出版者の権利について、権利付与を求める要望書を「検討会議」へ提出 | こんな本があるんです、いま

出版者の権利について、権利付与を求める要望書を「検討会議」へ提出

文部科学省・文化庁の「電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議」、
第11回検討会議(8・26開催予定)に向けて、
出版者の権利について、権利付与を求める要望書(下記)を、22日、送付しました。


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「電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議」において、電子書籍のビジネスの普及という観点から、出版者に出版者の権利を付与することの可否が検討されている。

中小出版社97社で組織する出版流通対策協議会は、出版者への権利付与について次の通り要望する。

一 出版者が著作物の公衆への伝達者としての役割を十全に担っていくためには、レコード事業者等のように、出版者の権利は著作物の伝達者の権利である著作隣接権として保護される ことが必要である。

理由
1 出版者は、現行著作権法における設定出版権では、紙での印刷、出版を許されているが、一方で、デジタル化・ネットワーク化時代を迎えて、著作物の普及のため電子出版を含めデジタル化・ネットワーク化に応じたビジネスを要請されている。しかし法的制約から著作権者に代わってさまざまな許諾行為を行うこともできないため、著作物の普及に有効な対応ができない現状がある。


2 著作権法第80条3項は「出版権者は、他人に対し、その出版権の目的である著作物の複製を許諾することができない」と定めている。
 例えば「ある人がある本をコピーしたいと思った場合に、それが三十条(著作権法)に規定する私的使用目的の複製である場合は別にして、そうでない場合に出版権者にコピーの許諾を求めてきたとしても出版権者にはこれを許諾する権利はない。日本複写権センター(コピーの許諾を行う著作権等管理事業者)設立当初において出版者に対し版面権もしくは出版者の権利を認めよとの意見が主張されたのは本項により出版権者が複製権を許諾できないこ とから生じたものである」(三山裕三著『著作権法詳説第8版』、373頁)。
 出版者が、本のコピーの許諾を求めてきた者に対し許諾を与えることができないということは、無断でコピーされても差し止めることができないことを意味する。電子的利用についてだけであったグーグルブック検索和解案において、その法律上の当事者になれるのかとい う問題は、このことに由来していた。
 「現実に不正な利用が行われた場合でも、著作権者は適切な対処を出版者に委ねる場合も多く、その場合、著作権者の権利と利益を守るために、出版者は相手方に対してアクションを取ることが必要になる。しかし、出版者に隣接権がなければ、信託譲渡を受けていない限り、出版者には訴訟当事者能力がなく著者の権利を守ることも十分にできない」(「出版者の権利について」日本書籍出版協会、2002年4月)。
 デジタル化・ネットワーク化時代を迎えたなかで、電子機器を用いた国内でのさまざまな著作権侵害行為ばかりではなく、海外での海賊版の横行、著作権侵害行為の横行は、ベルヌ条約締結の時代背景にあった、19世紀の状況以上に深刻なものがあり、これに対し有効な対策がとれず、著作権者も、また著作物の普及、伝達者である出版者も甚大な被害を被る結果となっている。

3 著作権者の権利を侵害する行為が、国内外で簡単に行われているにもかかわらず、その大半が個人である著作権者の力では、有効な対抗措置をとることも事実上不可能になっている。著作権者は適切な対処を出版者に委ねれば、負担も軽くなり著作活動に専念できる。そのためにも、著作権譲渡の習慣のない日本の現状では、出版者に著作隣接権を付与する方が合理的である。

