演劇までやらにゃならんのか【即席V系大作戦(第5回)】 | 僕が“バンドマン”を続けている理由。~バンド人生を本音で振り返る~

演劇までやらにゃならんのか【即席V系大作戦(第5回)】

(前回の続き)

第5回:演劇までやらにゃならんのか

8月の末、トーゴー君がレイ君と、ケン君を率いて会社にやってきた。私の歌う曲が出来上がったのだ。

『テツジンさんには1人でこの曲を歌ってもらいます』

テープをラジカセに入れると、キーボードのリフが流れ出した。

荘厳かつ神聖かつメランコリック、とでも言おうか。教会などで流れる葬送曲のような雰囲気だ。

『ほう、いい感じだね』
『ええ、これはテツジンさんが登場するときの音楽です』

特別メンバーのテツジンは大物アーティストであるからして、重々しい音楽に乗って登場し、カリスマ感を与えねばならない。この男、ちゃんと心得ている。

長いキーボードが止み、リズムボックスがおもむろに8ビートを刻み始めた。いよいよ私の歌う曲『テツジンの世界』だ。
と、ささやくような声でバックコーラスが割り込んできた。
『♪テツ・ジン、テツ・ジン、テツ・ジン』
ん?
『ちょっと、これはおかしくないかなあ』
『いや、大丈夫ですよ』
『そっかなあ』
少々おマヌケな前奏に引き続き、歌が始まる。
『♪遠い街が、暗く深くたたずむ 残された 悪夢のような静けさ 許されざる 罪を犯すしもべの 閉ざされた 悪夢のような鳴動』
その後も大仰な歌詞がとめどなく続く。

『これ、どういう意味なの?』
『意味はないっすよ』

『あ、そう。この“透明の罪”ってのは?』
『あ、そんなの適当です』
ヴィジュアル系なんて雰囲気だけ。それっぽい言葉がまぶしてあれば、何を歌っていようがどうでもいい。そんな確信を抱かせるに充分な彼の説明である。

$僕が“バンドマン”を続けている理由。~バンド人生を本音で振り返る~

曲は3分ほどで終了。使われたコードは3つだけなので簡単に唄えそうだ。
『オッケー、これを唄えばいいんだね』
『ええ。で、歌が終わったところで、ちょっとした劇をやってもらいます』
『劇?』
『ええ、劇です。最近はこういうのがウケるんですよ』
ヴィジュアル系バンドは、いかに独特の世界にファンを引き込むかが勝負であり、それには歌や演奏だけでなく演劇の要素を加えるのも効果的だという。有名どころでは、マリスミゼルなるグループがライブ中に劇の要素を取り入れているそうな。

彼が用意した台本によれば、劇の設定は、堕天使の集うエトルワ・セルクーユの支配者であるテツジンが大事にしていたオルゴールをレイ君が少年に奪われ、ああだこうだ……。

『何だよ、これは』
『あんまり深く考えないでください。で、テツジンさんの台詞は3つです。まずはこれですね。「オマエか?私の遣いの者から聞いたのだが、ある少年にオルゴールを渡したそうだな」」

『これ、オレ言うの?』
『ええ、そうです。ちょっとやってみましょうか。お前か!私の遣いの者から聞いたのだが』

『……』

『はい、やってください』
『お前か!私の遣いの者から聞いたが…』

『違いますねえ。もっと手振りを加えて』

『こう?』

『あ、いいですねえ』
『こうね?』

まさかこの年齢になって人前で寸劇を披露することになろうとは。

モテモテの道は険しい。

続く・・

この記事について。
★即席V系大作戦(全10回)
└過去にとある雑誌で行った企画。
僕の知り合いのオジさんが【女の子にキャーキャー言われたい願望がある!】と切実に言うので、『だったら、即席でV系バンドをやればイイんですよ!』と、僕が数週間かけてプロデュースする企画。果たして、結果は?!当時の雑誌記事に映像など追記して、わかりやすく面白く綴っていきます!


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