前奏曲が流れる中、観客の待つステージへ【即席V系大作戦(第6回)】 | 僕が“バンドマン”を続けている理由。~バンド人生を本音で振り返る~

前奏曲が流れる中、観客の待つステージへ【即席V系大作戦(第6回)】

(前回の続き)

第6回:前奏曲が流れる中、観客の待つステージへ

悪夢、しもべ、鳴動、背徳、束縛、透明……。メロディーは単調でも、普段使ったことのない単語がこれだけあると暗記するのも一苦労である。さらに、オルゴール云々の台詞や振り付けとなると、どこで練習すればいいのやら。

本番当日までのおよそ1ヵ月、私は何度もテープを聞き直し、口の中でモゴモゴと反芻する毎日を送った。もちろん仕事などロクにしてない。

そしていよいよライブ当日。

『モテモテっすよ。うらやましいなあ』
新宿発のあずさ(甲府行き)車内で、カメラマンとして同行の編集部・武田が羨望の眼差しを向けてくる。

以前の私も、こやつ同様、自らの不遇を嘆きつつ、スポットライトを浴びる者に対して嫉妬と羨望の入り混じった感情を抱いていた。何事も一歩足を踏み出すことだよ、心の中で私はそうつぶやく。

甲府駅に着いた我々は、楽屋として準備されたライブ会場下のカラオケボックスへ。

スケジュール表によれば、本日はメインの我々の前座に地元の2バンドが出演することになっているらしい。客寄せパンダとして集めておいたのだ。むろん連中はライブの真の目的を知らない。

廊下ですれ違った他のバンドのメンバーに向かい、トーゴー君が命令する。
『おい、こちらテツジンさんだ。挨拶しろよ!』

あまり知られていないが、ヴィジュアルバンドの世界は体育会を思わせるタテ社会である。先輩は絶対的存在、後輩には服従が義務づけられている。

『あ、おはようございます!』

『おはよう』
調子に乗って、トーゴー君がデタラメを並べる。
『昔、東のX、西のフラワーって言われてたの知ってるか?』
『いや、知らないです』
『テツジンさんはそのフラワーの関係でいろいろやってたんだよ』
『え、そうなんですか!よ、よろしくお願いします』

深々とお辞儀して両手を差し出す少年たち。その手を握り返しながら私も「ご苦労さん」とねぎらいの言葉をかける。

敵(ファン)を欺くにはまず味方(他バンド)から。これは打ち上げの席において、私が誰よりも高い位置にあることをファンの子たちに見せつけるためである。

彼女らは権威を好む。全バンドマンたちにかしずかれる男を見れば、「まあ、そんなに偉い方なのね、抱かれてみたいわ」と錯覚も起こりそうというものだ。

$僕が“バンドマン”を続けている理由。~バンド人生を本音で振り返る~

軽いリハーサルを終え楽屋で化粧をしているところに、カメラを抱えた武田が入ってきた。ヤツによれば、すでに入り口付近は開場を待つ若い女で溢れ返っているらしい。
$僕が“バンドマン”を続けている理由。~バンド人生を本音で振り返る~

『スゴイっすよ、いっぱい来てますよ』

その言葉を聞き、突如言いようのない緊張感が襲ってくる。いくら田舎のライブハウスとはいえ、中には目の肥えた音楽ファンが混じっているかもしれない。ロクに歌詞すら覚えていないこんな状態で大丈夫なのか。

控え室から会場へ歩みを進めるにつれ、逃げ出したい衝動が膨らんでゆく。

『それじゃ、テツジンさん、行きます!』

合図と共に、会場内にあのキーボード音が流れ、客席がザワつき始める。小道具のろうそくを左手に持った私は、ゆっくりした足どりでステージへと向かった。
$僕が“バンドマン”を続けている理由。~バンド人生を本音で振り返る~

続く・・

この記事について。
★即席V系大作戦(全10回)
└過去にとある雑誌で行った企画。
僕の知り合いのオジさんが【女の子にキャーキャー言われたい願望がある!】と切実に言うので、『だったら、即席でV系バンドをやればイイんですよ!』と、僕が数週間かけてプロデュースする企画。果たして、結果は?!当時の雑誌記事に映像など追記して、わかりやすく面白く綴っていきます!


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