まずは保養から始めよう~放射能からいのちを守る全国サミット② | 民の声新聞

まずは保養から始めよう~放射能からいのちを守る全国サミット②

「放射能からいのちを守る全国サミット」は12日、全国の避難者支援団体がテーブルを並べて相談会を行った。閑散とするのではないかという主催者側の不安も吹き飛ぶ盛況ぶりで、どの関係者も「話しすぎて喉が痛い」とうれしい悲鳴をあげるほど。どの相談者も、身を乗り出すように真剣に受け入れ先の様子を聞く。避難を口にするのがはばかれるような雰囲気の中、それでも内に秘めた被曝回避への思いを吐露した福島県民。避難への是非で対立構図が出来上がらないよう、関係者は慎重に避難へ誘導していく構え。まずは短期間の保養から始めようと呼びかけている


【喉が痛くなるほどの相談者】

どのテーブルも、相談者が途切れない。

ある人は子どもを連れて一緒にパンフレットを見ながら説明に聴き入った。ある人は子どもの被曝を回避したいという思いを切々と話した。会場は熱気であふれた。取材に訪れた海外メディアのクルーも驚くほどだった。

あるブースでは、4時間で17組の相談に乗った。

「当初は誰も来なかったらどうしようと心配していたが、想定外の人出に喉が痛くなった。一人で来なくて良かった」と苦笑した。別の団体関係者は20組以上と話をした。「熱い気持ちに胸が詰まった。何とかして役に立ちたいと思う。避難を口にすると親や兄弟との関係が悪くなるという話も聞いた。繊細な問題だと再認識させられた」と振り返った。別の参加者は「就労が何とかなれば、今すぐにでも家族を連れて行きたいと思っている人は多いと実感した」と雇用の重要性を指摘した。

話題の中心はやはり、春休みに保養を検討しているという相談。また、夏休みに長期避難を考えているという親もいたという。鹿児島の福島県人会「うつくしま福島の会」でも、約20件の相談を受けたが「春休みを利用して子どもを保養に行かせたい」という内容が多かったという。「福島出身者が福島県民を支援するのは、少しでも安心してもらえるのではないか」と関係者は話す。

会場の一角では、西日本で収穫された野菜が無料で配布され、あっという間に無くなった。「買って支援」キャンペーンのなか、被曝の恐れの少ない無農薬野菜を手にした福島県民の思いはいかばかりか。ある女性が担当者にこう話したという。「私の子どもにだけは福島の野菜は食べさせられない。今年も作付けをするようだが、米も無理」。安全な土地へ行きたい、安全な食べ物を手に入れたい─。当たり前のことが言いにくくなっているのもまた、福島の現実だ。
民の声新聞-相談会
全国の避難者支援団体が一堂に会するとあって

多くの人が訪れた避難相談会


【福島に居ない時間から慣れて欲しい】

「みんな福島で暮らしたいんです。一斉に逃げることができれば気持ちの切り替えもできるが、それはできない。それならば、福島は汚れているから一時的に県外に行きましょうよと。ソフトランディングな手法として保養から慣れてもらおうというのが今回の狙いでした」

終了後の記者会見で、全国サミットの事務局長を務めた吉野裕之さんは話した。

原発事故から11カ月が経ち、それでもなお福島にとどまっている人々に対し、「避難しなければ危ない」と言うのはやめようと決めていた。今なお避難していないということは、頭の中に避難という選択肢は完全に無いことが明白だからだ。

「追い詰めたくないんですよ」と吉野さん。できるだけ多くの人に県外避難をしてほしいのは当然だ。しかし、それを声高に叫ぶことによって、避難する人としない人とが対立することも本意ではない。だから、全国の避難者支援団体には、なるべく保養のプログラムを用意してもらうよう頼んだ。

「まずは、福島に居ない時間というものに慣れてもらうことから始めたい。福島の人が怖がることなく避難者支援団体との接点を作れれば、やがては避難、移住も視野に入ってくる。その意味では、全国の皆さんの温かい感じが出せたのではないか」

相談会開催にあたっては、線量の高い地域を中心に折り込みチラシを配布した。問い合わせ先として吉野さんの携帯電話を記載したが、実際にかかってきたのは10件ほどだったため不安も大きかったという。

「来場者が少なかったらどうしようかと心配したけれど、本当に多くの人に来ていただいた。それだけ、避難や移住への想いを秘めているのだろう。僕たちも情報発信はまだまだ苦手だから、福島の人が言ってみたいと思うような、イメージが湧くような情報を発信していきたいんです」
民の声新聞-記者会見
記者会見にのぞんだ吉野さん(左から2人目)

「まずは福島を離れることから慣れて欲しい」

=ウィズ・もとまち


【保養によってセシウムは排出される】

全国サミットには、東京都の小児科医・山田真さん(70)も駆け付け、健康相談に乗った。

過去、6回の相談会に立ち会った山田医師。「昨年6月に開いた時はやや牧歌的な雰囲気だったが、7月の相談会は戒厳令でも敷かれたような状況だった。相談しに来たことが分かると地域でバッシングされるという。取材も受けたくないと言っていた」と振り返る。内容も、昨年の夏休み頃までは「引っ越した方が良いのだろうか」という相談が目立ったが、最近は少なくなってるという。今回は、渡利地区の高齢者がやり場のない怒りをぶつける場面もあった。「こんなに高線量の中で暮らしていて不安なのに、国は何もしてくれない」。最後は「自分がふがいないから子や孫が苦しんでいる」と自分を責めたという。

医師として「医学的に、ここ(福島)は子どもが安心して住める場所ではない」と断言するが、一方で「相談に来る福島県民もつらい。避難できないのだから避難しろと言っても仕方がない」と配慮も。そのうえで「1カ月単位で福島を離れれば、子どもは排出する力が強いからセシウムが減ることが分かっている。だから一週間でも週末だけでも、県外に保養をしに行く意味は大きい。もちろん、国や東電に本質的な解決を求めていく必要もある」と話し、短期間でも被曝の恐れの少ない土地へ行くことを勧めた。
民の声新聞-山田真
東京から駆け付けた山田真医師。

「短期間でも福島を離れればセシウムは排出される」

と保養を勧めた

(了)