うと思います。信じています」と語られています。

ところで12月28日に、ぼくは仲代奈緒さんが企画/演出の朗読劇「大切な人~私の家族が見た戦争~」を観にいった。仲代さんのお母さんが広島の原爆のことなどを書き記した物語が原作で、お父さん役を山本太郎さんが演じた。朗読を聴いていると、空襲の情景がリアルに迫ってきた。
http://ameblo.jp/nao-style-room/

「みえないばくだん」のたかはしよしこさん、かとうはやと氏もいらしていて、ぼくらは隣りの席に座ってこの朗読劇を観たのであった。

原発とは核兵器と表裏一体なのであり、それは広島と長崎の原爆に繋がっているのだ──という視点を持つべきだとぼくは強く感じた。さらに、チェルノブイリ、現在のウクライナやベラルーシへ地理的な横軸を伸ばさないと、とも感じた。

思えば、悪夢のような1年であった。しかもこいつは、これから先もつづいていくのだ。あきらめずに慎重にいくしかない。谷川賢作氏の「……そして私たちはまだ間に合うと思います。信じています」という言葉がエコーのようにぼくの脳裏に響いている。

そんな今、なるべく多くの方々に、「みえないばくだん」(文/たかはしよしこ 絵/かとうはやと)を手にとっていただければと思います。小学館からの刊行です。ちなみに、「原発事故を克服した国になる」という解説を、ぼくが書かせていただきました。