4 出版権の設定も文化庁の出版権登録原簿に「登録しなければ、第三者に対抗できない」のである(著作権法第88条)。第三者に対抗とは、出版権者が、契約期間中に他の出版者から同一の著作物を出版する行為を差し止めることができることを意味する。ところが実際には、出版権登録は年間数十件と少なく、あまり登録されていない。事実上、出版権設定契約は出版者によって生かされていないのである。
 また、日本の出版界では、2006年3月に書協が公表した「出版契約に関する実態調査」の調査結果による、過去1年間(2004年4月から05年3月)の新刊書籍について、著者と書 面による出版契約書を取り交わしている割合は45.9%であった。流対協が2010年7月26日に集計した「電子書籍会員アンケート」でも、回答者63社のうち、出版契約書を取り交わすようにしている社が23社、半数以上は取り交わしている社が10社で、やっと半数を上回る程度で、書協アンケート結果と五十歩百歩あった。牧歌的世界ともいえる現状では、国際的なデジタル時代における多様な権利の侵害に対抗できないであろう。

5 出版権の設定については「出版権を出版者に設定するかどうかは、複製権者の意思に係っており、すべての著作物について出版権が設定されるわけではない。特に雑誌については、複製権者が出版者に出版権を設定することはまずなく、雑誌の記事が複製された場合は、出版者は保護を受けられない」(平成2年著作権審議会第8小委員会報告)。この意味でも、デジタル化・ネットワーク化時代に対応した出版者保護の観点からも、法的安定性に欠けるも のとなっている。

6 次に掲げる著作権審議会第8小委員会の結論は、デジタル化・ネットワーク化時代を迎えた今日、より重要性を帯びてきている。
「以上のとおり、本小委員会は、複写機器の著しい発達・普及という新たな状況に対応した出版者の法的保護について検討した。
 本小委員会の結論として、出版者に固有の権利を著作権法上認めて保護することが必要で あるとの意見が大勢を占めた。
 なお、出版者に固有の権利を付与することに対しては、一部の委員から、複写の増大が出版者の経済的利益に及ぼす影響について十分な調査が行われていないこと、現行法制の下でも欧米のような著作権譲渡契約等により出版者が自己の利益を確保できる可能性があること、国際的にも十分な合意が形成されておらず、国内的にもさらにコンセンサスを得る必要があること、といった理由から反対意見が出された。
 国際的にみて出版者に固有の権利を認める立法例は少なく、また、国際機関における問題の検討もその緒についたばかりのところである。そのなかで今や世界有数の複写機器生産国である我が国において、複写機器が近年著しく発達・普及している状況を考慮すれば、出版行為による著作物の伝達に出版者が果たしている重要な役割を評価し、複写を中心とした出版物の複製に対応した必要な範囲内で、出版者に独自の権利を認めることが適切であると考える。
 本小委員会はかかる形で出版者の保護を認めることが、我が国における学術・文化の一層の発展に資するものであると考えるものである。」

二 出版者に付与される著作隣接権の内容は、従来の印刷等による複製など複製権、送信可能化権など、デジタル化・ネットワーク化時代にあって、その流通形態に近似の要素が増えつつあるレコード事業者に付与されている著作隣接権が、出版者に付与されることが必要である。出版物は、頒布の目的を持って出版者の発意と責任において、編集、校正、制作し、文書又は図画としての著作物を最初に版に固定し(いわゆる原版)、発行(発売)された物で、媒体を問われない。出版者とは頒布の目的を持って発意と責任において、文書又は図画とし ての著作物を最初に版(いわゆる原版)に固定し、発行(発売)した者で、その権利の種類は以下のものが付与されるべきである。

 権利の種類
 許諾権
 1 複製権
 2 送信可能化権を含む公衆送信権
 3 譲渡権
 4 貸与権

 保護の始まり 頒布の目的を持って文書又は図画としての著作物を最初に版に固定した時
 保護の終わり 発行(発売)後50年


 以上の出版者への著作隣接権の付与は、そのことによってデジタル化・ネットワーク化時代において高度化し、複雑化し、国際化する出版物の権利許諾の一部を、出版を業として営む出版者に、著作物の普及、伝達を安定的に担わせ、もって著作物の流通と著作権者の権利と利益を擁護することを目的とするものである。

 以上、要望致します。